読書は毒書、マンディアルグ『黒い美術館』
ぬるい小説はいらん。読んだら心が抉られるような劇薬を、読みたい。
「号泣した」とか、「ページを繰る手が止まらない」といった誉め言葉が満ちているが、そんな気分じゃない。むしろ、「読まなきゃよかった」とか、「ページを繰る手をためらう」作品が読みたい。
そんな劇薬を『スゴ本』で語った(怖いもの知らずは、特別付録の「禁断の劇薬小説・トラウマンガ」をご覧あれ)。すると嬉しいことに、「それが猛毒なら、これなんていかが?」と紹介していただいた。
それが、マンディアルグの傑作短篇集『黒い美術館』だ。
マンディアルグ!
知ってる人はドン引く強烈な作家で、代表作の『城の中のイギリス人』では、エロスと残虐性を徹底的に追求している。これ喜んで読む人は、ウェルカムトゥ・ザ・変態・ワールドやね。
収録されているのは以下の5編、純粋無垢の存在を、残虐に汚す才能が、如何なく発揮されている。
- サビーヌ
- 満潮
- 仔羊の血
- ポムレー路地
- ビアズレーの墓
マンディアルグの凄いところは、物語に出てくるイメージが、読者に与えるコントラストを操作しているところ。読み手の脳内で起こる「映え」やね。
たとえば、由緒あるホテルの真っ白な浴室と、そこでリスカして飛び散った大量の血潮のコントラスト。あるいは、ウサギの可愛いモフモフした感じと、屠殺人が使う冴えわたった刃物の鋼鉄のイメージ。月の運動によって生じる満潮のタイミングと、処女の口の中にぶちまけるという発想。
猛毒だとお薦めされたのが、「仔羊の血」だ(@hikimusubi さん、ありがとうございます!)
これは素晴らしくエロスなやつ。えっちなやつではなく、油ギッシュで臭うやつ。
少女と黒人、仔羊と屠殺人、赤い血と黒い手といったコントラストに、色とりどりに塗られた仔羊の群れが加わったり、脂でべとついた毛皮から処女の秘処に這い上るシラミ(後に猛烈な痒みをもたらす)のイメージが美麗なり。
むせるような麝香(じゃこう)の匂いと、股の下の仔羊のべとついた肌ざわりと、うごめくシラミの痒みのせいで、少女はこらえきれず尿を洩らしてしまう。その直後の、黒人の手の描写が秀逸だ。
間髪を入れずに、黒人の両手が彼女をひっつかんだ。なめらかに乾いた大きな二つの手が、知能をそなえた高等な寄生虫みたいに、ゆだねられた肉体の上で我がもの顔に、肌着の下へもぐり込み、乳房のまわりへ忍び寄り、下腹部に触れ、まさぐり、さまよい、それから濡れた股に沿って太腿の付け根へと引き返すのだった。
どうして二人がそんなことをしているのか、これらから彼女がどうなるのか、さらに黒人にどんな運命が待ち構えているのか。気にするな、ストーリーこそ余談だ。代わりに、ビジュアルの鮮烈さに撃たれ、もどかしい体感に身をよじり、おぞましい臭いを嗅ぐがいい。
読書は毒書、ただ酔えばいい。

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