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いま本を書いている人、これから書く人の宝物となる一冊『本を書く』

いま本を書いている人、これから書こうとする人、あらゆる「書く人」にとって、宝物となり、お守りとなる一冊。

作家が答えるべき2つの問い

巷に数多に散らばっている、量産型のハウツー本ではない。もっと根っこの、書く意志を焚きつけるメッセージが連なっている。「本を書きたい」人は、ぐっと背中を押されるだろうし、「いま書いている」人は、挫けそうな心を励まされるだろう。

どの本を書いているときでも、作家は二つの問いに答えなければならない。この本は完成するだろうか? そして、私にそれができるだろうか?

もちろん、だれも保証してくれない。

書き始めの興奮がおさまってくると、この疑問が沸き上がってくる。どんなに書いても終わらない日々が続いたり、書くべきことが言葉にならずにぐるぐる廻っていると、この不安が沸き上がってくる。

そして、何かとんでもない間違いをしでかしているような気になってくる。部分的な修正では対処できない、本の全体におよぶ構造的な問題に陥っているのではないか。あるいは、まるっきり見当違いのことを追いかけているのではないかと。

この問いについて、正解はない。抱えている不安も込みで、この問題に対処できるのは、書き手その人だけだから。構造的な問題を見つけ出し、欠陥があれば、それを最小限にする方法を考える(場合によっては書き直すことも辞さず)。

書く仕事とは薪割りのようなもの

書く「コツ」みたいなことは書いてない。だが、「書くということはどういうことか」をうかがい知ることはできる。

ソロー『森の生活』を見習って、やったことのない薪割りに挑戦するシーンなんてそうだ。

カナダの片田舎に引きこもって執筆するのだが、冬は極寒となる。「薪は人を二度暖める」と言ったソローを実践し、薪割りに励む。しかし、激しい労働の結果、木っ端にまみれ、ザクザクとなった木片ができあがる。

何度か失敗をくり返した後、夢のお告げであることを知る。それは、「狙いを薪割り台に定めること」だ。割ろうとする木のてっぺんではなく、「台」を狙って振り下ろすのだ。

薪割り台に乗っている木を、まるで透明なものであるかのように素通りしなければ、その仕事を片付けることはできない。

薪割りエピソードは伏線で、薪と台の関係は、ヴィジョンと作品の比喩として語られる。

ヴィジョンとは、書こうとする意志のコアになる。その外面は、問いや落書きで埋めつくされたメモや、本に引かれた傍線や(手書きの)注釈だったりする。だが、それをそのまま紙に書きつけようとしても、言葉はまとまらず、バラバラな木っ端になるだろう。

だから、ヴィジョンを明確に心に置いたまま、まるで透明なものであるかのように素通りして、作品に集中するのだ。

取っておくな、使い尽くせ

テクニカルなものは無いが、心構えのようなアドバイスはある。

「自分の骨を知れ」や「いまにも死にそうな人のように書け」、あるいは「自分が愛するテーマではなく、自分だけが愛するテーマを探せ」とか、「取っておくな、全て使い尽くせ」など、𠮟りつけ、励まし、尻を叩き、手を引っ張る。

そして、どんなに書くのに苦労しても、どれほど愛着がある文章であろうとも、それを入れることで全体が弱まるのであれば、大胆に捨てろと言い切る。これには勇気が要るけれど、それをしなかったが故に、水増しされた本がなんと多いことか。

それでも、書くのは自分だ。なにをどう書くのかも含めて、書き手の仕事である。お手軽なヒントを求めようと縋りつく人には、「プロセスに意味はない。跡を消すがいい。道そのものは作品ではない」とバッサリ斬りおとす。

この章の最後に、ミケランジェロが弟子に宛てた手紙が引用されている。こうある。

「描け、アントニオ、描け、アントニオ 描け、時を無駄にするな」

私自身、本を書くという長い長い作業をしているとき、支えとなった。挫けそうなときに開くだけで、薪をくべ、心を燃やし続けることができた。

本書は長らく絶版となっていたが、この度復刊された。旧版はべらぼうな中古価格となっていたが、ようやくお薦めできて嬉しい。

どのページを開いても、勇気づけられるメッセージが並んでいる。『本を書く』は、あらゆる「書く人」に贈りたい。

 

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