« 今年イチの傑作SF短篇「無脊椎動物の想像力と創造性について」 | トップページ | この本がスゴい!2022 »

ファンタジーの最高傑作『氷と炎の歌』

ファンタジーの最高傑作がこれ。

いろいろ読んできたが、これほどの傑作はない(断言)。

_2

夢中にさせて寝かせてくれず、ドキドキハラハラ手に汗握らせ、呼吸を忘れるほど爆笑させ、ページを繰るのが怖いほど緊張感MAXにさせ、食いしばった歯から血の味がするぐらい怒りを煽り、思い出すたびに胸が詰まり涙を流させ、叫びながらガッツポーズのために立ち上がるほどスカッとさせ、驚きのあまり手から本が転げ落ちるような傑作がこれだ。

この世でいちばん面白い小説は『モンテ・クリスト伯』で確定だが、この世でいちばん面白いファンタジーは『氷と炎の歌』になる。

書いた人は、ジョージ・R・R・マーティン。稀代のSF作家であり、売れっ子のテレビプロデューサー&脚本家であり、名作アンソロジーを編む優れた編集者でもある。

短篇・長編ともに、恐ろしくリーダビリティが高く、主な文学賞だけでも、世界幻想文学大賞(1989)、ヒューゴー賞(1975、1980)、ネビュラ賞(1980、1986)、ローカス賞(1976、1978、1980、1981、1982、1984、1997、1999、2001)など多数受賞している。

以前、ジョージ・R・R・マーティンの短篇集『洋梨形の男』を読んで、のけぞったことがある

ブラックなプロット、奇想天外なアイデア、おぞましくグロテスクなオチ……読み始めたらやめられなくなる傑作ばかりだった。ヒューゴ賞、ネビュラ賞、ブラム・ストーカー賞を総ナメした逸品なので、まずここから手を付けるのもいいかも。

ゲームが好きなら、『ELDEN RING』のストーリー原作者と言えば伝わるだろうか。

フロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月に発売され、全世界で1,600万本を売り上げた寝かせてくれないゲームだ(わたしはトレーラーで見た ”story written by George R. R. Martin”の一言で撃ち抜かれ、これはPlaystation5でやると堅く誓い、今だに実現できていない)。

ひとたびハマったら、絶対に寝かされてくれない、そんなページをめくらせる魔術師が、全身全霊をかけてファンタジーを書いたならどうなるか? わざわざ言うまでもない。

いま「ファンタジー」と言ったが、括るのが難しい。小説の面白いところ、美味しいところが全部入っていて、ジャンルを跨るどころか飲み込んでおり、まとめきれない。

これはファンタジーの皮を被った波乱万丈の冒険小説であり、イギリスの薔薇戦争をモチーフにした重厚な歴史小説であり、甘酸っぱい青春&恋愛小説である。架空の世界の紀行文学であり、権謀術数うずまく陰謀譚に満ち溢れ、力と力が激突する戦争小説であり、犯人探しに奔走し、身の潔白を証明する推理小説&法廷小説であり、怪奇と幻想のホラーすぎる展開と総天然色スペクタクルなシーンもある。ラーメンのトッピングで言うなら「全部入り」というやつ。

ぱっと見、いわゆる群像劇の体裁で、各章ごとに視点となる人物が固定されている。その人物の目を通じ、そのキャラの主観を交えながら三人称で語られている。視点となるキャラは20人ぐらい。

それぞれの価値観や行動原理に従って動こうとするのだが、そうは運命が卸さない。戦乱の波に巻き込まれる者、最愛の存在を奪われ屈辱にまみれる者、破格の出世をして頂点を昇りつめる者、身寄りを失い故郷を追われ放浪の旅をする者、さまざまだ。レールの無いジェットコースター並みに波乱に満ちているため、視点キャラだけに絞っても十分面白い物語になる(実際、視点キャラだけで成り立ったスピンオフ作品も存在する)。

読者は、キャラが切り替わるごとに、様々な場所から少しずつこの世界が分かるようになる。それだけでなく、そのキャラがまだ知らないこと、これから知る恐ろしい行く末をも見るようになる。

 100を超える主要登場人物

先ほど、「視点となるキャラは20人」と述べたが、これは主要登場人物ではない。主要登場人物は、これに関係する敵、味方、パートナー、仇、親族、指導者、部下、支援者など80人ほど足して、100人を越える。ちなみに、主要でないサブキャラも含めると500人を超える。私の知る限り、トルストイ『戦争と平和』に匹敵する。

多すぎる? 登場人物一覧は、ちょっと引くくらいのページ数だけど、心配するなかれ、100人が100人とも、生々しく個性的で、一度見たら忘れられないように描かれている。残忍なやつはとことん残酷で、暴君は暴君を貫き、馬鹿は死んでも馬鹿である。どのキャラもいわゆる善玉悪玉の枠にハマれない、現実世界を生きる人間のような複雑さを持っている。

ただ、ごく少数だが、変化する人もいる。

最初はか弱い存在だったのに、運命に翻弄される度に強靭にしたたかになってゆく娘や、絶望のあまり外道に堕ちる王、愛する人のために愚かとしかいいようのない選択をしてしまう母、全てを失って、あらゆるものを手に入れる男……これは成長物語であり、ビルドゥングスロマンでもある。

それぞれのキャラが属する王家から見ると、より把握しやすくなるかもしれぬ。主な舞台である「ウェスタロス」と呼ばれる大陸には、七つの国家が乱立し、それぞれの王家や傍系が治めている。これはある時点での統治状態である。

  1. ターガリエン家  直轄領・全土
  2. スターク家  北の王国
  3. グレイジョイ家  鉄(くろがね)諸島の王国
  4. アリン家  山と谷の王国
  5. ラニスター家  岩の王国
  6. バラシオン家  嵐の王国
  7. タイレル家  河間平野(かわま)の王国
  8. マーテル家  ドーン領

特定のキャラクターではなく、それを取り巻く王家に肩入れするという読み方も面白い。これは、王家と王家の争いの物語でもあるからだ。隣接する王国同士では領土争いがあるし、離れた王国と手を組んで共闘するという場面もある。

さらに一つの王国は一枚岩ではない。利害関係が相反する様々な一族がひしめいており、王家の方向と異にする場合も出てくる。外敵が肉薄し、王国に危機が迫るとき、一致団結する国もいれば、裏切って敵に門戸を開く一族もいる(そして各々そうするしかない理由も描かれる)。一族の利益を追うか、王国のために戦うか、あるいは人類のために命を賭すか、登場人物たちは、選択を迫られる。

気をつけなければならないのは、感情移入し過ぎないこと

性格に惚れたり健気さに絆されたり、理由は色々あるが、多かれ少なかれ、自分をキャラに重ねることがある。特定のキャラを「推し」たり、その行く末を案じたりする。きっとお気に入りの視点キャラを何人も見出すことになるだろう。ここで、やり過ぎに注意すべし。

なぜなら、魂を踏みにじられ、心を折られることがあるからだ。ストーリーテラーは、キャラのことを、これっぽっちも大事に思っていないから。運命が求めるならば、どんなに重要な人物であっても、平気で地獄に突き落とす。特定のキャラに移入しすぎると、一緒に地獄を見ることになる。

わたしは、スターク家のあるキャラに自分を重ねていた。誠実な人間性に惚れ込み、どんなに困難で挫けそうでも、信じることで必ず最後に勝つ、と見守っていた。ところが、とあるシーンで、その激烈さのあまり飛び上がることになった(文字通り、座ってたその場所から 10cm 飛び上がった)。

そのシーンが、そのキャラクターではなく、別の視点キャラの目線で描写されていたのが不幸中の幸いである。シンクロしすぎていたならば、もっとヤバいことになっていたと思う。

 ウェスタロスという広大な世界

人物だけでなく、主な舞台となるウェスタロスも魅力的だ。

馬による旅や伝書鴉の移動日数より推測したところ、だいたい南アメリカ大陸程度の大きさになる。南北に細長く、北は氷と雪の極寒の地から、南は岩と酷暑と砂漠まで多様である。

ウェスタロスを支配する様々な気候は、そこに生きる人々の気質や感情を傾向づけるだけでなく、ひいては人生を左右する決定にまで影響する。

読み進めていくと、「なぜあんなことをしてしまったのか(しなかったのか)?」という疑問を抱くことが何度もあるに違いない。その理由が、キャラ自身の口から語られることもあるかもしれない。だが、伏せられた場合は、彼/彼女がどこの地方の出身であるかを想像してみると、予想がつくように書かれている。

広大だが厳しい寒さの北部では、限られた資源を分かち合って生きている。性格こそ粗野ではあるものの、仲間への信頼に篤く、互い助け合っていこうとする。領主は民を守り、民は王を支えようとする。ノルウェーやスウェーデンといった北欧を意識しているように見える。

海流の中の島々で暮らし、湿気と風雨に悩まされる鉄(くろがね)諸島では、我が身ひとつが頼りであり、肉体的な強さこそ全てだと信じる人が多い。残忍で「力こそパワー」という脳筋気質はヴァイキングをモデルとし、風を頼りとした高速船を操る。

流れが速く深い河に唯一かかった橋を有する一族がいる。地政学的にも戦略的にも重要な橋で、そこから得られる莫大な通行料を独占し、裕福な暮らしをしている。風評や時勢に耳ざとく、猜疑心が強く、他を出し抜こうと虎視眈々とする。ユダヤ人をモデルとしているように見える。

岩だらけの砂漠に囲まれ、オアシス地域で生きる人々は、気候と同じく熱血漢が多い。貴重な水は金と同じ価値を持ち、支配は絶対的である。ラテンアメリカ系のモデルなのか、陽気な美男美女のキャラばかりだ。

そして、巨大な壁のことを忘れてはいけない。

北の最果てに位置する、高さ200m、幅500kmにおよぶ、硬い氷で覆われた壁だ。8000年前、魔法と人力の両方を使って建てられたという。壁の向こうには、ホワイト・ウォーカーという異形の存在がいるとされるが、神話とされている。壁は、ナイツ・ウォッチ呼ばれる者たちによって守られ、監視されている。

他にも、天然の要塞である切り立った山脈に守られた王国や、他大陸との貿易で栄える巨大な港、毒沼に隠れながら棲む部族、しがらみから逃げ出して肩を寄せ合って暮らす人たち……数え上げればきりがないが、土地と人と歴史が、緊密に結びついていることが伺える。

小説の凄いところは、ウェスタロスの広さを、情報の遅延で伝えるところだ。

ある重大な事件が起きたとき、その伝達方法は、伝書鴉、早馬、人の噂など様々だ。リアルタイムで出来事に追随できる読者と異なり、視点キャラに情報が伝わるまでに時間がかかる。

そのため、「この情報を『今』この人が知っていたなら!」ともどかしい思いを何度もするだろう。情報の空白でもって空間の広大さを感じることができる。直接的な描写のみならず、読み手に与える影響も計算して、架空の世界が描かれている。

出来事の進行だけでなく、それぞれの位置関係が非常に重要になってくる。

読者は一行ずつしか読めないが、出来事は一度に起きたり、ずっと後になって視点キャラに伝達される形で明らかになったりする。

著者による覚書によると、物語を厳密に逐次的に語ることは不可能だという。

たがいに何百キロも何千キロも離れた場所にいる登場人物の目を通して語られており、ある章はわずか一時間のことを扱っていたり、別の章は二週間、一ヵ月、半年に渡るものもある。重要な出来事が五千キロも離れた場所で同時に起こることだってあり得るからだ。

そのため読者は、その章が誰の視点で語られているかだけでなく、それがどこで起きており、その近くに誰がおり、何があったかも含めて読み進める必要がある。

でも心配するなかれ、位置関係も考慮しながら章編成、文章構成を考えてくれている。ヒトの目を離れイーグル・アイで地勢を眺めたり、さらに上昇してランドサット衛星の目線で、手に取るように指し示してくれる。おかげで読者は、視点キャラに危険が迫っており、遠からず恐ろしい目に遭うことを、かなり前からドキドキすることができる。

最初に出てくる、ウェスタロスの大陸マップは、何度も見返すことになるだろう。そして、そのあまりの広さにもどかしい思いを何度もするだろう。

Photo_20221119090101
Photo_20221119090102

 絵にもかけない面白さ

そして、嬉しいことに(恐ろしいことに?)どんなに読んでも果てがない。

一冊一冊のボリュームが凄まじく、700ページ、800ページを平気で超えてくる。徹夜覚悟で臨んでも、読んでも読んでも終わらない。朦朧としながらも明瞭なアタマで読みたいのに……と意味不明なことを呟きつつ寝落ちする。そんな夜(明け方?)が何夜あっただろうか。

生(き)のまま取り組んでもいいが、超ざっくりとストーリーラインを述べる。

『氷と炎』は、大きく3つに分かれている。

一つは、ウェスタロスの玉座を巡る覇権争いだ。

七王国が互いに喰い合い、手を結び&裏切りあう、血で血を洗う内戦である。15世紀イギリスの薔薇戦争をモチーフにしているが、けっしてなぞってはいない。その理由については、作者自身、インタビューでこう答えている。

ただ、歴史の場合、なにを読んでも事前に結末がわかってしまう難点がある。薔薇戦争を題材にすれば、ものすごくおもしろい小説が書けるかもしれない。

だが、「この幼いふたりのお姫様は塔を脱出できるのか」というささやかなサスペンスは成立しない。「脱出できなかった」という史実がもうわかってしまっているから。

『七王国の玉座』を書こうと思い至った動機の一つは、だれも史実を知らない架空世界を舞台にして「歴史小説」を書いてやろうというものだったんだよ。といっても、ファンタジーの要素もしっかり入れてあるから、両者が融合したものと思えばいいんじゃないかな

(第4部 乱鴉の饗宴 下巻 訳者あとがきより)

面白さが約束されている史実を元に、先が読めない展開をぶっ込み、結末の分からない歴史を書いたのがこれだ。繰り返すが、ジョージ・R・R・マーティンは、物語を面白くさせるのであれば、なんだってする。それがたとえ、読者を裏切るようなことだとしてもだ。

二つ目は、かつてウェスタロスを治めていた王の子たちの流浪物語だ。

先ほど述べた「七つの王国」の王家のリストに、8つの名前が挙げられていたことに気づいていただろうか。実は、リストの最初にある「ターガリエン」こそが最初の王となる。

『氷と炎』の始まる300年ほど前に遡る。海の向こうからやってきた強大な一族・ターガリエン家がウェスタロスを統一し、覇道をもって支配した(この辺のエピソードは別の『炎と血』として刊行されている)。

しかし、あまりにも暴虐な国王に対する反乱が各地で勃発し、諸家は連合してターガリエン家を追放する。これが15年前。王である父を殺された2人の子どもが海を渡り、隣のエッソス大陸に落ちのびる。

財産もなく、自らの軍ももたない兄と妹が、追手をかいくぐり、どのように生き延び、巻き返していくか。そして、ウェスタロスの正統な王の証をどうやって立てていくか。

これは、極上の貴種流離譚である。淫猥で、残酷で、魔術と陰謀と奇跡に満ちた物語は、かつて全読した『千夜一夜物語』を彷彿とさせられる。千夜一夜の面白い要素だけを蒸留したのがこのストーリーラインだ。

そして三つ目は、巨大な壁を守るナイツ・ウォッチ(冥夜の守人)の物語だ。

太古の昔に建造された長大な壁に駐留し、壁の向こうに棲む存在から、延々と王国を守り続けてきた人々の話である。野人と呼ばれる蛮族や、巨人族が脅かしてきたが、それとは別に伝説とされていた異形の魔物が復活し、勢力を広げようとしていた。

異形に追われるように野人や巨人族は壁を越え、王国へ進攻しようとする。それらを阻止すべく奮闘するナイツ・ウォッチたち……という展開なのだが、これは世界史のゲルマン民族の大移動&キリスト教のアポカリプスをモチーフとしている。映像的には『進撃の巨人』や『ワールド・ウォーZ』を思い出す人もいるかもしれない。

どのストーリーラインを取っても、それだけでめちゃくちゃ面白い作品になるのだが、やがてこの3つの物語が少しずつ近づいてゆき、絡み合い、一つの大きな流れに怒涛の如く突き進んでいく。

怒涛の物語パワー、壮大過ぎるスケール&スペクタクルズ、心MAX震わせる振動数、全てにおいて、圧倒的で、それこそ絵にも描けない面白さ、映像化は未来永劫不可能だと思っていた。

 ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』

ところが、である。

私が間違っていた。『氷と炎』を原作として、アメリカHBOのテレビドラマとして、『ゲーム・オブ・スローンズ』が制作されている。

映画を超える巨額の製作費をかけ、北アイルランド、マルタ、クロアチア、アイスランド、モロッコ、スコットランド、アメリカ合衆国、スペインで撮影され、2011年から放送が始まり、最終話は2019年に放送された。Hulu、Amazonで配信されている。

Wikipedia:ゲーム・オブ・スローンズより

そして実は、ドラマが原作を追い越している。

つまり、小説は未完でも、ドラマは完結している。作者もかなりの高齢であり、未完であってはならないという理由で、ストーリーの展開の骨子を予め伝えている。それを元に脚本を起こし、ドラマにしているのだ。

エミー賞、ゴールデングローブ賞、ヒューゴー賞、サターン賞、ピーボディ賞など、名だたる賞を総ナメし、「観たら必ずハマる」「全く先が読めない」「続きが気になる中毒性」「主役がいない=全員主役級」「完全大人向けのダーク・ファンタジー」「史上最高のドラマ」など、絶賛の声しかない。

で、わたしは観た、全8シーズン73話ぜんぶ。

観たうえで言わせてもらうと、史上最高のドラマだ

史上最高のファンタジー『氷と炎』の面白いところだけをつまみ食いしているのだから、面白くない訳がない。しかも「映える」ところだけ、美しいくて愛おしいくてエッチなところ、過激で残虐でエグいところ、人間性が剥き出しになるところを完璧に映像化している。

ただし、地上波で放送されるのは、絶対にありえない。

素手で頭蓋骨が▲▲されるところとか、生きたまま炎で●き■されるところとか、そのまま、接写で映し出している。普通の戦闘シーンであっても、『プライベート・ライアン』や『フルメタル・ジャケット』の一番強烈なシーンを思い浮かべてもらって、それを好きな倍数で壮絶にしてくれればいい。それぐらい、放送コードを凌駕している。

ドラマは完結しているが、小説は未完である。小説からハマったなら、先が気になって気になって仕方がなくなるはずだ。なので、きっとドラマに走るだろう。

そこで注意して欲しいのは、ドラマは止まってくれないジェットコースターという点だ。

小説は、沼にハメる準備を着々と整えていった先で、読者を突き落とす、という展開なので、前フリや伏線が描写や会話の端々に潜んでおり、「あれはコレだったのか!?」的なヨロコビが幾重にも味わえる。

だがドラマは、とにかく視聴者を飽きさせないために、次から次へと面白いところ、スペクタクルなところ、過激なところ、後ひくところを詰め込んでいる。物語のスピードを、自分のペースにできないのだ。小説なら自分で読むスピードを調節できるが、面白さを一方的に浴びせるドラマだと、調整が利かないのだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』は、いったん観始めたら、下りられないジェットコースターだと覚悟して、観てほしい。

小説の進行状況はこんな状態だ。

 A Game of Thrones 『七王国の玉座』
 A Clash of Kings 『王狼たちの戦旗』
 A Storm of Swords 『剣嵐の大地』
 A Feast for Crows 『乱鴉の饗宴』
 A Dance with Dragons 『竜との舞踏』
 The Winds of Winter 『冬の狂風』(予定)
 A Dream of Spring (予定)

 『氷と炎』を味見する

まだ完結していないが、それでも小説をお薦めしたい。

ここでは、ネタバレを回避しつつ、氷と炎で出会った言葉を引用する。この作品がどんな味がするのか、かじってみてほしい。

「物語を読む者は死ぬまでに一千もの生を生きる」とジョジェンはいった。「本を読まない者はひとつの生しか生きない」

「愚行と絶望は、しばしば区別が難しい」メイスター・ルーウィンがいった。

モーモントはいった。「愛するものが、いつもわれわれを滅ぼすのだよ、ジョン・スノウ」

「あなたのしたことは愛のためだったと、理解できる。愛は必ずしも賢いとはかぎらないことを、わたしは学んだ。それは大いなる愚行に導くこともありうる」

そして女たちもみな死ぬ。空を飛び、水中を及び、地を走る獣もすべて死ぬ。問題は、いつ死ぬかではなく、どのように死ぬかだよ、ジョン・スノウ

ファンタジーの最高を、ぜひ味わってほしい。

このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« 今年イチの傑作SF短篇「無脊椎動物の想像力と創造性について」 | トップページ | この本がスゴい!2022 »

コメント

自己コメント。はてなブックマークでお薦め・言及された作品(ありがとうございます)。

九年目の魔法
時の車輪
フィーヴァードリーム
七王国の騎士
ロランの歌
ニーベルンゲンの歌
ハウス・オブ・ザ・ドラゴン(ドラマ)
ドラゴンランス戦記
タフの方舟
サンドキングズ
残酷な神が支配する
指輪物語
スカイリム(ゲーム)
鎌倉殿の13人(ドラマ)
HUNTER×HUNTER
ゲド戦記
幼女戦記
十二国記
グインサーガ
モモ
クリスマスキャロル
信ぜざる者コブナント
リプレイ
イルスの竪琴
ロード・オブ・ザ・リング(映画)
ファイナルファンタジーXIV(ゲーム)
大いなる序章(ワイルド・カード)
新九郎、奔る!
RRR(映画)
図書館の魔女

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/dain.cocolog-nifty.com/myblog/2022/11/post-cf32f5.html

投稿: Dain | 2022.11.20 16:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 今年イチの傑作SF短篇「無脊椎動物の想像力と創造性について」 | トップページ | この本がスゴい!2022 »