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いかに良く生きるかは猫が知っている『猫に学ぶ』

  • 生きる意味とは何か
  • いまの自分に満足できない
  • 人生の価値が分からない
  • 自分は何者かになれるのか、あるいは、何者にもなれないのか

これらを考えている人に、「猫を見ろ」とそそのかす。人は猫にはなれないし、猫のように生きることもできない。

なぜこんな悩みを抱えているのかまで掘り下げると、超リアリスティックな解に行き着く。いかに良く生きるかは、猫に学べと。人は、猫のように生きることはできない。だが、猫が生きるように生きることはできるという。

人生に意味を求める理由

そもそも人は、なぜ生きる意味を求めるのか? 自分自身の生活を超えたところに「価値」だの「生きがい」を探すことをやめられないのはなぜか?

この疑問に、古今東西の哲学者や文学者を召喚する。プラトン、ピュロン、エピクロス、マルクス・アウレリウス、パスカル、スピノザ、モンテーニュ、ウィトゲンシュタイン、コレット、谷崎潤一郎、ゲイツキル……引き出しの数がハンパない。著者はオックスフォード、ハーバード、イェールで教鞭をとった政治哲学者で、博覧強記が服着ているようなもの。

様々なエピソードや引用を紹介しながら、人生に意味を求めるのは、死の意識が裏側にあると結論づける。人生が終わることを恐れるあまり、人は、哲学や宗教を発明したという。そこで説かれる「人生の意味」*は、自分が死んだ後も続いていくからだ。主義や宗派が説く物語に対し、ひとまず自分の人生を任せることで、安心を得ることができる。

その結果、自分が作り上げた人生の物語に支配されることになる。その物語の登場人物になろうと努力するあまり、人生は自分のものではなくしてしまうというのだ。

そして、大切な人を喪うとか、生活が危険にさらされるといった出来事が起きるたびに、物語は壊れる。自分の人生を悲劇に仕立てることも可能だが、最も恐ろしいのは、「そんな物語なんて、最初からなかった」ことに気づくことだろう(そうならないために、ますます強く、物語にしがみつくことになる)。

猫から学ぶ良い人生

著者は説く、猫を見ろと。

猫は哲学を必要としない。自分の本性に従い、自分の人生(猫生?)を肯定して生きている。

人間という動物は、自分ではない何かになろうとすることをやめようとせず、そのせいで、当然ながら悲喜劇的な結末を招く。猫はそんな努力はしない。人間生活の大半は幸福の追求だが、猫の世界では、幸福とは、彼らの幸福を現実に脅かすものが取り除かれたときに、自動的に戻る状態のことだ。

猫がやっていることは、良い人生を「選ぶ」のではなく、「発見」することだという。自分が望む人生を追い求めるのではなく、そこで自分が満たされる生き方を見出すことだというのだ。

猫は、「いまを生きる(carpe diem / seize the day)」を実践している。あるいは、「人生がレモンをくれるなら、レモネードを作りなさい」なのかも。レモンという不遇に「意味」なんて探すことが、苦悩の始まりかもしれぬ。

いかに良く生きるかについて、ヒントが10、まとめられている。哲学や宗教からではなく、著者が、猫から学んだヒントになる。

  1. 人生は物語ではない
  2. 理性的になれと説教しない
  3. 時間が足りないと嘆くのは馬鹿げている
  4. 苦しみに意味を見出すのはやめよ
  5. 他人を愛さなくてはならないと感じるよりも、無関心でいるほうがいい
  6. 幸福を追求することを忘れれば、幸福が見つかるかもしれない
  7. 闇を恐れるな。大事なものの多くは夜に見つかる
  8. 眠る喜びのために眠れ
  9. 幸福にしてあげると言ってくる人には気をつけろ
  10. 猫のように生きる術を学べなかったら、気晴らしという人間的な世界に戻れ

ヒント1は、この記事で紹介した。他は6章「猫と人生の意味」をあたってほしい。もっとも、猫と暮らしている人には自明すぎることなので、本書は必要ないかもしれぬ。

表紙は可愛いが、かなり深いところまで連れ込まれる哲学エッセイ。

 


* もちろん「人生に意味などない」という宗教もあるが、「『人生に意味は無い』という意味」は引き継がれている。

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コメント

ちょっと数理的になるけれどダイセルイノベーションパークの久保田邦親博士(工学)の材料物理数学再武装って品質工学と人工知能のあいのこみたいで面白いよ。AIのブラックボックス問題はこれを使って教えるといいと思った。

投稿: DX担当新米技術士 | 2022.06.10 03:07

暗黙知の数理科学とでもよべばいいのか。

投稿: ロボティクス | 2022.12.24 05:36

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