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一行で刺す『心ゆさぶる広告コピー』

「言葉の力」というものを、わりと本気で信じている。

なぜなら、わたしに響くから。なんでもない一言や、ちょっとした感謝の言葉で、グッと気分が変わってくるから。

だから自分向けの言葉のコレクションをしている。

ネットや本からかき集めた、どこかの誰かの言葉集は、ダウナー気味の処方箋になったり、心を落ち着かせる呪文になったりする。

『心ゆさぶる広告コピー』が良かった。

もちろんスポンサーがついていて、宣伝のための言葉なのに、たった一言で、私を刺しに来る。

世界がいつかまた、騒がしくありますように

コロナの時代を反映して、コピーが大きく変わっていることが分かる。

たとえば、70年目を迎える大井競馬の開幕の広告がそうだ。

 

 

2020年、外出自粛の世の中で、弱ってゆく活気と、膨らんでゆく不安の中、東京で最初の緊急事態宣言の前日に掲載されたという。

ポイントは「騒がしく」という言葉選びだったという。

「騒がしく」って、本当はネガティブな響きを持つ単語だ。だが、清濁併せ呑んだ”人間のまるごと”を肯定するメッセージを込めて、「賑やか」ではなく、あえてこの言葉を選んだと説明されている。

2020年、夏、部活

学校は休校になり、インターハイを始め、様々な大会が中止になった夏、自主練に打ち込む若者たちを描いている。

野球やサッカー、吹奏楽部などに所属する生徒のインタビューから聞こえてくるのは、悔しさ、不安からくる、「もうできないんじゃないか」という危機感と、「それでもやりたい」と揺れ動く気持ちだ。

  • 発表された時は、無心でした。全然受け入れられなくて(吹奏楽部3年)
  • 何のために部活頑張ってきたんだろう(サッカー部3年)
  • あの空間、あのメンバーで練習する時間が、幸せだったんだなって(テニス部3年)

急激な社会の変化によって、できなくなったこと。やりたかったこと。やれば良かったと後悔していること……そうした「思い」は沢山ある。じゃぁどうするか? となったとき、「できることをやろう」とひたむきに練習する。

  • 今までやってきたことが、決して消えるわけじゃない(バスケットボール部3年)
  • 「あなたがしてきた事は絶対無駄にならないし、この先もずっと自分のためになる。」と母が言ってくれました(ボクシング部3年)
  • 自分たちはこういう経験したからこそ、これからもっと強く生きていけるんじゃないかなと思っています。自分の未来はこれからなんで(野球部3年)

インタビューからすくい取られた言葉の一つ一つが、そのままコピーになっている。私が部活に励んだのは昔のことだが、「じゃあ私はどうする?」という気になってくる。

最後だとわかっていたなら

9.11同時多発テロの追悼会で朗読され、3.11東日本大震災の復興広告に掲載された詩。

もとは、我が子を事故で亡くした母がつづったものだという。後悔、苦悩、思い残し、ああすれば良かった、なぜあんなことをしたのだろう……さまざまな無念が去来するのが分かる。

タイトルから刺しに来ているが、わたしが最も響いた箇所を引用する。

あなたがドアを出て行くのを見るのが
最後だとわかっていたら
わたし はあなたを抱きしめて キスをして
そしてまたもう一度呼び寄せて 抱きしめただろう

たしかにいつも明日はやってくる
でももしそれがわたしの勘違いで
今日で全てが終わるのだとしたら、
わたしは 今日
どんなにあなたを愛しているか伝えたい

そして わたしたちは 忘れないようにしたい
若い人にも 年老いた人にも
明日は誰にも約束されていないのだということを
愛する人を抱きしめられるのは
今日が最後になるかもしれないことを

私はときどき、いや、しょっちゅう、明日はまた来ると確信し、明日をあてにして生きている。そして、今日どころか、今いうべき言葉―――「ごめんね」や「ありがとう」―――を先延ばしにしてしまう。

その、先延ばしにした今日を、明日になって後悔しないために、この言葉を使おう。

心ゆさぶる広告コピー

本書には、こうした「刺しに来る」言葉が沢山ある。以下、ほんの一例。

  • 幼児と老人を並べた写真に、「人は、一生育つ」というメッセージを添えたベネッセ
  • 「大丈夫。きみの悩みは、 もう本になっている」という言葉とともに、様々な引用句を並べた新潮文庫の100冊
  • 「結婚しなくても 幸せになれるこの時代に 私は、あなたと結婚したいのです」というゼクシィのコピー(これ好き)
  • 「その一石は、誰にとっての正義ですか」と問うてくる北國新聞社の広告(その後「言葉の先に人がいる」と続く)
  • ビルの真ん中に描かれた赤い線に書かれた「ちょうどこの高さ」。3.11の津波は見上げるほどであることが分かる、ヤフーの屋外広告

 

わたしは、言葉によって生きている。だから、言葉を選ぶことによって、生き方をよくしてみよう。その糧となる一冊がこれだ。

よい言葉で、よい人生を。

 

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