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ITスキルを「本」で高める『技術書の読書術』

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ネットがあるでしょ?

わたしもそう思っていた。

ITスキルに限らず、新しい技術や分野を学ぶとき、最初にすることは検索だ。ネットで紹介されている記事やノウハウを読むことで、どんなものか把握できる。無料で最新の情報が手軽に手に入る。お金をかけずに学習できるメリットは大きい。

一方で、ネットで検索するためには適切なキーワードを入れる必要がある。

知りたいことがピンポイントで言語化できるなら、かなり便利だろう。だが、そもそもどんな用語を入れたらよいのか、その言葉すら分からない段階では、ネットを使いこなすのは難しい。自分に何が足りないのかは、自分には見えにくい。知らない知識は検索すらできない。

いわゆる探求のパラドクスだ。知らないことが何であるのか分からないのなら、「それ」を学ぶことすらできない。行き当たりばったりに学んで、「それ」に行き当たったとしても、「それ」が何であるか分からないのだから、行き当たったことに気づかない。ネットの海に「それ」の正確な情報が無いとしても、無いということすら分からない。

なぜ「本」なのか

そんなとき、「本」が役に立つ。紙媒体であれKindleであれ、本というパッケージに体系的にまとまっているのだから。ある分野について、知っておくべき用語や技術が整理されており、適切な一冊を読むだけで、ある程度押さえることができる。その本を取っ掛かりにして、検索のためのキーワードを手に入れることができる。

では、その「適切な一冊」をどうやって選べばよいのか? その一冊をどう読めば効率的に身につけられるか? さらにはどうすればそのスキルを自分の武器として扱えるのか?

こうした疑問に答えたのが、『「技術書」の読書術』である。

本書は、コンピュータ書やIT技術書と呼ばれている分野に絞り、探し方と読み方、血肉化のノウハウを惜しみなく開陳する。いわゆる読書術を紹介する本は多々あるが、技術書に特化している点がユニークだ。プログラミングや開発技法の習得や、IT資格試験の対策にお悩みの方に効いてくる指南本である。

どう探すか? ⇒ 2台目の掃除機

どう探せばよいのか? これから学ぼうとしている不案内な分野だから、「適切な一冊」にたどり着くのも一苦労だろう。

そんな初学者にとって「2台目の掃除機」という考え方が役に立つという。

家電量販店に行って「掃除機が欲しい」と言ったところで、自分が欲しいものが出てくるとは限らない。店員さんが売りたい掃除機になるかもしれないし、売れ筋のやつになるかもしれない。だが、「2台目の掃除機が欲しい」というと、対応が変わってくる。

1台目の掃除機で不満な部分があり、それを解消したいのか、あるいは、1台目では扱いにくい箇所を補うのか等、ニーズがはっきりしてくるだろう。

この考え方で探せという。今まで読んできた本では解決できなかった点を、2冊目の本を探す目的にする。単純に「Pythonの本が欲しい」よりも、「やりたいことから逆引きできる」「既存の業務(Excelやメール)を自動化するための」「画像処理を特に詳しく」といった目的が出てくる。

次の1冊を読む目的をはっきりさせることで、より「適切な一冊」に近づくことができる。

それを読むのは「いま」なのか?

「手を動かしながら読め」「再読せよ」といった鉄則が並んでいるが、特に良いなと思ったのは、サンクコストの考え方だ。

一般書と比べると、技術書は高価だ。翻訳書が多く、4千円、5千円はザラだ。そのため、自分の身の丈に合っていなかったとしても、なんとか読み通そうとしがちだ。せっかく高いお金を出して買ったのだから、勿体ないという考え方だ。

本書は、そうした考え方に対し、「それを読むのは『いま』なのか?」と疑問を突きつける。合わない本に時間をかけることの方が、より勿体ないという。

いわゆる「サンクコスト」(sunk cost、埋没費用)のことだ。〇万円も費やして育成してきたソシャゲが止められないとか、これまでの投資額が勿体なくて損切りできないとか、様々なパターンがあるけれど、読書の場合も同じことが言える。

本書は、その本を最後まで読むのにかかる時間も含めて考えよと説く。無理して読んでも身につかないことが見えているなら、そこにかける時間を別の方に費やしたほうがお得でないか、と考える。

著者は、合わないと思った時点で「いま」読まなくてもよいと判断し、残りは読み流してしまうという。技術書に限らず、これは私も実践している(懐を痛めた本だと難しいが、勿体ないのはお金よりも時間だからと割り切る)。

論文の相関をビジュアライズ「Connected Papers」

本書に教えてもらった一番うれしい情報は、Connected Papers の存在。

Google Scholar で論文を検索しても、その論文と関連する論文が見えにくい。もちろん並んだ順番にクリックして概要を読んでいけば関連は掴めるが、どこまでリンクを辿っていけばよいかキリがないし、関連の太さも類推するしかない。

これを一目でわかるように解決したのが、Connected Papers になる。

論文名を入れると、その論文を引用した論文、さらにそこから引用した論文の関連性を、ネットワークグラフで視覚化してくれる。関連性の高さが円の大きさと距離で表現されており、どれくらいの近さ(遠さ)なのかが見えてくる。

さらに、引用/被引用の連鎖のみならず、共通の引用物や参照物があるかも反映してくれる。先行研究を集めるとき、どの順番で手を付ければよいか分かるので重宝するだろう。そして、自分の研究がこの図のどこに位置することになるのかの指針にもなってくれるだろう。

“Metaphors We Live by”の検索結果

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他にも、「自分に近い技術者の書評から本を探せ」「単一の技術のナンバーワンは難しいが、複数の技術のANDのナンバーワンは目指しやすい」など、学び続ける技術者にとって力になりそうなノウハウが紹介されている。

ただ漫然と読むのではなく、自分の技術を高める読み方、血肉化の仕方を探している人にはうってつけの一冊。



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