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「土」について知るほどに「命」の話になっていく『土と生命の46億年史』

本書は、地球誕生から現在に至るまでを「土」を軸に描いたもの。

地球46億年の歴史を丸ごと扱い、粘土を起点に生命誕生を説明し、現代の環境問題に接続する。土を主役に生命と地球史を再構成している。分子結合から大陸の運動を自由にあやつるスケール感と、1億=1年に換算して、地球を46歳のお母さんに例える視点が面白い。

著者は土壌学者、いわば土の専門家だ。スコップ片手に世界中を飛び回っては掘り返し、「人工的に土を作れるか?」というテーマを追いかけている。土フェチであり土のプロフェッショナルが、土を通して世界の見え方をひっくり返す。

土を中心に世界を考えるスタンスは、デイビット・モンゴメリー『土と内臓』や『土の文明史』と似ているが、本書はよりサイエンス寄りにまとめられている。。

土とは何か

一言で表すなら、土とは物質+生命のハイブリッドだ。

岩石が崩壊してできた粒子と、腐植の混合物になる。岩石が崩壊したものはイメージできる。砂や粘土といった粒子だろう。

では「腐植」とは?

動植物や微生物に由来する物質なのだが、まだよく分かっていないらしい。腐植の成分で、化学構造を特定したものは数十万種類に及ぶが、それでも全体の数%にすぎない。

つまり、腐植の大部分は構造が特定できず、名前すら無いことになる。リチャード・ファインマンは「自分で作れないなら、理解したと言えない」と書いたが、「自分で作る」以前に、構造や名前すら分かっていないことになる。

土は無機物だけでは成立せず、生物と土は循環関係にあり、生命が誕生する40億年前、さらにいうなら、陸上に植物が上陸する5億年前まで、地球に腐植は無かったという。

つまり、「土を作る」とは「生命を作る」ことと、ほぼ同義になる。

この難題に、著者はスコップ片手に熱帯雨林から永久凍土まで飛び回り、掘り返す。土の違いを、気候や植生、微生物や鉱物の観点から観察し、土とは場所ごとの無機物と生命との相互作用の結果であることを導き出す。

土のレシピ

さらに、「土のレシピ」を地球46億年史に求める。

土がどうやってできたかを逆算し、粘土→微生物→植物→動物の生命史から紐解く。生命の出発点として「粘土」に着眼する。粘土の吸着能力や電気的性質を解説する(化学記号がモリモリ出てくるが、イラストで理解を補完し、「苦手なら飛ばしていい」とまで言ってくれる親切設計)。

土の中の微生物の集合体を分析し、微生物どうしの相互作用と遺伝子交換に注目する(土は遺伝子の欠片の宝庫)。岩石を砕いた粉末を準備し、自然環境に埋めて長期間観察し、数十年スケールで、風化や微生物の定着、有機物の蓄積を追跡する。

ほぼ執念のように、岩から土への変化を人工的に再現しようとするのだが、結論としては、「土は作れない」になる。

土を構成する要素である粘土、腐植、微生物、そして時間の相互作用が再現できない以上、イチから土を作り出すのはムリゲーになる。極端に言うなら、土を作るためには、地球一個を丸ごとやり直す必要になるからだ。

土が生物を作り、生物が土を作った

土とは、生命由来の痕跡を含んだ、物質と生物の相互作用の場であることが分かる。

では、生命はどこから来たのか?

まず粘土があった。地球初期には鉱物としての粘土が形成された。粘土は粒径が非常に小さいため、同じ体積でも表面積が大きい。

さらにマイナスに帯電しており、カリウム・カルシウムなどの陽イオンを引き寄せる効果があった。そこに有機分子が吸着・濃縮され、反応が起きやすい粘土表面にバイオフィルムが形成されたという。粘土の表面という場で、原始的な生命の共同体が誕生したという。

普通の説明だと、原始のスープで有機物から誕生したとか、深海の熱水噴出孔における高温高圧反応からだとされる。だが本書では、粘土という「場」における相互作用から生命誕生の謎を解こうとする。これは面白い。

私自身、生命とは、何かが反応した結果の「存在」というよりも、外的環境とのやり取りの中で形を留めるプロセスのようなものだと考えているので、著者のアプローチはしっくりくる。

生命とは、どこからか合成されたものというよりも、物質と環境の相互作用の中から立ち上がってきた現象のように思えてくる(もちろん、地球外からやってきたパンスペルミア説は捨てがたいが……)。

土の歴史には、主人公がいない。目的もなければ、結末もない。あるのは、物質と生命の相互作用が連なっていくプロセスだけになる。

それでも、そこから全てが生まれている。



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