英文読解の思考プロセスに特化した『英文解体新書』
英語を読むのが苦手だ。
たとえばこれ。
That the guy survived the accident surprised everyone.
意味は分かる。難しい単語は無いから、単語だけをつなげばなんとなく分かる。でも、それじゃダメなんだ。
問題なのは、最初の That が何なのかを知るために、最後まで読む必要があるところ。
この That は、「あの」を意味するザットじゃなくって、「奴が事故を生き延びたこと」を指していて、なおかつ、この文全体の主語になっている。それに気づくために、全部読む必要がある(←ここがダメ)。
これ、短い文だからなんとかなってしまうけれど、ちょっと長くなると、たちまち問題が顕在化する。
Although almost everyone admits that social media has changed the way in which people live, whether it will remain as popular in the years to come as today remains to be seen.
最初が Although だから、前提とか条件なんだろうな……とかあたりを付けるんだけど、その中で主語や動詞が出てくるので、どこがどこに掛かっているのか迷子になる。
得意な人なら、that や in which、カンマを道しるべにして頭から読み解いていくのだろう。だが、それができない。いったん文章を最後まで読み、後戻りして意味を当てはめながら構造を考えている。
もちろん、そういう勘所は、普段から英語に慣れる環境を作り、多読多聴することで自然と身につくものなのだろう。だけど、そこまで英語を頑張るつもりはない。論文の概要や tweet をサクっと読めればそれでいい。
それも、なるべく少ない努力で、頭から構造が分かる(推理する)ことができるようになりたい。
英文読解の思考プロセスに特化した参考書
ムシが良すぎる目標だが、読書猿さんからお薦めされたのが『英文解体新書』だ。一言で述べるなら、英文を読むための思考プロセスに特化した参考書になる。
どこに着目し、どういう風に考えると、正しく読解できるかを体系化し、100語~200語程度の例題を実際に読むことで、その力を身につける。
たとえば、最初の例文だと、予測を立てて、英語の語順に従って選択肢を絞り込む方法を提示する。
- 最初の That を見た時点で、次の可能性を考える。
A. That が代名詞として、文の主語となっている場合(That is great.)
B. That が名詞を限定している場合(あの本の、「あの」のザット)
C. That が接続詞として後に節を作り、that 節全体が文の主語となっている場合(That he passed the exam is ture.)
- 次の the guy を見た時点で、AとBの可能性は消える。なぜなら、Aだと、次に来るのは動詞だから。動詞に the は付かない。Bだと that guy ならあるけど、guy に既に the が付いている。
- Cなら接続詞で、文の最初だから主語だろうと予想して追っていくと、the accident とつながらない形で、surprised everyone と動詞と目的語に辿り着く。
こんな感じで、目だけは左から右に進めながら、予想を立て、可能性を排除しながら読んでいく。
当たり前だが、英語と日本語では構造が違う。その構造の英語らしさを押さえておくと、読み取りが各段に精確になる。
情報の流れを考える
腑に落ちたのが、受動態について。
学校で、受動態をあまり使わないようにと習った覚えはうっすらとある。だが、その理由は「主語が曖昧になるから」といった程度しか覚えていない。そして、受動態を使うべきタイミングは、まったく覚えていない。
だが、本書の「情報の流れと特殊構文」で腹落ちした。
まず、英語の基本的なルールとして、主語が文のトピックであり、動詞句が構成する述語部分は、そのトピックに対するコメントになる。言い換えるなら、トピックが変わらないのであれば、主語は変わらない。
The castle is one of the most beautiful buildings in the world. It was built in the Edo period and has since been a symbol of our country.
この文章は、The castle についての説明だ。一文目の主語は the castle で、文のトピックになる。そして、2文目に移っても、文のトピックは変わらない。
しかし、もし2文目で能動態の文を使おうとすると、「城を建てた人」という新しい情報を入れることになる。話者が伝えたいのは城がトピックなので、新しい情報は余分になる。こんな場合に、受動態が必要になる。
受動態は、主語が曖昧になるからダメというのではなく、情報を出す際に余分なものを省き、流れをコントロールする仕組みだということが分かった。
難関大学レベルの参考書
こんな感じで、英語を読む勘所を押さえていった。
情報の流れや文章の構造を考えながら、省略が起きたり、語順の入れ替わり、構文の擬態、破格的な構造が紹介される。難しさ的には難関大学の受験レベルになる。
例文となるものは、カズオ・イシグロの小説やオバマ大統領の演説、ジャレド・ダイアモンド、スティーヴン・キングなど、硬軟取り揃えている。
本来なら、沢山の記事や書籍を浴びるように読むことで身につけるポイントが、およそ250頁、2,200円で手に入る。[ここ] の技法で35日で読み切った。
結果、読解の苦手意識は完全に消えて、ムスカの「読める……読めるぞ!」状態になっている。コストパフォーマンス的には最高の一冊と言っていい。
ただし、一読して身についたとはとても言えぬ。周回を重ねて自分のモノにしよう(読書猿さんありがとう!)。
最近のコメント