10品を美味しく作れるようになれば、100品だってできる『10品を繰り返し作りましょう』
私は「野菜炒め」がヘタだ。
レシピを見ないレパートリーが沢山ある。クックドゥに頼らずとも、冷蔵庫のありあわせでそれらしい何か作れる。自分のための一皿を手早く作ったり、家族のためのごちそうを丁寧に作ることができる。料理はできるほうだと思っている。
だが、野菜炒めが上手にできない。
だいたい冷蔵庫の残り物―――半分だけ残った人参とか、中途半端なキャベツとか、ちょっとしなびたほうれん草と豚コマ―――を適当に炒めるのだが、これが上手くできない。べちゃっと水っぽくなる。
もちろん、素材の大きさを切りそろえたり、火の通りを考えて投入しているが、安定しない。上手くいくときも(たまに)あるけれど、中華屋さんの野菜炒めにはならない。youtubeの料理指南を見ると、デカい中華鍋+強い火力でねじ伏せているけれど、我が家にそんなものはない。
やっぱり道具かな、と思っていたが、ウー・ウェンさんのこの本で、目が開いた。
ウー・ウェンさんは料理研究家で、中国の家庭料理を紹介してくれている。デカい中華鍋とかではなく、普通にあるフライパンや調味料を使って、毎日の料理を美味しく作る秘訣を紹介してくれる。
昨年は『料理の意味とその手立て』を読んで、「塩する」ことの理由が理解できた。今回は『10品を繰り返し作りましょう』を読んで、「素材と向き合う」ことが、具体的に何を意味しているのか分かった。
『10品を繰り返し~』は家庭料理のレシピ集だ。食材も道具も最小限で作りやすく、時間をかけるような料理は出てこない。ただし、「ここは手間をかける」ポイントが絞られており、そこはきちんとすると、必ず美味しくなるという。
レパートリーは、「肉と野菜の2種炒め」や「野菜入りの卵焼き」など簡単そうなものが並んでいるが、もの凄く丁寧に説明する。
「野菜炒め」の本質
例えば、野菜炒めだけで40ページくらい費やしている。既に知っているコツもあれば、新しい知識もあったが、重要なのは、「野菜炒めとは何か」という本質的なことが得られたことだ。
野菜炒めは、野菜の水分が熱せられ、その蒸気で野菜に火が通る料理です。つまり野菜炒めは、油の熱が直接野菜に火を通すわけではないんです。高温になった油の熱で、野菜の中の水分が沸騰して(100℃になって)蒸気になる。その蒸気で蒸されるようになって野菜に火が通る。野菜が、うまみのある自分の水分(蒸気)で加熱されるから、その野菜の香りや味が引き立って、おいしい野菜炒めができるわけです。
今まで、高温にした油の熱が野菜に火を通すと考えていた。だが、考えてみると、確かに火を通す目的のわりに、油の量は少ない(大さじ1くらいだし)。「炒める」というのは、野菜という素材からすると、「蒸す」に近いのかもしれない。
その一方で、肉の素材からすると、炒めるとは文字通り「油で炒りつける」になる。熱した油が肉の脂を引き出し、さらに肉の細胞を破壊してアクにして出すことで、調味料を入りやすくする。そう考えると、「最初に肉だけ炒めた後、取り出して野菜を炒める」というプロセスに納得が行く。
本書ではさらに徹底しており、「肉は茹でて火を通せ」という。沸騰したお湯で茹でた後、そこに調味料を加えよという。
そして、肉(たんぱく質)に味付け+片栗粉(いわば調味料の接着剤)する一方、野菜にはほとんど味をつけない。炒めるのではなく、火の通った材料を、フライパンの中で和えるイメージになる。フライパンは、加熱できるボウルと見なし、野菜炒めは、温かいサラダと考えるのだ。
さらに、同じ野菜でも、小松菜やほうれん草といった青菜と、キャベツや人参や大根は、火の通し方が違うという。青菜は水分が出やすいが、キャベツは水分が出にくい。そのため、青菜は中火で蓋をせずサッと炒める一方、キャベツは酒をふり蓋をして弱火で炒める。
野菜炒めでは、「青菜はざく切り、キャベツや人参は数センチ~せん切り」にするのは、知識としては知っていたけれど、水分の出具合を調整するためだったんだということに気づく。
素材と向き合うというのは、その素材をどういう風にしたら美味しくなるかを考えながら、出来上がりを想像し、そこから切る/加熱する/調味するを逆算で組み立てることだ。なぜ下味をつけるのか、なぜそう切るのか、なぜその順に火を通すのか……結局は、素材を美味しくするためなんだ。よくできたレシピというのは、そうした逆算が考え抜かれていることなんだろうね。
「春巻き」のすすめ
考え方を一変させられたメニューもある。「毎日作る簡単春巻き」だ。
春巻きは好評なので時々するのだが、下ごしらえとか揚げ油の都合で、メニューは春巻きオンリーになる。フライとか唐揚げもそうだけど、揚げ物のときはどうしてもそうなる。
ウー・ウェンさんはそう考えない。ちょっと一品だけ足すイメージで、春巻きを薦めてくる。一人一本あるだけで、満足感が増すという。考え方はこんな感じ……
- 生の具材を1種類だけ春巻きの皮で包む(空気が入らないように)
- フライパンにカップ1程度の油で十分
- 熱くなった具材自身の熱で加熱される、蒸し料理と考える
例えば、アスパラガス。春巻きの皮に包まれたアスパラガスが、油の熱で温められて、中の水分が沸いてくる。その熱自身で蒸されたようになって火が通る。だから春巻きをかじったとき、アスパラガスの香りとうまみを強く感じられる。それが春巻きの魅力だという。
なるほど!中華屋さんで食べる春巻きを意識して色々入れていたけれど、必ずそうしなきゃってわけじゃないんだ。ポイントは「空気が入らないように」という点だ(自身の水分で蒸すのだから、その空間をできる限り小さくする必要があるから)。
コツはこんなん。
特におすすめなのは、人参の春巻きだという。びっくりするくらい甘くなるそうな。
こんな感じで、基本は文章だけれど、肝心な所は写真で詳しく説明してくれる。
なぜその手順なのか、どうすればラクできるのかも織り交ぜながら、美味しい料理の勘所が身につく仕掛けになっている。焦らず丁寧に身につけることで、「10品をきちんと作れるようになれば、100品だって作れます」という。
基本の10品は以下の通り。
1 肉と野菜の2種炒め
2 野菜1種類の炒め物
3 野菜入りの卵焼き
4 切り身魚で作る蒸し物
5 肉の塩焼き
6 肉と野菜の煮物
7 カップ1杯の油で揚げ物
8 毎日作る簡単春巻き
9 お茶代わりのスープ
10 具が2つのシンプル鍋
わたしの残りの人生で、食べる数は決まっている。
よい料理で、よい人生を。

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