生きるとは死を食べること、死ぬとは食べられること『死を食べる』『捕食動物写真集』
生きるとは何か、死とはどういうことか。
生きる「意味」とか「目的」を混ぜるからややこしくなる。複雑に考えるのはやめて、もっと削いでいくと、この結論に至る。
・生きるとは、他の生き物を食べること
・死とは、他の生き物に食べられる存在になること
見た目がずいぶん変わるから、気づきにくくなっているだけで、私たちが口にしているもの全ては、他の生物である。
ひょっとすると、幾重にも加工され尽くしているから、それは「肉」ではないと主張する人もいるかもしれない。だが、葉肉であれ果肉であれ、生きていた存在を食べることで、わたしたちは生きている。
死を食べて生きている
誰かの死を食べることで、私たちは生きていることを理解するなら、『死を食べる』をお薦めする。
動物の死の直後から土に還るまでを定点観測した写真集だ。
死んだ直後のキツネから、まずダニが逃げ出し、入れ替わるようにハエや蜂が群がってくる(スズメバチは肉食だ)。膨れ上がった体から蛆が飛び出し、その蛆を食べるために他の動物がやってくる―――いわば九相図の動物版で、どんな死も、誰かが食べることで土に還るのだ。
キツネからクジラまで、さまざまな死の変化を並べることで、「死とは、誰かに食べられる存在になること」であり、そして「生とは、誰かの死を食べること」が、ごくあたりまえのように理解できる。
誰かの死を食べて生をつなぐことは、人間だって同じだ。
私たちが毎日食べる、魚も、牛や豚や鶏の肉であれ、突き詰めていけば動物の死骸なのだから。キレイに血抜きされ、清潔にパックされているから気づきにくいだけなのだ。だが、私たちは「死」を食べて生きている。この写真集の最後のページを見ると、つくづくそう思えてくる。
『死を食べる』は、食べられる側の「死」を一枚ずつ撮影して、その変化をタイムラプス的に眺めたものだ。一方、食べる側を撮影したのが、『捕食動物写真集』である。
肉食生物の食事風景
『捕食動物写真集』は、肉食生物が、他の生き物を捕えて食べる瞬間を切り取っている。
最初のページに、注意書きがある。
以下のジャンルごとに、比較的ソフトな映像から始めて、次第に刺激が強いものになるように並んでいるとのこと。見るのがキツいようなら、そのジャンルの写真はやめて、他のジャンルに進むなど、無理のないように見て欲しいとある。
・魚類
・虫
・爬虫類・両生類
・鳥類
・哺乳類
過激さの基準は、食われる側の描写だろう。
魚を頭から丸呑みにしたウツボは、比較的ソフトだと判断されている。一方、カエルを半分咥え込んだヘビは、刺激が強いとされている。ちなみに、表紙の写真は、最もソフトなレベルなので、これで無理なら止めた方が良い。
そこに至るまで長時間の格闘があったのだろうが、下半身を呑まれたカエルの目が、諦めたかのように見える。食われる側の「目」が見えてしまうと、途端に残酷に見えてしまうのかもしれない。
一方で、食う側の姿は美しい。鋭くぶ厚いくちばしで力強くついばむコンドル、ガリガリという音さえ聞こえてきそうな頭骨を噛み砕くカワウソ、顔中を血まみれにして髄をすするライオンなど、「生きてるッ」感がダイレクトに伝わってくる。
どれも至近距離で、どうやって撮ったのか不思議なくらいのクローズ・アップになっている。クモやハエの複眼なんて、顕微鏡写真レベルの解像度である。びっしりと毛に覆われたクモの頭は、「ヒッ」と声がでるくらい迫力がある。
「残酷」も「美しい」も、ヒトから見た価値にすぎない。生き物はただ、他の生き物を捕えて食べているだけなのだから。
本書はK.F.さんのお薦めで手にした一冊。K.F.さんのおかげで、素晴らしい本に出会えました、ありがとうございます!

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コメント
ご丁寧に言及頂き、また個別にご連絡頂きありがとうございました。
Dainさんの素敵なレビューで一層魅力に気が付きました。
捕食者の美しさは仰る通りだと思います。捕食されるのを一番勘弁願いたいヘビも、安全圏で見る分には機能美に満ちていると常々思っております。
ご紹介頂いた本、探して読んでみます。
投稿: K.F. | 2022.08.06 23:12
>> K.F. さん
ありがとうございます!
『捕食動物写真集』は全く知りませんでしたが、 K.F. のおかげで出会うことができました。「おぞましい」も「美しい」も人間の判断にすぎませんが、生きること、死ぬこと、ヒトであることの本質を再確認する読書でした。
投稿: Dain | 2022.08.07 00:06