ふわっとした議論を終わらせる『解像度を上げる』
- ふわっとした議論
- 問題を裏返しただけの対策
- それは症状であって原因じゃない
- 説得力が弱い
言い方は色々あるが、結局のところ、取り組むべき課題が不明瞭な状態だ。「部門統合でシナジーを得る」とか「顧客満足度が低いから顧客満足度を上げる」など、何も言っていないに等しい妄言を聞くのもウンザリだ。
では、どうすればいいか?
この問いかけに対し、具体的に応えているのが『解像度を上げる』になる。
画像描写がキメ細かく、イメージが明瞭であることを解像度が高いというが、ビジネスの現場でも用いられている。物事への理解度や表現の精緻さ、事例の具体性や思考の明瞭さのメタファーとして「解像度」という言葉が用いられる。
解像度が高い場合、取り組んでいる領域について、明確で簡潔で分かりやすい答えが返ってくる。顧客が困っていることを深く知り、解決のためにどんな競合製品を使っており、そこでどんな不満を持っているかも把握している。その上で、取るべき打ち手と打つべき布石が、(その打ち手である理由・どうしてその順番かも含めて)納得させることができる。
本書では、解像度を高くするために「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つのアプローチから迫っている。
- 深さ:原因や方法を、細かく具体的に掘り下げる
- 広さ:考慮する原因や方法の多様性を確保する
- 構造:「深さ」や「広さ」の視点で見えてきた要素を、意味ある形で分け、要素間の関係やそれぞれの相対的な重要性を把握する
- 時間:要素の変化や機序、プロセスの流れを捉えることになる
本書は起業家向けのスタートアップ製品やサービスの例を紹介している。スタートアップが気になる人はそちらを参照してもらうとして、この記事では、私がいま取り組んでいる問題「加入中の顧客の離脱を防止する」に適用してみる。
「深さ」を掘り下げる
最初は「顧客が他社に移る離脱を防止したい」になる。具体性も何もない。
「深さ」は、何よりも事実ベースで原因や方法を考えろとある。だから、年間で見た解約率や、解約したユーザからのヒアリング調査(料金が高い等)に取り組むのが初手だろう。また、解約はどのタイミング(契約〇ヶ月目~1年目が全体の〇%)か、解約の前の行動(コールセンターへの問い合わせ)が洗い出される。
すると、割引キャンペーン終了直後に解約申込が集中していたり、解約の〇%が『解約申込の連絡の前に』何らかの問い合わせをしているといった事実が見えてくるだろう。解約の予兆が洗い出されるはずだ。
また、解約の主な理由として、「料金が高い」といった不満や、競合他社がさらに安価な提案をしている事実が見出されるかもしれぬ。解約リスクとなる予兆データ(加入〇ヶ月目で問い合わせが来た)がシステム連携されておらず、離脱防止に向けた全社施策につなげられていないことも分かるだろう。
こんな風に、現場や顧客にインタビューをして、事実ベースから洞察を掘り下げていく。掘り下げる問いは “Why so?” (なぜそうなのか?)を自問自答していく(いわゆるイシューツリー/ロジックツリーの下へ行くときの問いやね)。
ちょっと面白いなと思ったのは、”Why so?” だけでなく、”Why not so?”(なぜそうではないのか?)という視点も併せよという。例えば「なぜその課題がこれまでに解決されなかったのか?」という視点から考えるのだ。
すると、「これまでは事業の成長に重きを置いており、解約が課題視されていなかった」という問題も炙り出されてくるかもしれぬ。経営層は「新規獲得数」をKPIに重視しすぎており、そもそも顧客を維持するコストに投資していないといった不都合な事実が明るみ出てくる。
「広さ」を確保する
離脱防止のための方法や多様性(=広さ)を確保するために、視点を変えろと説く。離脱防止の課題について、顧客視点と社内視点で考えてみる。
顧客視点だと、サービスや自社の価値をどう見ているか?といった疑問に置き換えることができる。
そこから、サービスの価値を上げるために、料金や契約面の見直しが検討できるかの議論になるだろう。長期割引やより細やかな料金プラン、バンドルやセットサービスを思いつく。提携店舗とのポイント還元もありだろう。
さらに、AIボットによるサポートの充実、顧客満足度調査とフィードバックを定期的に実施する、地域イベント・社会貢献活動を通じてブランド・信頼を向上させるといった泥臭いやり方もある。
社内視点からだと、もっと顧客データを活用できないかといったアプローチになる。例えば、解約予兆モデル(利用低下や問い合わせ増・料金の変動)を作り、このモデルに沿った行動を取った顧客を事前にアラートし、ハイリスク顧客には特典やサポートを自動提示する仕組みを入れる。
本書で紹介されている「リフレーミング」を取り入れるなら、「解約する顧客」とは「継続しなかった顧客」になる。両者は同じなのだが、「継続しなかった顧客」というワードから、「継続した顧客」が導かれる。
すると、両者はどう違うのか?という疑問が生まれる。それまで(解約しなかった)普通の顧客として扱われてきたが、解約リスクのある期間で辞めなかった理由を調査する。「解約しなかった顧客」を分析することで、継続要因を特定できるかもしれぬ。
「時間」と「構造」で要素を整理する
順番的には、最初に「深さ」で事実ベースで要素を分解しつつ、「他にないか?」という視点で問題要素を広げていくのが「広さ」だろう。そこに「時間」軸を導入し、顧客ライフサイクルや季節性に沿って、解約が起きるタイミングを含めて要素を洗い出していく。
出てきた要素は、MECEを意識しながら関係性に応じて要素をまとめたり分けたりする。おそらくキレイなMECEにはならないだろうが(しなくてもいいが)、Excelでツリー図を広げていく。
この記事では、問題の精緻化と打ち手の検討を並行して行ったが、本書では、まず問題の解像度を上げろという。その上で、レバレッジポイントとなる課題(おそらくここでは「顧客を維持するコスト」)に取り組む。現実的に対応できる範囲で、かつ、課題を十分に解決できる打ち手を選べという。『イシューからはじめよ』にある「本質的で質の高い、かつ、答えの出せる問い」がこれになる。
優れた問題解決本に共通するのはここだろう。解くべき問題や意思決定すべき判断ポイントは、実際に取り組んだり判断する前に、問題そのものを見極めることが重要だ。
ふわっとした問題は、意思決定の速度も精度も奪う。解像度を上げる問いを続けることで、問題を見極め、課題に落とし、具体策に落とすことができる。そんな一冊。
| 固定リンク



コメント