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炎上プロジェクトの火消し術『プロジェクトのトラブル解決大全』

飛び交う怒号、やまない電話、不夜城と化した会議室。

集められたホワイトボードが衝立のように立ち並び、全員が立って仕事をしている(座る間が無いから)。週をまたぐとメンバーの疲弊が目に見えはじめ、月を跨げば一人二人といなくなり、仕事場はお通夜となる。

トラブルの無いプロジェクトは存在しない。炎上するかボヤで済むかの違いなだけで、大なり小なりトラブルは付きものである。

自分が所属する部署は大丈夫かもしれない。だが、隣のブースだとか、同期がいるチームで炎上しているのを横目で見ながら仕事する、なんてことがある。ホワイトボードは目につくし、大きな声はイヤでも耳に入ってくるので、プロジェクトが炎上⇒鎮火するパターンなんてものも、なんとなく伝わってくる。

消火作業のイロハとか、怒った客をあしらう方法、リカバリ計画の立て方なんてのも、肌感覚で分かってくる。

そして、トラブルの扱いが分かってくる頃には、「応援要員として2週間、サポートに行ってくれ」なんて片道キップが渡される(2週間で終わった試しがないが)。

トラブル解決にはセオリーがある

トラブルの解決法は、現場から現場へ、暗黙知のノウハウのように伝えられる。

だが、今はリモートワークが中心だ。

なので、そうした伝達が難しくなっているのではないかと感じる。ネットを賑わすような大炎上を噂に聞くだけで、自社内で起きているトラブルや火消しに気づかない人が増えているのではないだろうか。解決法も知らないまま、キャリアを重ねているのではないか。

そして、火を見たこともないまま、「応援要員として2週間、サポートに行ってくれ」と肩をたたかれる。

火を見たこともない人に、消火を任せるようなことはさせたくない(第一、危険だ)。さりとてオンラインで肌感覚は伝えにくい。

などと考えていたら、暗黙知を言語化してまとめた本があった。

書いた人は、日本IBMの中の人。10億円の破綻プロジェクトを半年で再生させたり、600名のメンバーを引っ張ってきた、スゴ腕のPMである。

そんな人が、プロの火消し術を惜しみなく伝えてくれる。「トラブル解決にはセオリーがある」と断言し、自身が培った経験を言語化してくれている。

現場で見るべき最初のポイント:ホワイトボード

例えば、ホワイトボード。

著者は、「現場で見るべき10のポイント」を掲げ、その一番にホワイトボードを挙げている。これは完全同意。

ホワイトボードには、進捗報告書やプロジェクト計画書に載っていない、生の情報が書かれている。

そして、ホワイトボードが集まっているエリアには、課題表が書かれているはずだ。いつ、どんな問題が起き、誰が、どこまで解析し、影響範囲の特定と対策が(不完全ではありつつも)存在するはずだ。それを見ることで、火事場の中心はどこか、キーマンが誰かが分かってくる。

トラブルに陥っているプロジェクトでは、資料はほとんどメンテされていない。対応に大わらわなので、きちんとした報告にまとめられるわけが無いからだ。代わりにホワイトボードに殴り書かれた骨子が重要になる。

課題管理で【絶対】やってはいけないこと

課題管理表のポイントが強調されているが、どれもその通りだと思う。

「課題の期限は意志をもって決める」や「課題管理はリーダー胆力が試される」など、いちいち頷くことが、理由をつけて説明されている。

担当者をアサインするのは嫌われ役だし、「いつまでならできるの?」と詰めるのは精神安定上よろしくないのは承知の上で、やるべきこと、やってはいけないことが書いてある。

中でも、一番やってはいけないことがあるのだが、そこもきちんと説明されている。少し考えれば誰しも容易に想像がつくのだが、なぜかこのNGをやってしまう人が多い。

それは、「課題提起人を担当者にする」ことだ。

ある事象が問題だと指摘し、その理由を説明してきた人に、「じゃぁその担当者としてよろしく」と課題をアサインしてしまう。これは最悪オブ最悪だ。

なぜなら、「言い出しっぺが引き受ける」ことになり、課題が出てこなくなるから。雉も鳴かずば撃たれまい。プロジェクトが悪化しているのに、その「症状」が見えなくなり、デスマーチまっしぐらになる。

課題管理でやるべきこと

本書では、「課題対応に適した人を割り当てよ」でまとめているが、一点、補足したい。

ふつう、課題を指摘する人は、その課題に近い人が多い。直接的な被害を受けていたり、原因の近辺を担当していることで、事象を上手く説明できる。だが、課題に詳しいからといって、その人をアサインするのは愚の骨頂だ。

だが、別の人をアサインするといっても、その人は課題に詳しいわけではない。その結果、アサインされた人が課題提起人に何度も聞きに行くことで、非効率的になってしまう。

じゃぁどうするか?課題を分割するのだ。かつてのローマ帝国のごとく、分割してマネジメントする。

でも、どうやって課題を切り分ける? そのときこそ、課題提起人を呼ぶ。誰よりもその課題に対して問題意識を持っており、原因となりそうなところや影響範囲、解析方針もアタリがついているだろう。だから、どうやって分ければよいか、一番アテにできる。

そうして、課題を小さく分けて、扱いやすくした上で、別の人に対処してもらうといい。

他にも、「軌道修正は朝会で伝えよ」「悪い報告を歓迎しろ」「現場は定時パトロールせよ」「課題管理表は、対応すると決めた1~2割増しで報告しろ」など、すぐに使えるノウハウを詰め込んでいる。

もちろん、炎上しないに越したことはない。だが、プロジェクトはトラブる。炎上かボヤかの違いなだけで、大なり小なり燃える。だから、本書で予習しよう。

炎上を食い止め、プロジェクトを前に進める一冊。

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