生成AIが文学に与えた衝撃から生まれたアンソロジー『AIとSF』
初めてChatGPTを触ったとき、Googleを触ったときと同じく、世界が変わる確信めいたものを抱いた。成果が著しいのはアートやプログラミング分野だが、思考様式やライフスタイルまで及ぶだろう。
だが、どのように変わるのか?
一つの答えがSFの形で示されている。その最新を集めたのが『AIとSF』だ。
いま、「一つの答え」と書いたが、ひとつどころではない。『AIとSF』には、22もの短編が集められている。つまり、22もの最前線が一度に手に入る。
現在進行を延長し、いかにも「ありそう」な射程を捉えた未来から、「いま」を少しズラした世界線、あるいは予想のナナメ上空をかっ飛ばす「ぶっちゃけありえない」未来まで、色とりどりに並べられている。
バラエティ豊かなラインナップだが、まとまっている作品が多いような気がした。
「まとまっている」とは、その作品の中で未来が閉じている物語だ。様々なガジェットやギミック、社会制度が登場しても、それらはストーリーのオチや展開に回収されていく。星新一のショートショートで見かける、あたかも物語のために世界があるような未来だ。
一方で、ひらかれた未来があって、その一片を削り取って物語の形で見せてくれる―――そういう作品が好きだ。全体は見えないけれど、感じることができ、次のお話を続けて見たいような、そういう断片である
例えば、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のいちエピソードや、映画『未来世紀ブラジル』の冒頭になる。人間心理を完全に管理した理想社会はすでにあり、その断片が一つの事件や一人の視線で切り取られる。エピソードやシークェンスが続くことで、次第に全体が見えてくる、その第ゼロ話となるような作品だ。
この意味で、以下が秀逸だった。アニメに喩えるなら「第2話が見たい」やつ、「最終回は監督でガラリと変わる」作品だ。
- Forget me, bot 柞刈湯葉
- シンジツ 荻野目悠樹
- 友愛決定境界 津久井五月
- セルたんクライシス 野尻抱介
残念だったのが、あらすじや世界設定に触れる紹介ページを、各作品の冒頭に配置したところ。物語のさわりにガッツリ触れている紹介もあるため、「読み進めることで世界を知る」楽しみや驚きが削がれてしまっている。熟練のSF読みなら、これがヒントになって展開やオチまで分かってしまうだろう。
おそらく、読者に美味しいところをつまんでもらうための構成なのだろうが、もったいない。本書を手にする人は、いったん紹介を飛ばして、作品を読んだ「後」に戻って参照すると良いかも。
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