「なぜ?」を「いつ?」にすると上手くいく『「なぜ」と聞かない質問術』
「なぜ遅刻が多いの?」
「どうしてミスしたの?」
「できない理由は?」
職場や家庭で話をするとき、理由を聞きたくなる瞬間がある。問題解決のため、原因や課題を洗い出すための定番だ。
だが、『「なぜ」と聞かない質問術』は、この「なぜ」を使うなと説く。質問を「なぜ?」から始めると、事実の誤認や関係性がねじれ、議論が空中戦になり、コミュニケーションが上手くいかないからだという。
なぜ、「なぜ」を使ってはいけないのか?
「なぜ」は理由を聞いているようでいて、相手を問い詰め、言い訳を強要することになるからだという。例えばこう。
花子「なぜ遅刻が多いの?」
太郎「朝ギリギリで、電車に間に合わないことがあるので」
花子「じゃあ、余裕をもって起きてください」
太郎「はい……スミマセン」
質問者は純粋に知りたいだけかもしれないけれど、問われている方は責められているように感じている。ここから得られる解決策も、問題の裏返し(遅刻する←→早く起きる)になる。
「なぜ質問」は、原因や理由を聞いているようでいて、実は「(あなたは)なぜだと思う?」と聞いている。しかし、人である以上、とっさに理由や原因が出てくるはずがない。ましてや自分でも良くないと思っていることについて問われると、詰められているように受け取るだろう。
そこで出てくる「理由」は、思いつきレベルのものであり、事実に基づいた問題の把握や分析には程遠いものになる。こうしたやり取りは、どれだけ積み重ねても期待した解決には結びつかないという。
では、どうすればよいか?
本書では、「なぜ?」と聞きたくなったら「いつ?」に置き換えて聞けという。
花子「いつから遅刻が多くなったの?」
太郎「先月くらいからですかね」
花子「その前は?」
太郎「ほとんどなかったはず」
花子「先月と今月の違いは何だろう?」
太郎「あ!ダイヤ改正して乗り継ぎが上手くいかないからだ。一本早く乗ります」
他にも、「今月から残業が多くなり、十分な睡眠時間が取れない」とか「今月は飲み会が増えて朝起きれなくなった」といった理由もあるかもしれない。いずれにせよ、「なぜ」から始めた場合、本当の原因にはたどり着かない。
「なぜ」と聞いた時に出てくるのは、理由ではなく、「回答者が理由だと思い込んでいること」や「理由に見せかけた自己防衛のための言い訳」だという。
これを回避するためには、「なぜ質問」ではなく「事実質問」をせよという。
事実質問とは、「答えが1つに絞られる質問」と定義している。迷ったり考えたりしなくても、素直にシンプルに答えることができる質問になる。事実質問は、以下の特徴がある。
- 「なぜ?」「どう?」を使わない
- 「いつ」「どこ」「誰」「どれくらい」を使うか、「はい/いいえ」で答えられる
- 過去形・現在進行形
- 主語が特定されている
具体的には、以下のような言い換えをすることを推奨する。事実質問に言い換えることで、返ってきた答えに対し、さらに話を深掘りすることができる。
| 元の質問 | 言い換え後 |
|---|---|
| なぜ遅刻したの? | 今日はいつ家を出たの? |
| 会議、どうだった? | 会議は何時間ぐらいだった? |
| みんな、ふだん運動してますか? | あなたが最後に運動したのはいつだった? |
推論の梯子
これ、推論の梯子をやり直すときに有効だ。
推論の梯子とは、認識の前提を見直すためのメタファーだ(読書猿『問題解決大全』で知った)。
私たちは、何かを認識したり行動するとき、推論の梯子の上にいるという。
- 行動:私は確信に基づいて行動する
- 確信:私の結論は事実だ
- 結論:私は結論を引き出す
- 推論:私は自分が付け加えた意味に基づいて推論する
- 意味:私は(文化的・個人的な)意味を付け加える
- 選択:私は観察しているものから事実を選ぶ
- 事実:(ビデオに記録できるような)観察可能な事実や経験
ベースとなっているものは「事実」であっても、そこから何を選び、そこに意味を汲み取り、推論し、結論を見出し、行動するかは段階を踏んで行っている。本当はこのような段階を踏んでいるにもかかわらず、順番をすっ飛ばしたり無視すると、認識の違いが起きる。
自分の認知を再検討したり、相手との認識の相違を確認する際、この梯子を下りてゆくことで、どこからズレが起きているかを明らかにすることができる。
そして、一番下の事実である「遅刻が多い」からスタートして梯子を上るとき、「なぜ?」を持ってくると、認識が歪む可能性が高くなる。以下は、事実からの選択に「なぜ?」と問いかけた失敗例だ。
- 事実:太郎は遅刻が多い
- 選択:「なぜ?」という質問に、太郎は「ギリギリまで寝ている」と答えた
- 意味:花子は「ギリギリまで寝ている太郎は怠惰だ」という意味を加える
- 推論:花子は「太郎は怠惰だ」という意味に基づいてさらに問う
- 結論:花子は「太郎は怠惰だ」という結論を引き出す
- 確信:花子は太郎を怠惰だと確信する
- 行動:花子は太郎に「余裕をもって起きろ」と指示する
問題解決のための理由を考えるのは、推論の梯子の上の「意味」「推論」の段階だろう。だが、選択の段階で「なぜ?」と問うてしまっため、検討すべき事実に基づかないまま、推論が進んでしまう。
一方、「選択」の段階で、「いつから?」「その前は?」を問うことで、太郎に事実を思い出してもらうことができる。太郎に理由を考えてもらうのではなく、事実を思い出してもらうために、問い方を変える。
「なぜ?」を「いつ?」に変えるだけで、一緒になって事実を見直し、原因を探る建設的な会話になるのだ。
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