『プロジェクト・ヘイル・メアリー』好きにお薦め『太陽の簒奪者』
面白い本に出会うコツは「これ面白いよ!オススメ!」と公言すること。すると、「それが面白いならコレなんてどう?」とオススメ返しされることがある。その面白さは高確率で「あたり」だ。
『太陽の簒奪者』なんてまさにそう。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を気に入った人には、『太陽の簒奪者』(野尻 抱介)も好きだと思うんですよね。太陽光が奪われていくという導入と、人類全体でそれを解決しようとするというところは似ているのですが、展開はだいぶ違います。ともに名作だと思います!https://t.co/SVTDQmHngG
— Kazu SUZUKI (@kz_suzuki) February 12, 2024
野尻抱介『太陽の簒奪者』は、実は10年前に読んでいる。だから、ストーリーも展開もラストも全部知っている。
けれども、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだ身で改めて読むと、めちゃくちゃ興奮した。もちろん展開は全く異なるんだけど、物語世界への没入感覚が酷似している。
西暦2006年11月9日、水星から何らかの質量あるものが噴き上げられていることが観測された。宇宙望遠鏡で観測したところ、噴出物は鉱物で、水星の赤道上から射出されていることが確認された。
水星には大気がない。従って地表から射出されれば、そのまま宇宙空間に広がっていくことになる。噴出は継続し、鉱物は幅数キロのリボン状を保ちつつ、太陽を中心とする半径4千万キロのリングが出現する。
リングはしだいに明瞭になり、地球上から観測できるようになる。
肉眼では絹糸のように見えるリングは軌道運動をしておらず、太陽に対して静止している。太陽に落下しないのは、ソーラーセルとして動いているのだという仮説が立てられる。
さらに、リングが成長していることが観測される。毎日50キロメートル、植物のように幅が拡張していることが確認される。
このままだと50年後には太陽を覆う「リングによる皆既日食」が始まり、年間日照の10%が奪われることが判明する―――タイトルが『太陽の簒奪者』という理由はここにある。
そして、50年を待たずして壊滅的な寒冷化が始まるという気象学者の予測に、人類は危機に陥りつつあることを自覚する……という入口だ。
巨大なリングは、誰が、なぜ作ったのか。
リングの成長を止める手立てはないのか。
人類はどうなってしまうのか。
こうした疑問に対し、現代科学の技術の総力を注ぎ込むなら、何ができるのか? これを描いたのが前半だ(ここがヘイルメアリーしてる)。
だが、人類がやれることは驚くほど限られている。
例えば核兵器。あれは人間同士が殺し合うのには効率的でも、太陽系規模の脅威に対してだと、絶望的なまでに役に立たない。
だから、まずは現場に行って何が起きているのかを確認する他ない。宇宙船を作るのも飛ばすのも時間がかかる。
緊急事態だから、どうしても急ごしらえの船になる。限られた時間で、科学者を送り込み、かつ、現地調査しなければならない。現場は水星だから、太陽フレアやコロナ質量放出からの粒子が飛び交い、原子力エンジンからの放射線も脅威になる。さらには、機材の故障も考慮する必要が出てくる―――
この、「何を優先して何を犠牲にするか」と「冗長性をどうするか」についての沢山のアイデアと一つの決断が示されており、そこがリアルに感じた。
そして後半。ヘイルメアリーを読んだ方なら、「そうクるのか!」と別の意味で驚くだろう。もちろん全く違う展開だし、終わり方も異なる。でも、このテーマのSFにガチに取り組んでいる傑作だという点は請け合う。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とは別の読み応え・違う興奮にうち震えるべし。
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