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人事評価の脆弱性を衝く7つのバイアス『人材マネジメントの基本』

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人には何らかのバイアスがある。そこから、あなたを評価する人が犯す過ちが生まれる。本書では、そうした評価エラーのうち、代表的なものを7つ挙げ、注意を促している。

1. ハロー効果
2. 期末効果
3. 逆算化傾向
4. 中心化傾向、極端化傾向
5. 寬大化傾向・厳格化傾向
6. 対比誤差
7. 論理的誤謬

こうした認知バイアスは、言い換えるならば、評価者を攻略する弱点だともいえる。バイアスを逆手にとって利用することで、自分の評価にゲタを履かせることだってできるかもしれぬ。

人事制度を攻略する

人事評価の攻略シリーズ。人事制度のハッキングの続き。

「なぜ、あの人が出世するのか?」「どうして、私は評価されないのか?」など、人事にまつわる様々なモヤモヤがある。

運の要素もあるが、会社が社員を出世させるルールは確かにある。このルールをハックすることで、「同じ仕事をしても出世しやすくなる」「結果が報いられやすくなる」行動様式を炙り出す。

前回は、人事「制度」に着目した。

上手くいっている会社の人事制度の構造の共通項である「目標管理シート」や「MBO(Management by Objectives and Self Control)シート」における脆弱性を炙り出した。Chat-GPTの支援で、より評価されやすいシートに改善し、半期~1年後に結果を出す方法を具体的に記した。未読の方は、上述のリンク先をご覧いただきたい。

今回は、人事「評価」に着目する。

実際に評価する「人」を攻略する。あなたを評価するのは上司だ。だから、上司がどのように評価するのかを分析し、その脆弱性を洗い出すことで、ハッキングすることができる。

ダシにするのは『人材マネジメントの基本』だ。これまでの人事評価の流れを振り返りつつ、ダイバーシティやテレワークなど、新たな潮流を取り込んで、今の評価基軸となっているものを解説したものだ。

具体的には、評価者のために、1on1を通じた「ジョハリの窓」を開く方法や、Yahooの「部下のための時間」、360度評価など、様々な技法が紹介されている。その一方で、評価の際に陥りがちな「罠」も併せて解説している。

評価者する人は、特別な能力を持っているわけではない。たまたま「評価者」としての立場にいるだけで、「上司」という役をしているにすぎない。

また、評価者は、対象となる人の行動をすべて把握しているわけでもない。見落としもあるだろうし、過大評価や過少評価の可能性だって大いにある。さらに、人事制度に則って評価はするものの、評価者がその制度に納得していないかもしれぬ。

そうした中で行われる評価は、どうしても歪みを生じさせることになる。システマティックに運用しようとすればするほど、制度と人事評価の間に立つ「人」に負担がかかり、評価者が持つバイアスが、そのまま評価の歪みにつながりかねない。

ハロー効果の利用法

評価エラーの中で最も多いのが、ハロー効果だという。

ハロー(halo)は英語で後光・降臨の意味で、まばゆい光が差してくると、目が眩んで光の前にあるものが正しく見えなくなってしまうことを指す(ハローエラーとも呼ばれる)。

よくあるのが、評価対象の優れた部分や目立つ箇所ばかりに目が行ってしまい、他の箇所の評価もそれに引きずられてしまうことだ。例えば、社交的な一面にフォーカスしてしまうと、営業力もあると誤認してしまうことだってある。

学歴や資格のグレードなど、「ハロー」に相当するものはいくつかある。幸運にもそうした要素を持っているならば、そうした要素が今の仕事にどのようなプラスをもたらしているかを強調するのはアリだろう(ただし、学歴や一部の資格は賞味期限があるため、いつまでも使い続けられるカードではないことを肝に銘じておこう)。

重要なのは、「この人はできる」と上司に思われることだ。これは、本当に仕事ができるかどうかよりも重要かもしれぬ。

では、そうした分かりやすい「ハロー」がない人はどうするか?

自分をプラスに印象付けるやり方は色々ある。きちんと整った身だしなみや、自信のある態度、ポジティブに取り組む姿勢を見せることで、「この人はできる」印象をもたらすことになる。同僚や上司との交流を積極的に行い、普段から良好な関係を築くことで、仕事の実力以上に「良く」見られることだってできるだろう。

「その通りかもしれないが、見てくれるとは限らない」というツッコミがあるだろう。なんでもオンラインのご時世、身だしなみや態度は伝わりにくいだろうし、ポジティブな姿勢をきちんと見てくれる上司は少ないかもしれぬ。

そんな場合は、「良い」という点を明確に言葉にして、上司に覚えてもらうのだ。1on1などで過去の実績を説明する際に、定量的で具体的な箇所を「数字で」強調するのだ。

例えば、「AIを用いたアドインを試験的に導入し、コード補完やエラーチェックすることで、前回よりもバグの発生を10件減らし、リリースまでの期間を4日間短縮できた」と述べる。単純に「コーディング作業をAIで効率化しました」というのではなく、「10件減」や「4日短縮」といった実績を数値にする。数字にすることで、覚えられやすく、思い出されやすい形にするのだ。

これは、「マクナマラの誤謬」とも呼ばれる。ベトナム戦争時のアメリカの国防長官ロバート・マクナマラが、あらゆる戦果を数値だけで評価したことに由来する。測定可能なデータを重視するあまり、重要な要素や質的側面を無視する誤謬を指しており、「ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』」で解説した。

ここでは、この誤謬を逆手にとって(悪用してとも言う)、「この人は実績を出した」と上司に思わせる。重要なのは、本当に実績を出したかどうかよりも、「上司にそう思わせる」ことであり、そのための数値なのだ。

期末効果の利用法

実績の数値化は、上司の上司にも効く。

あなたの上司はさらにその上から、「なぜこの人を評価するのか?」と問われることだろう。その根拠として、定性よりも定量が効いてくる。上司から上司への伝言ゲームでは、数字が伝えられやすい(「この人の改善によりリリースを4日も前倒しできたんです」ってね)。

前提条件が無視された数値が、あたかも絶対値のように議論される「数字の独り歩き」という言葉があるが、これはそれを悪用するやり方だと言っていい。

「実績が上司に覚えてもらいやすい」という観点からだと、期末効果バイアスも利用できる。

期末効果バイアスは、最後に示された情報の方が印象に残りやすく、結果、意思決定や評価においてその情報が強く影響を与えるという認知バイアスのことだ。これにより、後から得た実績の方が、より評価されやすくなる。

例えば面接の場面では、最後に面接を受けに来た候補者の方が印象に残りやすく、その人を有利に評価してしまうことがある。プレゼンやスピーチにおいても、最後のメッセージが聴衆に強く印象を残すことがあるため、結論やまとめの部分を効果的に伝えることが重要だという(いわば「シメの言葉」)。ディベートで後攻が有利だと言われるのも、期末効果バイアスによるものだ。

このバイアスを逆用するなら、評価されやすい実績を期末の近くで形にする。具体的には、上司が評価しやすい実績を期末に出せるようにコントロールする。人事制度のハッキングで示した目標管理シートの「期末」の欄に、定量的な数字の形で表しやすい実績を記述する

プロジェクトのスケジュールの都合上、期首や期中に実績が数値化されるのであれば、上司との1on1の振り返りの最後に、その数値を伝える。

あるいは、最後の1on1にしてもらう。上司は、振り返りの期間で、メンバー全員と1on1をする必要がある。そのメンバーの中で、可能な限り最後の面談にしてもらうようにするのだ。そうすることで、他のメンバーと比べ、あなたの実績をより覚えてもらいやすくなる。

こんな風に、評価エラーを逆用したり、評価者の罠を回避することで、同じ仕事をしても、より良い実績を残したのだと思ってもらう。認知バイアスをうまく活用して、効率的に高評価を得よう。

注意していただきたいのは、本書では、あくまでも「人事マネジメント」のお話であって、その悪用方法までは書かれていない。バイアスを逆援用するのは、これを参考にする「あなた」が工夫すべきことになる。

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