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危機管理のプロが教える実践知『その対応では会社が傾く』

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「私は寝てないんだよ」

2000年に起きた雪印乳業の集団食中毒事件における社長の発言だ。

発端は停電事故の汚染だが、商品の回収や告知が後手に回り、被害が拡大した。結果、スーパーからは雪印製品が消え、トップが辞任。最終的に雪印乳業は解体され、メグミルクで再生した。

対応を見誤り、記者会見で頭を下げる経営層を見るたびに、このセリフを思い出す(マスコミに上手く「切り取られてしまった」感もあるが)。

企業のトップだから、その立場では有能で仕事ができる方だろう。だが、愚かとしか言い様のない問題発言をすることがある。あるいは、マスコミから逃げ回ったり、「ノーコメント」を繰り返して火に油を注ぐことがある。

トップの不手際に限らない。システム障害、社員の犯罪、顧客情報の流出、クレームからの炎上など、企業組織を揺るがす危機は、突然襲ってくる。

そんなとき、どうすればいいのか?

これを具体的に解説したものが本書になる。無味乾燥な「危機管理マニュアル」とは異なり、豊富な実例を下敷きに、「その対応は、どうすればよかったのか」「そこから得られる教訓は」をまとめている。

危機の初動

よくあるのは、何かの危機が生じたとき、きちんと事実関係を把握しないまま、その段階で記者会見を開いてしまう。結果、「原因はよく分からない」とか「責任は再発防止にある」などと、中途半端なことになるという。

だが、食中毒の疑いが食品会社にあるとき、情報開示を遅らせることはできない。被害の拡大を防ぐ必要があるからだ。とはいえ、事実や原因が分からないまま発表すれば、無用な混乱や要らぬ損害を引き起こす可能性もある。

そんな場合は、まず「現時点では」と断った上で、判明している事実と原因を公表する。それと同時に、今後の調査の予定や次回の情報開示の予定を示しておけと説く。

マスコミは特ダネを追いかける一方、自社だけが取りこぼされる「特落ち」を嫌う。だから、次回予告をする。「保健所の判断が出てから」とか「一審の判決が出てから」といったイベントをトリガーとしてもいいし、「明日〇時」という時間指定でもいい。

次回予告をすることで、記者に安心感を与え、過激な取材を抑制できるメリットもあるという。

これ、私の現場でやっている方法と同じだ。

プロジェクトが炎上したり、システム障害が起きたとき、原因がよく分かっていない段階で、顧客や上層部に説明する必要がある。「早くなんとかしろ」とプレッシャーをかけてくるのだが、思い付きのまま原因や対策を口走って上手くいった試しがない。

なので、「現時点では」と断りを入れた上で、確定状況を述べる。

  • いま目に見えている事象(炎上とか障害)
  • 想定される影響範囲
  • 原因の仮説(複数あるならあるだけ)
  • 原因の仮説ごとの想定打ち手
  • 次回の報告タイミングと予告(仮説の検証がどこまで進むかの見込み)

鉄則は、「事実」と「仮説」を分けて説明する点だ。具体的には、事実を述べる時は「事実として~」を頭につけて、仮説の時は「私の想定では~」と断りを入れる。

これにより、仮説の独り歩きを防止できる。メールやホワイトボード等の書きものには、<事実>と<仮説(意見)>とをカッコ書きで注記することで、後になって「話が違う」と言わせないようにするのだ。

ありがちなのは、原因が自社の責任ではない可能性があるとき、まだ仮説であるにも関わらず、それに飛びつくことだ。これ、上層部がやらかしがちで、「ウチじゃない」と言い張った挙句、間違った場合、尻ぬぐいはこちらになる。だから<仮説>だと明記することで、安易な責任転嫁に釘を刺しておく。

「鳥の目」と「虫の目」

また、危機の対策にあたり、2つの目が必要だという。

船場吉兆の事例が特徴的だ。名門の高級料亭だったのだが、2007年に食品偽装が発覚し、廃業に追い込まれたケースだ。

最初は「黒豆プリン」の賞味期限のラベルを張り替える偽装から始まったが、ゼリーやタルト、ケーキの偽装も発覚し、地鶏や味噌漬けの産地偽装も明るみになったという。最終的には、客の食べ残しを次の客に提供していたことまで暴露されていた。

なぜ偽装を隠していたのか?最初の発覚時に全て開示しておけば、このような事態には追い込まれていなかっただろうに……と思う。最初は上層部の指示で隠していたのだろうが、調査が不十分なまま会見に臨んでいたため、後追いで出てくる不具合に対処しきれなくなったのだ。

叱責を恐れて、現場は最小限のことしか報告しないということがある。雪印乳業のケースでも、現場は菌の増殖を把握していたが、後回しになったという。

懲戒処分を恐れる自己保身の心理からでしょうが、それが現場の習性というものです。「現場は必ず嘘を言う」を肝に銘じてください。同時に「露呈した不具合は氷山の一角」ということも。
『その対応では会社が傾く』(田中優介、新潮社)p.70より

一つの不具合が見つかったら、類似した不具合が起きていないか、水平に調査する。不具合の原因や影響から、別の不具合が起きていないか、垂直に調査する。本書では、ズームアップする「虫の目」と俯瞰する「鳥の目」という表現で説明されているが、大きな不具合が起きた時の水平調査・垂直調査はセットで考えろという。

ITエンジニアに当てはめるなら、障害の原因から障害区分を見て、そこから横展開(ヨコテン)する流れやね。

例えば、インタフェースの誤りで障害が起きたとき、調べたら新しいリターンコードが追加されていたのに通知が漏れており、そのコードに対応する処理が無かった……なんてことがある。「対応していないのはそのリターンコードだけ?」とか、「その通知だけが漏れていたの?インタフェース仕様変更に関わる全ての通知を洗い出して、対応済みだと言える?」といった観点で調べる。

言ってはいけない言葉

起きてしまった不祥事は取り消せないから、企業は腹をくくってコメントしろという。

ただし、その場で言ってはいけない「べからず語」も紹介されている。事態を鎮静化するチャンスとも言えるのに、火に油みたいなコメントをするトップもいる。例えば……

  • 誠に遺憾:「残念」という意味なので、申し訳なさが伝わらない、上から目線語
  • 誤解を招いた:(誤解した)相手にも半分の責任があると言っているに等しい
  • お騒がせした:起こしたことではなく、発覚したことを詫びているだけ
  • 知らなかった:知らないことが問題なのに、無責任な逃げ口上
  • 邁進する:責任を取らずに、そのまま居座りますという意味

よく聞く言葉だらけじゃねーか!

不祥事が生じた時、広報室は過去の応対例を検索しようとするけれど、それがダメだという。検索して出てくるのは、対応に失敗した事例ばかりだから。

じゃぁ何て言えばいいんだよ!というツッコミたくなる。

本書では、社員が刑事事件を起こした場合に、広報室や渉外担当がどのように対応すればよいかのケースで応えている。現行犯逮捕のようなものではなく、あくまで可能性があり、捜査が進行中の微妙なケース―――例えば情報漏洩など―――を想定する。

安易な情報開示は捜査妨害になるおそれがあるため、「捜査にかかわる事なのでコメントは控えさせて頂きます」で済ませたくなるかもしれないが、不愛想な印象があり、後に立件された場合、心証は悪くなる。

マイクを突き付けるマスコミを介して、「申し訳ない」という心証も伝えたい。とはいえ、司直の顔も立てたい。でもコメントはしたくない。ベストプラクティスとしては、これになる。

  • このたび報道されている事件については、関係者の方に多大なご迷惑、ご心痛をおかけしており誠に申し訳ありません
  • 現在、さまざまなお問い合わせをいただいておりますが、捜査の有無も含めて詳細な情報開示につきましては、司直の側の専権事項と認識しております
  • この段階で弊社がコメントすることは、事情聴取その他捜査にも影響を及ぼしかねないため、起訴の段までは控えさせていただきます

「申し訳ない」を最初に持っていくことで、まず詫びる。次に、コメントしない理由として、「司直を尊重した公益のため」を説明する。その上で、「コメントしない」旨を告げるのだが、どのタイミングでコメントするのかも一緒に伝える。

詫び言葉は、「相手の言いたいことを先に言う」ことを心がけよという。相手の「痛み」に理解を示し、それを引き受ける態度を示せという。

他にも、様々な危機管理の手法が紹介されている。

  • マスコミによる責任追及をどうやってしのぐか(=時間稼ぎするか)
  • 膨大な想定問答集(Q&A集)を調べながら会見するよりも、開示条件をまとめたQ&P(ポリシー)集を作る
  • ある条件を満たしたら自動的に対策を発動させる「サーモスタット型」の危機管理の勧め

広報室に「危機管理マニュアル」はあるだろうが、無味乾燥で実用的ではないだろう。本書を血肉化することで、より実践的で使えるものになるに違いない。




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