読んだら手遅れ『かわいそ笑』
読んだり聞いたり、そのお話に触れることで呪われる―――そんな物語がある。
例えば『リング』や『残穢』が有名だ。ビデオを観たり、そのお話を知ろうとする行為そのものが不幸を招くストーリー。
だから、『リング』や『残穢』を観たり読んだりした人は、そのストーリーに触れることで、伝染するのじゃないのかしら、と怯える。おしゃべりするときの飛沫や、空気感染のように、物語を媒介して、ウィルスがべっとりと付いている(憑いている?)ように感じられる。
『かわいそ笑』は、この汚される感覚を何倍にもして味わわせてくれる。
ただ、注意してほしい。これは「ホラー」と一言で済ませられる作品ではない。語られるのは呪いの恐怖譚ではなく、その物語のすぐ傍にいる人の悪意に焦点が当たっている。そしてこの悪意は読んでいる私自身に向けられている。
最初のページを開くとこれ。
「本ページに限り無断複製、転載を認可します」とある。行ってみると分かるが、この先で私もこの悪意に参加できる仕掛けが施されている。そして、最後のページを読んだら最後、このQRコードの先に生きたくなること請け合う。いわば、読者参加型怪談かもしれぬ。
あるいはメタ怪談、いや、メタ・メタ怪談といえばいいのだろうか。
元ネタはネットに落ちてた怪談だ。かなり古びており、コピペにコピペ、伝聞に伝聞を重ね、原形を留めていないほど改変された書き込みだ。
それに触れた人たちのインタビュー、匿名メール、心霊写真、ワードのメモ帳、……バラバラの断片を著者がつなぎあわせるたび、浮かび上がってくるのは、あまりにもたちの悪い悪意だ。いわゆる自己責任系怪談―――「読んだ人が呪われる話」よりも、もっとおぞましい。読まなければよかった、一刻も早くこの本を手放したい、この禍々しさを擦りつけたい、そういう気にさせてくれる。
著者がクリエイターとして参加している「恐怖心展」が、この夏、渋谷で開かれる。
[恐怖心展] より
「先端」「閉所」「視線」といった、
様々なものに対して抱く「恐怖心」を
テーマに、展示を行います。
そこで展示される様々なものを通して、
あなたの恐怖心に向き合うきっかけに
なれば幸いです。
私は、7/25(金)16:00 17:00 に入場するつもり。よろしければ、ご一緒しましょう(twitterで@メンションしてください)。
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コメント
自分メモ。
自分が自分でなくなる自己乖離、世界が少しずつ変貌していくことで自分だけが取りこぼされる恐怖、日常がズレる不穏さといった切り口で、パッと浮かんだのがこれ。エヴンソンはこの恐怖にぴったりやね。
エヴンソン『遁走状態』
ネッテル『花びらとその他の不穏な物語』
ボルヘス『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』
投稿: Dain | 2025.07.08 22:46
[恐怖心展]怖そうですよね。
怖い話にはつい惹きつけられてしまうので行きたい!と一瞬思ったのですが、生理的にダメなのがあって断念しました。こればかりは乗り越え難い。
投稿: 美崎薫 | 2025.07.13 19:24
>>美崎薫さん
コメントありがとうございます。
「恐怖」ではなく「恐怖心」である点がミソだと思います。怖さよりも嫌悪や忌避感を呼び覚ますような、幽霊よりも異形寄りのやつ。ウンベルト・エーコ『醜の歴史』で鍛えているので楽しんできます!
投稿: Dain | 2025.07.14 22:33