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現代用語のエロ知識『アダルトメディア年鑑2024』

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FANZAに日参してるから、よく知っていると思っていた。だが、大まちがいだった。いかに自分は分かっていないか、エロがどれほど広くて深くて激しいかを思い知らされた。

『アダルトメディア年鑑2024』は、「エロ」と呼ばれる性メディアの現在を可能な限り網羅的に切り取ったものだ。マンガ、ゲーム、アニメ、実写動画、小説、音声といった媒体からの紹介や、商業・同人、合法・地下、生身・CG・生成AIといった切り口で、エロの今が詰め込まれている。

私が知ってるのなんて、マンガとゲームの中の、ほんのちょっぴりの欠片でしかなく、それでもって現代エロを語ろうとしていたのには恥ずかしくなる。

とはいえ、私だけに限ったことではないようだ。執筆者たちの座談会で分かったのだが、みんな自分の沼しか知らない。エロが好きだからといって、全ての沼に浸っているわけではなく、好きな所しか知らない。エロとはそういう、個人的で密やかなものなのだろう。そのため、他は知らないままイメージで語ってしまう人も多いという。

だから、本書のような「今のエロ」を集大成したものが貴重になる。

どこに勢いがあって、どんな変化が訪れているのかを知ることができるから。自分が触れているエロだけで、「エロとはこんなもの」という群盲象を評す状況から脱し、「今のエロ」を眺める、そんな一冊がこれ。

「音声」は無規制

例えば、いまアダルトとして存在感が増しているのが「音声」だという。

歴史的には2000年頃からあるのだが、完全に一つのジャンルとして定着している(本書でも音声だけで1つの章が割かれている)。嬌声が入っているエロカセットでドキドキしていた高校時代が懐かしいが、今では全くアプローチが違う。

まず、音の品質がめちゃめちゃリアルになっている。Neumann KU 100というダミーヘッドマイクを使った立体音響(バイノーラル音響)が紹介されている。

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これは人間の頭を模しており、両耳の場所にマイクロフォンカプセルが組み込まれている。この頭部に向かって音声を発することで、聴いている人があたかもその場所にいるかのような錯覚を与えることができる。

音像のリアルさがアピールポイントとなっており、これを充分に活かすために、シナリオは一人称視点で、マイクの前の声優がこちらに話しかけてくる体裁をとる。また、耳元でゾワゾワさせるASMR(自律感覚絶頂反応)も畳みかけてくる。

同人ボイスの沼は深い。初心者はどうすればよいか?

本書では「同人音声の部屋」というレビューサイトが紹介されている。個人で運営されているブログで、2013年から現在にわたり、2500点を超える大量の作品をレビューしており、信頼できる情報源だという。

試みに10点満点で紹介されている「【超密着×むちむちJK】ローションロッカー部【フォーリーサウンド】」を聴いてみたところ、これは完全にヤベぇやつだということが判明した。

思春期男子の性の悩みを解決する部活の話で、3人のJKと濃厚接触するという設定なのだが、ロッカーの中で 1 on 1 でローションにまみれる。狭い空間での密着感と臨場感がハンパなく、喘ぎ声や吐息、ちゅぱ音が至近距離で響く。

ショボいスピーカーで聴いただけなのだが、「音」だけでここまで凄いのかと感動する。甘い声が鼓膜を直接くすぐってくる。人間の舌だと、せいぜい耳朶や耳殻を舐めまわす程度だが(これでも十分えっちだが)、これは脳を震わせにくるやつ。耳と脳がダイレクトにつながっていることが分かる。

これ、良いイヤホンやヘッドホンで聴いたなら、それこそ顔の前で触れられてるように感じるに違いない。誰でもスマホとイヤホンを持っている時代だからこそ広がったジャンルとも言える。さらには、「スマホとイヤホンで聴く」という前提で物語が構成されるジャンルだとも言えるだろう(ローションロッカー部に限らず、1 on 1 で密着シチュエーションの作品ばかりだった)。

音声には他ジャンルにはないアドバンテージがあるという。それは、音声同人はどんなにエロく作っても、基本的に刑法第175条(わいせつ物頒布罪)には触れない所だ(ここ重要)。マンガや動画だと消しやら塗りやらモザイクといったグレーな部分が存在するが、音声は何でもありだろう。

生成AIの破壊力

生成AIの凄さは毎日のように実感している。

えっちなやつは特にそう。

成熟した身体に幼さの残る顔立ちの美少女(非実在)がいくらでも生成できてしまう。6本指だったりラーメンが食べられないなんてのは過去の話で、グラビアアイドルとして「ふつうに」見える。静止画のみならず、エロアニメーションもあるが、いわゆる実用度からするといまひとつといったところか。

しかし、自分が観測している範囲より、もっと複合的な展開を見せているようだ。

例えば、AIと実写の複合だ。「木花あい」という実在するAV女優で、Gカップの肉感的な体つきをしている。男優とのセックスも実際に行われている。ただし、顔だけがAIで生成されている。横を向いた時の表情に若干違和感があるものの、かなりの完成度とのこと。

これは、AVに出演したいと考えている女性にとって福音だろう。身バレ顔バレのリスクを懸念して二の足を踏んでいるこの問題は、AIによってクリアされるからだ。

アイドルや女優のコラ画像の動画版をディープフェイクというが、違法で野良扱いされている。「木花あい」は公式版のディープフェイクになるだろう。この流れでいけば、実在アイドルを生成AIの追加学習モデルに食わせて、3DCGのAVにしたり、顔が生身で身体が生成CGという組み合わせも可能になるかもしれぬ。

文字通りAIが破壊するのもある。

普通にAVを観ようとすると、局所にモザイクがかかっている。これに対し、AIを用いて画像を再現させたものだ。

もちろん元の画像は流出していない前提なのでモザイクを複合化しているわけではない。しかし、膨大な学習データから予測再現することなんてAIはお手の物だ。限りなく原型に近い状態で観ることができる。

「モザイク破壊」、英語だと「Reducing Mosaic」、中国語だと「無碼破解」になるという。女優名とこのキーワードで検索すると、ほとんどの作品があるという(よい子は検索しないように!特にキーワード+女優名で検索しちゃダメ絶対)。

なお、私用で使う分には、Githubに公開されているコードをダウンロードすることもできる。「モザイクを除去する」と謳った怪しげな機械が通販で売っていたが、今や指先一つで自動化できる時代になった。

「VR」は喋るAV

Beat Saberの動画を見ていると、Meta Quest が猛烈に欲しくなる。だが、このゲームのためだけに高額な機器を買うのは、ちょっと抵抗がある。

だが、そんな私に朗報だ。アダルトVR元年と言われた2016年から7年が経過し、アダルト作品が充実しているという。機器の性能向上に伴い画質もどんどん良くなり、没入感も上がっているそうな。

そして、VRの特性を活かした映像がどんどん出ているらしい。つまりこうだ、VRだから顔を向ける方向が見る方向になる。あるシーンを複数の視線(=カメラ)から再現するのではなく、そのシーンにいる自分の一人称に特化した視線で作成されている。

例えば、カメラを少し上に向けて騎乗位をダイナミックに撮影した「天井特化型」や、カメラを少し下に向けて臨場感のある正上位を撮影する「地面特化型」等があるらしい。普通のAVでも手持ちカメラやスマホ撮影で可能だと思うが、VRだとまた違うのだろうか?

面白いことに、アダルトVRで最も重要なのは、トークだという。

なぜなら、VRは長回しで撮ることが多いため、どうしても同じようなセリフを何度も言いがちになる。普通のAVであるならば、画角を切り替えたり接写することで同じセリフを違った目線で演出することができる。撮る方も観る方も視点が変わらないVRは、いかに喋りで新鮮さを出すかがポイントだというのだ。

特に、後にVR女王と呼ばれる「美咲かんな」。彼女は文才があってボキャブラリーが豊富のため、アドリブでのセリフがどんどん出てきたという。「気持ちイイ?」的なセリフだけでも10ぐらいバリエーションがあり、これが作品のヒットにつながったという。

VRの進化が画像をリアルにした結果、喋りによる差別化が露わになったと考えると、たいへん興味深い。

さらに、本書の表紙となっている「次元アイリ」が凄い。バーチャルアイドルは、それこそ山ほど現れては消えていったが、アダルトで3DCGでVRなのが新しい。18歳処女という触れ込みだが、完全なる非実在美少女といえるだろう。

今のところはVRで「鑑賞する」だけだろうが、もっと進むと、コントローラーでこちらから刺激を与えることができるだろうし、さらにインタラクティブに「体験する」ことや、そこからフィードバックを得ることだってできるかもしれぬ。

この先に、ソードアートオンラインやクラインの壺の世界があるかと思うとワクワクしてくる。技術は世界を変えていくが、その技術を社会に普及させていくのはエロパワーなのかもしれぬ。あるいは、サイバーパンクエッジランナーズにおける、性具と同期したVRに耽る世界か(AVと同期するオナホは既に売っているので、インタラクティブに反応するAIを組み込んだVRは、2077年を待たずに実用化されるだろう)。

エロのパワーが社会を変える

今のところ、時間とお金を惜しまない好事家だけが知っているLoRAやGithubやOculusの「技」も、そのうち、一般のご家庭でお手軽に利用できるようになるかもしれぬ。

一般家庭にVHSを普及させたのはAVだったとか、エロサイト見たさにモデム繋いでネットする人が激増したおかげで、インターネットが普及した……といった俗説を耳にする。エロスへの探求心こそが、社会を変えているのかもしれぬ。

その意味で、わたしの知らない世界を拡張してくれた一冊と言える。「におい」フェチの女子高生を描いた『香原さんのふぇちのーと』は知っていたが、凄腕のマッサージテクニックでJKの心と身体をほぐす『さわらないで小手指くん』は知らなんだ(ただ「さわる」だけでこんなにもエロいのか!と驚いた)。

ananがセックス特集を時折するのは知っていたけれど、Webメディアに出ている雑誌系に、今時の女性の恋愛観がセキララに綴られているのを知らなんだ。例えばこれ。

男子禁制女子トーク:秘密のanan
彼氏が欲しいお悩みから笑える恋愛小話まで:ar
恋愛と婚活の悩み+男性心理研究:MORE
メンヘラ系が充実している:WithOnline
エロい告白を集めた:エロコク

いわゆる「女性のホンネ」的なものは、SNSやテレビで伺い知るしかないのだが、出版社のウェブ経由だと過激なものが交じってくる。「ネット」と「エロ」といえば男の独壇場だと思っていたが、それは勝手な思い込みのようだ。

他にも、「闇に葬られたフェミニストAV」「本業と副業が逆転した同人業界」「現代の闇市パトロンサイト」など、知らない沼ばかりなり。エロスのパワーは社会を変える。未来が変わるとしたら、その胎動はここから始まっていると感じられる。

現代用語のエロ知識が詰まった冒険の書。

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