1冊の単語帳を610日かけて全読したら語彙力が1万語になった
きっかけは、読書猿さんとの飲み会だった。
「海外の記事やSNSを読むのに英語力が足りない。しゃべれなくても書けなくてもいいけど、スラスラ読めるようになりたい」と愚痴ったところ、「まず2万語」と言われたのが最初だ。
語彙力こそパワー、ボキャブラリーを増やすぞとばかりに選んだのがこれだ。
理由は、英語を学んできた人たちの評価がダントツだったことが一つ。もう一つは、お試しで手にしてみたところ、「ちょっと難しいけれど、頑張れば読めないこともない」というレベルだった点だ。
本書を610日間かけて読み切った結果はこうなる。Preply のボキャブラリーテストによると、ほぼ一万語に到達できた。
7870 words (2021年4月)
9944 words (2023年4月)
ぶっちゃけ私一人では無理だった。初志は継続せず、どこかで挫折する理由を探し出していた。
だが、私を一人にしない技法を用いることで、完読できたといえる。
挫折を防ぐために周囲の環境を利用する「ラーニングログ」と「コミットメントレター」という技法だ。毎日読んで、読んだ分を記録する。記録した分をSNSで公開するのだが、具体的には[この記事]を参考にしてほしい。
Merriam-Webster's Vocabulary Builder を毎日読みます。読んだ分を記録して公開します。 #独学大全 #ラーニングログ #コミットメントレターhttps://t.co/qcMsVPZwke
— スゴ本の中の人 (@Dain_sugohon) August 16, 2021
一気に数ページ進む調子のいいときもあれば、難しくて集中力が続かず数行しか読めないときもあった。分からない単語はネットで調べ、文章が分からなければ DeepL に教えてもらい、とにかく「進める」ことだけを考えて、毎日たゆまず、あせらず、一行ずつ読み続けた。
語根でグルーピングして覚える
本書が素晴らしいのは、単語を一つ一つ学んでいくのではなく、「語根」を軸にグルーピングしたものをまとめて身につけるやり方だ。
語根とは、単語の意味の基本となる最小の部分となる。
例えば、PRE には「前に」という意味がある(before や in front of)。プレシーズンとかプレビューのプレだ。そこからこうつなげる。
prediction = pre + direct(方向)→ 予報、予言
precede = pre + cede(行く)→ 先行する
prejudice = pre + judge(判断)→ 先入観
これらの単語は、一つ一つ個別に覚えてきた。
だが、改めて振り返ると、語根の組み合わせで出来ていることを理解すると、覚えるのが容易になる。感覚的には、漢字を覚えるときに部首から類推するようなものだ。りっしんべん(忄)があると「心」に関わると想像できたりするように、語根は単語の根幹を知る手がかりとなる。
さらに本書では、PREからさらに拡張して解説してくれる。たとえばこうだ。
preclude = pre + claudere(閉じる;close)→妨げる、除外する
predispose = pre + dispose(配置する)→仕向ける
prerequisite = pre + require(必要とする)→前もって必要なもの、前提条件
この3つの単語は、本書で学んだ。もちろん私自身、claudere なんて単語を知らなかった。だが、この言葉はラテン語であり、「閉じる」を意味していることを何度も説明してくれる。他にも、ギリシャ語や古フランス語が、数多くの英語の素になっていることを具体的に知ることができる(というか、英語の大部分がこれらから構成されてていると言っていいかも)。
馴染みのある「プレ」に対し、ラテン語やギリシャ語由来の言葉と組み合わせることで、言葉が生成されているのが分かる。本書では250もの語根や語幹が紹介されており、英語で用いられるもののほぼ全てを網羅している。こうした意味の素となるストックを増やしておくことで、初見の単語でもなんとなく掴めるようになるのだ。
ChatGPTに語根を聞く
これは面白文章力倶楽部で、ふろむださんに教わったアイデアだ。流行りのオモチャ、ChatGPTを利用しない手はない。
こんな風に聞いてみる。
そして、AIの回答を鵜呑みにせず、あらためて本書で検証してみる。もちろんChatGPTは言語や辞書のエキスパートと言えるかもしれない。だが、あえて自分が先生役で、彼女の理解度を確認するのだ。
preclude の例文を見ると、prevent と似ているので、指摘してみる。
「防ぐ」「阻止する」という意味では同じだが、preclude の方が強い意味を持っており、完全に起こらないようにするニュアンスがあるようだ。ついでに prevent の語源を教えてもらうと、pre(先に)+venire(来る)だそうだ。先に来るなにかが、後から来るものを妨げるニュアンスになっている(もちろんこの解説も鵜吞みにせず、辞書で裏を取る)。
こんな風に本書とChatGPTを組み合わせることで、インタラクティブに語彙を拡張することができる。
読み物としての面白さ
また、無味乾燥になりがちな単語の説明が、非常に面白い記事となっている。
例えば TOXI の項目。トキシンという言葉から毒に関連しそうだとアタリを付けるのだが、この「毒」の説明がやたら詳しい。
toxin は植物やバクテリアなどの生物由来の毒になるし、venom は嚙まれたり刺されたりして入ってくる毒になる(ヘビやクモなど)。さらにヘビの毒もこう解説されている。
Snake venom is often neurotoxic (as in cobras and coral snakes, for example), though it may instead be hemotoxic (as in rattlesnakes and coppermouths), operating on the circulatory system. Artificial neurotoxins, called nerve agents, have been developed by scientists as means of chemical warfare; luckily, few have ever been used.
神経系に作用するコブラの毒は neurotoxic (神経毒)であり、循環系に作用し敗血症を引き起こすガラガラヘビの毒は hemotoxic (血液毒)になるという。
他にも、ボツリヌス菌は非常に強い毒性を持つが、シワ取りのボトックスの原料となっていることや、毒性を決める単位「LD50」の意味は、その生物を死に至らしめる可能性が50%であることを示す、「致死量」だ。ちなみに、ボツリヌス菌の致死量は、投与する生物の体重1キログラムあたり、0.000000015ミリグラムになる。
あるいは、MEDI の項目。ラテン語で medius 意味は middle だという。メディアはすぐに浮かんだが、統計学の median (中央値)は本書に気づかされた。そういえば「メジアン」と言ってたっけ。
目ウロコだったのが medieval の説明。middle から中間、そこから中世ヨーロッパの「中世」という意味を覚えていた。だが、そもそも中世とは、何と何の「中間」であるのかを、本書に教えてもらった。
With its roots medi-, meaning "middle", and ev-, meaning "age", medieval literally means "of the Middle Ages". In this case, middle means "between the Roman empire and the Renaissance"—that is, after the fall of the great Roman state and before the "rebirth" of culture that we call the Renaissance.
なるほど、そうだったんだ。ローマ帝国が終わった後で、ルネッサンスが始まる前の、中間の時代を、medieval と呼んでいたんだね。地球全体が寒冷化し、伝染病や飢饉が広がり、戦乱が多数起きた時代だ。本書では、暗黒時代であり、ゲームやマンガで取り沙汰される、「剣と魔法の時代」ではないと釘を刺している。
こんな感じで楽しく単語力を増強させることができる。おかげで、決してスラスラではないけれど、怯まずに向き合えるようになった。
ただし、マスターしたというには程遠い。章末の理解度テストはボロボロだし、読み返してもきちんと覚えていないものが多々ある。
なので2周目を始める。初回は「とにかく終わらせる」のが目標だった。今回は、スピード+忘れないよう繰り返すことを目指して取り組みたい。本書をマスターしたら、2万語を超える(はずだ)。
2周目のラーニングログは Merriam-Webster's Vocabulary Builder ラーニングログ に記録する。
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コメント
「語彙力が1万語になった」という日本語はおかしい。1万語ということを強調したいのであれば「語彙数が1万語になった」。"語彙力"という変な言葉をとにかく使いたいのでたれば「語彙力が1万になった」でもおかしいので「語彙力が上がった」となる。
日本語さえまともじゃない人に外国語のレクチャーをして欲しいなんて思わないし、言葉の使い方がまともじゃない人に語彙についてアレコレ言われたいとも思わない。
投稿: | 2023.04.23 11:41
たしかに
投稿: | 2023.04.23 22:32
↑日本語の使い方が間違ってますよ、と優しく教えてあげればいいのに。
このタイトルで伝えたいことは伝わってくるし、私は気にならないです。
自分がどうやったらパワーアップしたかを教えてくれてるって本当にすごいことだと思うから。
全読2周目応援してます。
投稿: | 2023.04.26 11:56
ちょうど先日この本を買ったばかりで、記事のおかげでモチベーションが高まりました!
まだ読み始めですが面白いですねー!
投稿: | 2023.05.10 23:23
>>名無しさん@2023.04.26 11:56
>自分がどうやったらパワーアップしたかを教えてくれてるって本当にすごいことだと思うから。
>全読2周目応援してます。
ありがとうございます。自分の実力が上がっていることを感じるだけでなく、客観的な数値としても見えるようになると嬉しいものです。
>>名無しさん@2023.05.10 23:23
>まだ読み始めですが面白いですねー!
ですです!この本は、語彙力を鍛えることが目的なのですが、単純に読んで面白く知識がつくというタメになる本でもあるのです。気長に頑張れる優れた本だと思います。
投稿: Dain | 2023.05.11 10:43
> 「語彙力が1万語になった」という日本語はおかしい。1万語ということを強調したいのであれば「語彙数が1万語になった」。"語彙力"という変な言葉をとにかく使いたいのでたれば「語彙力が1万になった」でもおかしいので「語彙力が上がった」となる。
> 日本語さえまともじゃない人に外国語のレクチャーをして欲しいなんて思わないし、言葉の使い方がまともじゃない人に語彙についてアレコレ言われたいとも思わない。
このコメントをされた方は、記事を読めない(理解できない)ようだ。
今回の記事は、「ある単語帳に取り組んだら、ボキャブラリーテストの結果が、1万語レベルに達した」という内容である。
「語彙力(ボキャブラリーテストの結果)が1万語になった(レベルに達した)」は全然おかしくない。
日本語の行間も読めないの他人の日本語にアレコレ言っている場合ではない。
投稿: | 2023.05.23 16:35
英語を学ぶ者としてとても参考になりました。
1点教えて下さい。
本書には、
prediction = pre + dict(言う)ではなく、
prediction = pre + direct(方向)と記載されているのでしょうか?
投稿: 三昧 | 2023.06.10 10:15
>>三昧さん
PREのグループの説明の中でpredictionが紹介されていますが、pre+dictやpre+directの説明は特にありませんでした。ただし、DICTのグループで"to speak"の意味として説明されているため、PRE(予め)DICT(言う)という意味は把握できるようになっています。
投稿: Dain | 2023.06.11 00:38
Google Discoverからこの記事に辿り着いた。
実際は610日かけて約2000語の増強と。
記事タイトルが釣りっぽくなっててやや残念。
投稿: | 2023.06.11 17:17