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非日常を味わうなら、うってつけの小説『異常 アノマリー』

非日常を味わうために小説を読むなら、うってつけの一冊。入りやすく読みやすく、するする進んでいくうちに、脳天を直撃されるだろう。そこからが本番だ。異常を楽しめ。

殺し屋、小説家、癌患者、7歳の少女、Youtuber、建築家……それぞれの生い立ちと日常が語られる。出身も信条もバラバラで、最初は、まるで共通点がない人々の群像劇に見える。

一つだけ重なっているとするならば、2021年3月に同じ飛行機に乗り合わせたという点だ。パリ発ニューヨーク行きのエールフランス006便で、乱気流に飲み込まれ、恐ろしい思いをしたという記憶が共通している。

―――この時点でスティーヴン・キングのあれとか、ディーン・R・クーンツのそれとか、あるいはデイヴィッド・マレルのとある短篇を思い出した。どれも「ある場所」にまつわる記憶を共有する、けれども全く接点のない人々の群像劇だ。

で、たぶんそういう展開なんだろうなーと思いながら読み進むと、予想のナナメ上、かつ、遥か上をカッ飛んで行った。キングもクーンツもマレルも想像も及ばない非日常の日常に向き合うことになる。

さらに、この小説に登場する小説家が書いた『異常』も出てくる。小説内小説の『異常』は、いま私が読んでいる『異常』とは似ても似つかないものの、折々にエピグラフとして引用され、非常に示唆的に先読みを誘導する。ウロボロスの尻尾になった気分だ。

随所に練り込まれたオマージュ、パスティーシュ、パロディは、最初は楽しく、次第に鼻につき、最後はウンザリさせられるほどお腹いっぱいになる。意図的なコピーを繰り返しており、いわば現実を模倣させようとしているのが分かる。

書き口も、ノワール、スリラー、ラブストーリー、書簡、ポエム、インタビュー、メタ小説、心理小説、サイエンス・ファンタジーと使い分け、コラージュのように目まぐるしく変転してゆき、息つく暇なく読みふける。

極めて異常な物語世界を提示した上で、テーマが「私の人生とは何か」になる。ありえない設定における直球過ぎるテーマのアンバランスが面白い。でも、「私の人生とは何か」を痛切に考えさせられる、これほど具体的な異常事態は、この小説しかあり得ない。

『異常 アノマリー』はエルヴェ・ル・テリエ著、フランス文学最高峰のゴンクール賞に輝き、ニューヨーク・タイムズ誌のベスト・スリラー2021に選ばれたというが、これを手に取らせたのは、スゴ本仲間のSさんのお薦めと、小島秀夫氏のこのツイート

読み終えたから分かる、確かに「もう平常心ではいられない」だなwww

馴染みのある小説のフリをした、「異常」な体験が味わえる一冊。

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