アマプラ最高のドラマの探し方から、1,000頁1kg超の鈍器本、人生を変えた詩集、自信喪失なときに効くセリフまで、声に出して読みたい/聞きたい/語りたい作品をお薦めしあうオフ会報告
好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会、それがスゴ本オフ。
本に限らず、映画や音楽、ゲームや動画、なんでもあり。なぜ好きか、どう好きか、その作品が自分をどんな風に変えたのか、気のすむまで語り尽くす。
この読書会の素晴らしいところは、「それが好きならコレなんてどう?」と自分の推し本から皆のお薦めが、芋づる式に出てくるところ。まさに、わたしが知らないスゴ本を皆でお薦めしあう会なのだ。
今回のテーマは「音読」、声に出して読みたい/聞きたい/語りたい作品が集まってきた。それだけでなく、音読を実践してきた方のメリットや、教育現場における音読の効果、『白浪五人男』を元に実際に音読をしてみるといったフィードバックが得られたところ。
アツく語られた作品のなかからいくつか紹介する。リアルタイムでのtwitter実況のまとめはtogetterスゴ本オフ「音読」をどうぞ。
1,000頁の鈍器本を音読破する
俎上に乗ったのは『虚数の情緒』(吉田武、東海大学出版部)、これな。
存在感がスゴい
重量は1.4kgで、掴んだ感じがほぼレンガ。よしおかさんが持ってきたやつは付箋だらけで、めちゃくちゃ読み込んでいることが一目でわかる。
数学の独習書の体裁だけど、歴史や文化、力学や素粒子論など、虚数を軸にして全方位的に語り尽くされている。「中学生から読める」という触れ込みだが、奥はめちゃめちゃ深く、オイラーの公式を手動で確かめるところまで掘り下げている。
わたしの場合、最後までたどり着くのに青息吐息だったけれど [レビュー]、よしおかさんはこれを全部音読したとのこと。すげぇ!
でも、こんな殺傷能力の高そうな鈍器本を、なぜ「音読」しようと思ったのか?
コロナ禍で色々と制限されていたころ、音声SNS「Clubhouse」が流行り出したので、使ってみたという。読書猿さんの『独学大全』に啓発されて、鈍器本を音読してみようと思い立つ。
で、最初は『独学大全』を音読してみたという(これも700頁超の鈍器本)。黙読と違って、ゆっくり音読すると、自分が理解していないところがよく分かる。すらすら読めない、つっかえる、読めない漢字がある……等、つまづいている所が即ち、理解できていない箇所になる。
で、『独学大全』を音読で踏破できたので、調子に乗ってカーネマン『ファスト&スロー』やダーウィン『種の起源』も音読してみたという。
それも上手くいったので、「数学と仲良くなりたい」という動機で、『虚数の情緒』に手をのばす。これを毎日すこしずつ、11ヶ月かけてClubhouseで音読する。
グラフや図表がふんだんにあるけれど、それも一つずつ言葉で説明していく。Clubhouseは音声オンリーなので、「図や絵を言葉で伝える」ために表現を工夫する必要が出てくる。
面白いことに、ネットの向こうには聴いている人がいて、その人も同じ本の同じページを開いているのに、受け取り方が違ってくることがある。「声」で伝えるための試行錯誤を繰り返すうちに、自分が読めていなかったところ、見落としていたところを、改めて発見できたのが大きいという。
これは、読書猿さんが言っていた「同じ書を読む人は遠くにいる」をSNSで実現したものだな。独学は孤学じゃないとも言っていた。
わたしも音読やってみよう。毎日読んでる本は、”Merriam-Webster's Vocabulary Builder”なので、ここからやってみよう。
日本語のリズムを肌感する「知らざあ言って聞かせやしょう」
やってみて楽しかったのが、「知らざあ言って聞かせやしょう」の音読。淳子さんが持ってきた、「白浪五人男」の名ゼリフになる。
「白浪五人男」は江戸時代から大人気の歌舞伎の演目だ。白浪(=盗賊)の5人男が織りなすピカレスクロマンで、口上を聞いたことのある方もいるだろう(わたしはNHK教育「にほんごであそぼ」で耳にした)。
大泥棒の弁天小僧が女に化け、大金を騙し取ろうとする。百両を手にまさに去ろうとするとき、居合わせた侍が正体を見抜く。
正体がバレた弁天小僧が居直って、自分の出自やこれまでのいきさつを語りだす。
知らざあ言って聞かせやしょう
浜の真砂と五右衛門が
歌に残した盗人(ぬすっと)の
種は尽きねぇ七里ヶ浜
その白浪の夜働き
目で文章を追っていると気づきにくいのだが、声に出して音を聞くと気づく。
これ微妙に五七五になっていて、意味と韻と踏んでいて、リズムよく謳うようにできている。一息で発声できる韻律の限界まで引き出せて、なおかつラップのように軽やかに駆けるように語れる。
これをちょっとアレンジして、一人で全部音読するのではなく、複数人でやるのだ。つまり、最初の一行を一人目が、二行目を二人目が……と順々にフレーズをつなげていく読み方だ。
合唱というか輪読の音読みたいで面白い。自分の番が来た時、どういう風に熱を込めて(あるいはサラリと)読み切るかを考えながら発声すると楽しい。これ、やってみると必ずそうなるのだが、だんだんヒートアップしてきて最後は大見得を切るみたいになる。
自己紹介の語りなのだが、ナレーション的な説明も混じっており、物語を知らない人でも分かるようになっている。フーテンの寅さんの「帝釈天で産湯を使い」と同じだね。
サラッと思い出せるのは、やはり五七五のリズムが身体で覚えているからなのだろう。語の調子に合わせて記憶がイメージと共に紡ぎ出されるのは、言葉とは書きつけられた抽象的なものよりも前に、身体に刻まれたものだからかもしれない。
「知らざあ言って聞かせやしょう」は、1862年、今からおよそ150年前の演目だが、現代のわたしにもそのリズムが伝わっている。例えばこの大見得は30年前のものだが、120年後の日本人も覚えていそう。
月に代わってお仕置きよ!
同情するなら金をくれ
江戸川コナン、 探偵さ
アマプラ最高のドラマを見つける方法
やすゆきさんに言わせると、難しくないらしい。
Amazon Prime には大量のドラマがラインナップされているが、面白いか、そうでないかは比較的簡単にふるいにかけられる。
その基準は「シーズン数」なり。ドラマで「シーズン1」「シーズン2」とある。一つのシーズンが、だいたい10話から構成されており、そのシーズンで一つの結末を迎え入れる。デカい事件を解決するとか、大きな脅威をなんとかするとか。
で、面白いドラマだと、このシーズン数が多くなる。言い換えると、アカンやつだとシーズン2とか3で力尽きる。ドラマの内容如何というよりも、再生回数という数値が絶対基準になっている。
もちろん、これから面白くなりそうな予感がする、あるいは鉄壁の脚本家+演出家+俳優の布陣だったとしても、シーズンが延びなければ、それはそれ……という非常な判定基準になる。いわばジャンプのアンケートと一緒で、どんなに思い入れがあっても、数が足りなけば容赦なく切られる。
その激しい競争の中で、「シーズン7」まで結果を叩き出しているのが、「BOSCH」シリーズになる。やすゆきさん曰く「めちゃめちゃ面白い」。
「BOSCH」は、ロサンゼルス市の警察刑事ハリー・ボッシュが主人公の連続ドラマになる。さまざまな思惑に翻弄されながらも、正義を貫こうとする硬派なストーリーなのだが、普通のミステリードラマとちょっと違うらしい。
それは、「一話完結型」でないこと。
通常なら、事件が起きて、それを解決する、という一連の流れが、だいたい一話から二話にかけて構成されている。だが、「BOSCH」はそうではなく、一つのシーズンをかけて、一つの事件が解決される。
それも、一つの事件がまだ解決しないまま、別の事件が始まったり、その事件がまた別の事件に微妙に絡み合ったり、伏線になったりと、ストーリーそのものに複雑に巻き込まれる構成になっているそうな。
一話完結でなく、一シーズンでデカい謎が解かれるといえば、(ちと古いが)「ツイン・ピークス」を思い出す(まぁアレは、「犯人はヤス」というくらい一言で伝えられるくらいシンプルなオチだが)。
だがBOSCHはシーズンを多重に多層に積み重ねられるくらい練られているようなので、楽しみ(在宅勤務のランチのお供になる)。
紹介されたのは、ボッシュとその娘の会話のシーン。シーズン5、エピソード8のごく短いシーンなのだが、互いが互いをどんなに大事にしているかが伝わってくる。
潜入捜査で家に帰ってこれなかったボッシュと、事情を知らない娘の会話になる。連絡をしてこなくてヤキモキしていた娘の心配と、それを知りつつ電話することが死に直結するリスクであることを(言い訳と知りつつ)言葉少なに伝える父、そして「今までに何人殺したの?」と問うてくる娘の本音が分かるとき、彼女の悲痛が胸に迫る。
これ、英語がほとんど聞き取れない私でも胸に響く(How many~ぐらいしか分からなかったけれど、刺さった)。
人生を変えた詩集
このオフ会は、いわゆる「課題図書」を決めない。
掲げたテーマに合っていれば、どんな本でも(本でなくても)持ってきてお薦めすればいい。だから、集まってくる本は種々さまざまで、バラエティ豊かなのが魅力の一つとなっている。
それにもかかわらず、ごくまれに「被る」ことがある。
それは、高確率で(というよりほぼ100%で)大当たりの一冊になる。
今回は、中原中也詩集だった。
常連のすぎうらさんと、初参加のいとうさんのお二人が、「声に出して読むなら中原中也、人生を変えた一編の詩がこれ」と、岩波緑を持ってきた。
若かりし頃のすぎうらさん、デザイナーをやっていて、潜り込んだバイト先でいつも流れていたJ-WAVEで耳にしたのが、鹿賀丈史が朗読した中原中也の詩だったという。ハードなバイトで朦朧としていた耳にスッと入ってきた声と意味にガツンとやられたのが「山上のひととき」になる。
ネットにいくらでも「落ちて」いるコンテンツの中から、この一編を検索することは、正直言って、とてもカンタンだ。だけど、この一編を自分の声で朗読して、その重さを測るのは、とても個人的な経験になるだろう。
私は手で風を追いのけるかに
わずかに微笑(ほほえ)み返すのだった
この一文が、「抱きしめたくなるほど好き」という気持ちは、音読すると分かる。
そして初参加のいとうさんイチオシが「一夜分の歴史」になる。
いとうさんに言わせると、詩人の中でも、中原中也は別格になる。ふつう詩は、視覚や聴覚といった人間の三次元的な感覚の表現になる。けれども中原中也は、しかもこれは特に、四次元的な説明がされているという。
「四次元的」というのは、人が体感できる三次元に「時間」の感覚が加わったもので、「人はいつか絶対に死ぬ」ということがひしひしと分かる。この詩を書いている中原中也は確かに生きていて、それでも絶対死ぬのは確かで(人間だから)、でも私が読んでるときは彼は(自分は)もう死んでいるのだ、ということを中原中也は分かって書いているのが伝わってくる―――という、いっぷう変わった紹介の仕方をしてくるのだが、音読すれば分かった。
萩原朔太郎150周年のイベントで、中原中也の詩を読んだ猛者がいて、その瞬間、会場の空気が一変したというエピソードもすごかった。音読するなら中原中也、覚えた。
ちなみに岩波緑はAmazon Unlimitedの読み放題に入ってる(わたしは早速ダウンロードしたぞい)→中原中也詩集 (岩波文庫)
お前の信じる、お前を信じろ
わたしのお薦めはこれ。自信を失った時、前に進めなくなったとき、呪文のように唱えたいセリフがこれ。
天元突破グレンラガンで、自信を失ったシモンに断言するカミナ。
ロボットアニメ史上、最大のロボットが登場するアニメ『天元突破グレンラガン』のワンシーンだ。左にいるアニキは「カミナ」、天上天下、俺様最高というアニキだ。で、右にいるのがシモン、すごい才能を秘めながら「できない」と尻込みする小心者だ。
そんなシモンに、「お前はできる、それを信じろ」と断言する。カミナは、合計3回、断言する。
1回目、自分のことが信じられないなら、無理に信じる必要はない。だから、その代わりに、俺を信じろという。
お前を信じるな!
俺を信じろ!
お前を信じる、俺を信じろ!
2回目、ある出来事によりショックを受けて、大事なときに力を発揮できないシモン。「でも、できないんだ」と駄々をこねるシモン。そんなシモンに、「歯ぁ食いしばれ」と言って一発殴ったカミナのセリフがこれ。
お前が迷ったら俺が必ず殴りに来る!
だから安心しろ!
お前のそばには俺がいる!
お前を信じろ!
俺が信じるお前を信じろ!
そして最後、絶体絶命の状況で、それでもやり遂げようとするシモンに絶叫するアニキのセリフ。
いいかシモン、忘れんな
お前を信じろ!
俺が信じるお前でもない
お前が信じる俺でもない
お前が信じる、お前を信じろ!
これ、言われるたびにシモンが成長していくのが分かる。そして、聞いているこっちも「自分を信じる」ことがビシビシと伝わってくる。
このシーンが終わっても、このアニメが終わっても、この「お前を信じろ」はずっと残る、一生かけて支えになる。我が子に『鋼の錬金術師』と『天元突破グレンラガン』を全話踏破させたので父親として勤めは果たしたといえるくらいのセリフなり。
音読のお薦めリスト
こんな感じで集まったお薦めのリストはこちら。たいへん楽しいひとときだった。
次回のテーマは「マンガ」、これ、収拾がつかなくなるほどすごいのが集まってきそうなので、楽しみだけどちょっと怖いwww
日程や詳細は、facebook「スゴ本オフ」をチェックしてくださいませ。
『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン(早川書房)
『中原中也詩集』大岡昇平編(岩波文庫)
『天元突破グレンラガン』 ガイナックス・アニプレックス
『徒然草』(林望、祥伝社)
『なぜ私だけが苦しむのか:現代のヨブ記』クシュナー(岩波現代文庫)
『口訳 古事記』町田康訳(講談社)
『宇治拾遺物語』所収「奇怪な鬼に瘤を除去される」町田康訳(河出書房新社)
『告白』町田康(中央公論新社)
『極夜行』角幡唯介(文春文庫)
『Bosch』Amazon Prime
『知らざあ言って聞かせやしょう(白浪五人男)』
『黄色い雨』フリオ=リャマサーレス(河出文庫)「虚数の情緒」吉田武(東海大学出版部)
『おはなしのろうそく1』東京子ども図書館編(東京子ども図書館)
『マルコムX自伝』マルコムX(アップリンク)
『NO RULES』リード・ヘイスティングス(日本経済新聞出版)
『三体』劉 慈欣 (早川書房)
『ロボット』カレル・チャペック(中公文庫)
『犯罪小説集』谷崎潤一郎(集英社文庫)
『ABCの本 (安野光雅の絵本)』(福音館書店)
『学習指導要領 国語』
『熊の場所』舞城王太郎(講談社)
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コメント
「How many people have you killed?」は確かに聞きやすかったです。マディの女優さんの演技力で聞けたとしておきましょうか(よいシーンです)。
その前の「Did you kill someone?」と字幕は出るんですが「Did」が何度聞いても聞こえないので、某CMの「聞こえないんじゃない!最初から言ってないんだ!」を思い出します。でもこれ、調べてみるといろいろと意見を言われてる方がいるので、英語のリスニング能力がない私は聞こえませんが、ほかの人はきこえるんですねということにしておきます。
この「How many people have you killed?」については、一話で答えてます。「I don't know. I was in the military, first Gulf War. Re-upped after 9/11. I
did a tour in Afghanistan.」
ボッシュシリーズは、これが日本で地上波などで放送していたら「ドラマ化決定!」で新書が出ていたのでしょうが、現在は入手先が古書店しかありません。それが残念です。
投稿: 関西人 | 2024.02.09 22:20
>>関西人さん
ボッシュシリーズ、このオフ会をきっかけに見ました。「How many people have you killed?」の件はありましたね。ですが、最初の数話で止まっているところです(アマプラでいつでも見ることができると思うと、見なくなってしまう……)
投稿: Dain | 2024.02.09 23:04