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一文字も読まずに本を評価する3つの方法

読むべき本が積み上がっているのに、面白そうな新刊が出てきた。ルトガー・ブレグマン『Humankind』という新刊だ。

「激推し」「人間への見方が新しく変わる」「正しく世界を認識できる一冊」など、インフルエンサーたちの熱き言葉が飛び交い、評判がよさそうだ。おまけにKindleという便利なボタン一発で買えてしまうので、お財布はいつだってピンチだ。

だが、ちょっと待て。

本当にそれは「いま読むべき」なのか? 本当にそれで「あらゆる疑問がクリアになる」のか? 財布のダメージもさることながら、集中力や時間といったリソースも無駄にしたくない。

信頼できる書評家に頼る

そういうとき、私は信頼できる書評に頼る。

基本読書の冬木糸一さんが頼りになる。私の興味と重なる新刊をいち早く・数多く紹介してくれるので、ありがたい。面白いポイントをつかみ取り、ポジティブに評価している。

そんな冬木さんが慎重な書き方をしている。読み物としては大変面白いが、都合の良い事例ばかりをチェリーピッキングしているらしい。

議論の進め方については、主張に都合のいい事例ばかりずらずらと並べたてて大量の都合の悪い事例をまるごとシカトとしているようにみえるのもイマイチである

こういう場合は、ちょっと様子見になる。

専門家のレビューを探す

さらに、有力な方法を知った。

はてな匿名ダイアリーで「学術書の類を読むときはプロによる書評も一緒に読め」という記事だ。

私は普通、Google 検索で検索し、一般の評判を知ろうとする。だが、Google ではなく、Google scholarを使えという。

いわゆる書評家ではなく、その分野の専門家のレビューを参照せよ、というやり方だ。ここでヒットするのは、C.R.ホールパイクなる文化人類学者のレビューになる。

A Sceptical Review of Bregman’s 'Humankind: A Hopeful History'

これによると、『Humankind』の著者ルトガー・ブレグマンはジャーナリストで、素人臭い人類学を述べ立てており(amateurish anthropology discussing)、人類学についてはほとんど知らない(knows very little anthropology)と、なかなか辛辣だ。ブレグマンの主張のダメな点も述べられており、これはこれで面白い。

確かに、専門家の意見は、信憑性について参考になる。だが、一人を鵜呑みにするのもの怖い。日本だけかもしれないが、トンデモないことを言い出す大学教授や脳科学者を知っているから。

「評判の評判」という集合知

そこで参考になるのが、Goodreads の「評判の評判」だ。

世界最大の書評SNSで、ユーザ数も書評数もダントツである。★1~5段階で、評価を付けることができる。Amazonと同じだね。

嬉しいのは、各書評にいいね(like)を付けることができ、その数の順番に並んでいる点だ。

もちろん日本語圏の書評SNSでも同じ機能はあるが、なにせ母集団の桁が違う。いいねの数が多いほど、集合知を経た書評となっている。いわば、その本の評判の評判が分かる。

★の段階ごとに、いいね数の多い書評を見てみよう。原著はオランダ語で書かれているため、オランダ語の書評も多い。翻訳はDeepLに任せて、評判の評判を抜き出してみるとこうなる。

★★★★★の書評より

  • 最高のポップ・ノンフィクション
  • Mitch Prinstein ”Popular” の次に読むと良い
  • ジャレド・ダイアモンド、スティーブン・ピンカー、リチャード・ドーキンスに対する興味深い反論を提示する
  • 人間とは何かについての思い込みに疑問を抱かせる
  • 人類にとってかなり悲劇的で困難な時期に、希望を与えてくれる
  • むやみに複雑な書き方をしていないので、常にストーリーを追うことができる
  • 笑ってしまうような話や逸話が多く、特に研究や事実、数字には目を奪われる

★★★★☆の書評より

  • 楽観主義者のための本
  • ホロコーストのような残虐行為を、ほぼ全員が善人である世界で説明しようとして堂々巡りをしているのは面白い
  • Covid-19のおかげで、いかに多くの人が他人のことを気にかけないかが分かった。マスクが嫌だからといって、ウイルスを他人にうつして、誰かが死んでも気にしない。ブレグマンは今の時代に同じ本を書くだろうか?
  • 人は基本的に善良であるという前提からスタートし、自分の主張を「証明」するためにあらゆる研究を引っ張り出してくる

★★★☆☆の書評より

  • 楽観的でポジティブな希望をもたらしてくれる
  • 証拠や論証より、個人的な経験が重視されており、説得力に欠ける
  • 感嘆詞や修辞的表現が多い
  • スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』のぶ厚さや、グラフやデータが大量にあることを攻撃しているにも関わらず、ブレグマンは数ページで否定してみせる

★★☆☆☆の書評より

  • 幼稚で、感傷的で、偏見に満ちている
  • 学術書ではなく、ジャーナリスティックな本で、それが我慢できない
  • もっとソースを、もっと逸話を減らしてほしい。物語を減らし、事実を増やしてほしい

★☆☆☆☆の書評より

  • 現実を直視してください
  • 何としても自分の世界観を歴史に投影するため、彼は本の中でゴールポストを動かし続けている

結論と次のアクション

少なくとも私にとっては不要だということが分かった。

この本を読まないために30分使ったが、収穫はあった。★4で↓のコメントをした、Jennaさんのレビューだ(フォローした)。

  • ホロコーストのような残虐行為を、ほぼ全員が善人である世界で説明しようとして堂々巡りをしているのは面白い
  • Covid-19のおかげで、いかに多くの人が他人のことを気にかけないかが分かった。マスクが嫌だからといって、ウイルスを他人にうつして、誰かが死んでも気にしない。ブレグマンは今の時代に同じ本を書くだろうか?

少なくとも、ホロコーストの箇所だけは読みたいと思った。人の善性を強調する著者が、どのような議論(擁護?)を試みようとしているかは、読みどころの一つだろう。

全体を通して見えてくるのは、この本をベタ誉めしている人は、楽観主義者(もしくはそうありたい人)が多いということだ。人の善性を信じて世界を解釈したい、あるいは他の人もそうあって欲しい……そんな人が、本書に高い評価を与えているように見える。

重要なのは、その本を読むかどうかだけでなく、その本を評価している人は誰で、何に対して評価しているかだ。それが、次の一冊を探すときに、その人を頼るかどうかの標になる。

自分にとって優れた本を探す秘訣は、「本を探すのではなく、人を探す」になる。具体的な方法は、『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の第一章に書いた。第一章に付け加えるなら、Goodreadでレビューアーを探せ、だね。

良いレビューアーで、良い本を。

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