オンライン読書会で何が怖いか募ったら、1位が人間、2位が自然だった
お薦め本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会、それが [スゴ本オフ] 。
いつもは皆で集まるのだが、世情が世情なだけに難しいので、Zoomでオフ会することになる。「オンラインでするオフ会」とは奇妙だが、主流になりつつある。
とはいってもノリは同じで、テーマを聞いてピンときたお薦めの作品への愛を語る。本でも映画でも、音楽やゲームなんでもあり、展覧会や舞台を紹介して頂いたこともあった。
で、今回のテーマはホラー。夏には少し早いけれど、現実がホラーに侵食されつつあるいま、リアルに呼応したところに反応してしまう。『呪術廻戦』から『The Last Of Us』まで、様々なホラーが集まる。
人間が一番こわい
いくつかの作品に共通するのが、「生きてる人間が一番怖い」という思いだ。ゾンビや妖怪、ウイルスや獣といった類は、だいたい何をするか分かる。やってることは殺人や破壊でも、当人にしてみれば食事だったり繁殖になる。
だが、生きてる人間は、何をするか分からない。それぞれの欲望を秘め、とんでもなく邪悪なことを平気でしでかし、言い逃れ、あくまで自分が正しいと言い張る。
わたしが紹介した、『The Last Of Us』なんてまさにそうだ。謎の寄生菌のパンデミックが発生し、荒廃した世界で生き抜く男と少女を描いたサバイバルホラーだ。寄生されゾンビ化して襲ってくる異形は、確かに怖い。捕まったら即死というモンスターもいる。
だが、狂った世界で最も怖かったのは、人間だ。
人間は「意図」が分からない。なまじコミュニケートできるからこそ、不気味だ。主人公たちは、異形のモンスターだけでなく、自分たちを陥れようとする人間をも相手にしなくてはならない。
「なぜ人間どうしで争い合うのか?」という質問をもらったが、ネタバレを回避すべく、「いちばん不足している物資は、食料だ」と答えておく。来月続編が出るが、おそらく、最も厄介な敵は、人間だろうな……
「人間が怖い」つながりで出てきたのが、みづほ梨乃『ショコラの魔法』だ。
「どんな願いでも叶えてくれる」魔法のチョコレートをめぐる少女コミックなのだが、これが怖い怖い。人は、さまざまな願いを持っている。キレイになりたいとか、成功したいとか、イヤなあいつを陥れたいとか―――そういう願いが、チョコレートという触媒を経て「欲望」に変わる。
もちろん、約束どおり欲望は満たされる。美しくなるとか、あいつが酷い目に遭うのだが……予想通り、後味の悪いノワールな展開になる(ジェイコブズ『猿の手』のパターン)。「小さい女の子に読ませて大丈夫かよ!?」と思ったけど、むしろ「等価交換」とか「人を呪わば穴二つ」を学ぶ良い機会なのかも。
自然は怖い
心臓がキュッとなるのがこの映像。
米国の有名なクライマーが、素手で岩を登ってゆくのだが、安全装置などは使用していない。
岩の割れ目の狭いすき間に手を差し込んだり、ほんのわずかなでっぱりに指をかけて、身体を持ち上げる。柔らかそうなシューズが、ただ壁に当たっているだけで、どこも引っ掛っていないように見える(でも立っている)。
「フリーソロ」というらしいが、見ているこっちの心臓に悪い。あたありまえだが、落ちたら死ぬ。CGであって欲しいのだが実写。その映画がこれ。
山つながりで、ディアトロフ峠事件の紹介も。
1959年に、ウラル山脈で9名の男女が遭難事故があったのだが、その現場が酸鼻を極めていたという。氷点下の極寒の中で衣服もつけておらず、全員が靴を履いておらず、3人は頭蓋骨折、1人の女性は舌を喪失しており、異常なほど放射線が残っていたという。
この謎に迫ったドニー・アイカー『死に山』が紹介されるのだが、ネタバレ抜きの感想としては、「自然は怖い」になる。この事件がベースとなり、ブレアウィッチプロジェクト(映画版)ができたと聞く、知らなかった!
自然が怖いつながりで、『羆風』が出てくる。吉村昭『羆嵐』かと思いきや、釣りキチ三平を描いた矢口高雄の劇画だという。モデルとなっているものは同じく[三毛別羆事件]だ。人間の味を覚えた羆が数度にわたり村を襲った事件で、圧倒的な暴力の前に、人は成すすべもないことが分かる。『羆嵐』は凄かったので、『羆風』を読んでみよう([Kindle アンリミで読み放題])。
他にも、日常とデモが共存する香港の現実や、フォトショで作る最近の心霊写真の話、日本人だとラヴクラフトは怖くない、あるいは映画版『シャイニング』が許せるか等……
「怖さ」といっても様々であることが分かる。いろいろ伺ったが、わたしにとっては、やはり人間が一番恐ろしく、次が自然になる。お化けや妖怪の類は、怖いというより親しみを感じてしまう。
以下、紹介された作品リスト。次回は、「冒険」をテーマにお薦めしあいましょう。
- The Last Of Us(ノーティドッグ開発)
- The Last Of Us Part II (ノーティドッグ開発)
- 雨月物語 吉備津の窯(上田秋成、石川淳、ちくま文庫)
- エミリー・ローズ(スコット・デリクソン監督)
- プリースト 悪魔を葬る者(チャン・ジェヒョン監督)
- 巷説百物語(京極夏彦、KADOKAWA)
- うわさの怪談 闇(マーク・矢崎治信、成美堂出版)
- ショコラの魔法(みづほ梨乃、小学館)
- 猿の手(ジェイコブズ)
- 化物語(西尾維新、講談社)
- オジいサン(京極夏彦、KADOKAWA)
- ねじの回転(ヘンリー・ジェイムズ)
- 呪術廻戦(芥見下々、集英社)
- チェーンソーマン(藤本タツキ、集英社)
- 絶対帰還。(クリス・ジョーンズ、光文社)
- ディアトロフ峠事件
- 死に山(ドニー・アイカー、河出書房新社)
- ブレア・ウィッチ・プロジェクト(エドゥアルド・サンチェス監督)
- フリーソロ(ジミー・チン監督)
- 神秘家列伝(水木 しげる、KADOKAWA)
- この世の王国(アレホ カルペンティエル、水声社)
- ヨハネの黙示録(小河陽、講談社)
- なにをたべたかわかる?(長新太、絵本館)
- プリニウス(ヤマザキマリ、とり・みき、新潮社)
- 狂気の山脈にて ラヴクラフト傑作集(田辺剛、KADOKAWA)
- ハンニバル・レクター博士のモデル(ヘンリー・リー・ルーカス)(URL)
- 風の谷のナウシカ(宮崎駿、徳間書店)
- ペスト(カミュ、新潮社)
- インターステラー(クリストファー・ノーラン監督)
- シャイニング(スティーヴン・キング)
- シャイニング(スタンリー・キューブリック監督)
- 羆風(戸川幸夫、矢口高雄、ヤマケイ文庫)
- 福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件
- 八九六四 「天安門事件」は再び起きるか(安田峰俊、KADOKAWA)
- 勇午 香港編(真刈信二、講談社)
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