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オンラインで読書会したら、すごく楽しかった

好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合うオフ会、それが [スゴ本オフ]

いつもはワインやビール、サンドイッチや唐揚げを持ち寄って、食べながら飲みながら歓談するのだが、このご時世、無理というもの。

なので、オンラインでやってみた。

時間を決めてURLを伝えて、各人は自分のPCやスマホからアクセスする。オンラインミーティングみたく顔出してもいいし、エヴァンゲリオンよろしくSOUND ONLYも、ROM専ならぬBGM代わりに聞く専もあり。

テーマは「いま、何を読んでいる?」

本を読む人は、言葉に力があることを知っている。心を削る物言いや、注意を擦り減らせるテロップのダメージ敏感だ。

だから、テレビを消して、SNSを閉じて、好きなものに没頭したくなる。そんな、自分を楽に、夢中に、解いてくれる本はなんだろうか? リアルに集まって話せない今だからこそ、ネットで交流してみよう。

もちろん、いつもどおり、本に限らず、映画やドラマやゲームなど、「いま読んでる/観てる/プレイしてる」作品もOKだ。

行けない旅を慰める『乙嫁語り』

俺得だったのが、友美さんご紹介の森薫『乙嫁語り』

聞けば、このGWに、中央アジアの旅を予定してたという。何百年も昔からあるブハラのサウナで蒸され、サマルカンドの家庭料理を習い、キルギスの草原を馬の背に揺られ、夜はユルト(遊牧民の天幕)で眠る旅を計画していたのが―――行けなくなった代わりに『乙嫁語り』を読み返しているとのこと。

『乙嫁語り』を未読という幸せな方向けに説明すると、これは、19世紀後半の中央アジア・シルクロードを舞台に、厳しい自然の中に生きる人々を描いたコミックだ。「乙嫁」(かわいいお嫁さん)というキーワードで、のんびりした生活からハラハラする活劇まで、ゆっくり、たっぷり楽しめる。

以前、[結婚は素晴らしい v.s. 結婚は人生の墓場] というテーマでスゴ本オフをしたのだが、そこで強力にプッシュされ、手に取って大正解だった。美しく、可笑しく、ときに愚かで、愛おしい人々の群像劇に、ほっこりしたり目を潤ませたり。

スゴ本オフ「結婚」より

Kekkon

そこで出てくる食べ物がめちゃめちゃ気になるんだ(私の偏見だが、本好きは食いしん坊と相場が決まっている)。巨大な鍋で皿を蓋代わり作る焼きメシや、キジの串焼きなど、あれ美味しそうだよねーと語っていたら、こんな記事を紹介される(このレスポンス、オンラインのいいところだね)。

[レッツ乙嫁クッキング~森薫と作るかんたんおいしい中央アジア料理]

これ、作者自身が、『乙嫁語り』に出てくる料理を再現するという企画。絵こそ描いたものの作るのは初めてらしいが……めちゃめちゃ美味そうやん! 特に鉄串にトリ肉刺して唐辛子振ってグリルするなんて最高やん。

さらに、物語の時代背景や地域の状況を解説したムック本『超解読 乙嫁語り ~中央アジア 探索騎行』を紹介してもらう。知らなかった! こんな素敵な解説本が出ているなんて。

さらにこれ、本で買うと1,980円なのに、kindle unlimitedなら無料という情報も教えてもらう(嬉々として借り出す、なんという俺得)。

まだある。『乙嫁語り』から派生して、メンバーから次々と出てくる本が繋がってゆく。

特に、『文明の十字路=中央アジアの歴史』(岩村忍、講談社学術文庫)が凄い。シルクロードを舞台に、アレクサンドロス大王とチンギス・ハーンの侵攻から、仏教・ゾロアスター教・マニ教・イスラムも行き交う中央アジアの雄大な歴史を一冊にしている。これは読む!

他にも、『興亡の世界史 東南アジア 多文明世界の発見』(石澤良昭、講談社学術文庫)や、『ウマ駆ける古代アジア』(川又正智、講談社選書メチエ)、『シルクロード全史』(王鉞、中央公論新社)、『イスラム飲酒紀行』(高野秀行、講談社文庫)など、積山がさらに高くなる。

アジア繋がりで教わったのが、[天空のヒマラヤ部族 決死の密着取材150日] という特番。テレビ朝日60周年記念で力作だったらしい。アマプラに出ないかなぁ……

心の在処が分かる『宇宙よりも遠い場所』

ズバピタさんが熱く紹介するのが、[宇宙よりも遠い場所] 、息子さんのオススメで見始めて、ドハマりしているという。「よりもい」かー! これ大好き。

「よりもい」、すなわち「宇宙よりも場所」を未見の幸せな方に紹介すると、女子高生たちが南極を目指すアニメ。平凡な女の子が、とあることをきっかけに、一歩踏み出す……

高校生が南極? なぜ? どうやって? という疑問に動かされ、コミカルだったりシリアスだったりする展開に振り回され、考証に裏付けられたリアルな描写を通じ、夢や友情、そして生きることを否が応でも考えさせられることになる。

わたし自身、後半のあるシーンで、やばいぐらい泣いた。ええトシこいたオッサンが、声を枯らして号泣したんだ。これ、感動したからとかというよりも、むしろ、自分の心の内側が、名づけえない感情で一杯になってあふれ出した結果が、涙になったんだと思う。

良いナイフを当てると、血が滲み痛いと感じる場所が「私の肉」であることが分かる。同じように、良いアニメを観ると、潮のように押し迫りで一杯になる場所が「私の心」であることが分かる。素晴らしいアニメは、心の在処を教えてくれる。

観てない人は幸せ者だと、わりと本気で思ってる。自分の心の在処を、ぜひ確かめてみて欲しい。

ウイルス感染症は、やっぱり気になる

状況が状況なだけに、ウイルスや感染症に関連する本も出てくる。

たとえば、『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド、草思社)。今の状況で再読すると、また違った味わいがあるという。確かに! 

本書は、地球規模の格差がなぜ生じたのか? という疑問を、遺伝学や進化生物学、地質学、行動生態学、疫学、言語学、文化人類学、技術史など膨大なアプローチから解こうとする。

昔これを読んだとき、説得力のある仮説が実証的に示され、とても面白いという印象だった。だが今読むと、人類と疫病がどのように付き合い、社会や生活デザインにどのように影響を与えたのか、という別の示唆が得られる。

また、ウイルス感染症根絶の歩みを解説する『ウイルスの脅威』(マイケル・オールドストーン、岩波書店)が紹介される。天然痘、黄熱、麻疹、ポリオ、エボラ、エイズ、インフルエンザなど、猛威をふるうウイルス感染症が、国境を変えてしまったこともあるという。

あるいは、『迷惑な進化』(シャロン・モアレム、NHK出版)も面白そうだ。なぜ病気の遺伝子がこれほど多くの人に受け継がれてしまったのか? という観点から、進化医学についてミステリを解くように解説してくれる本らしい。

わたしは、「進化」という言葉を気軽に使う。だが、人類が延々とやってきたことは、どこかに向かって「進み化ける」というよりも、状況の変化に「適応」しているだけなんだと思い知る。

文学に登場する疫病の話も出てくる。カミュの『ペスト』は有名すぎるのでスルーされ、ミッチェル『若草物語』や、スティーヴン・キング『ダークタワー』シリーズが紹介される。

考えてみると、疫病と文学の歴史も古い。確か『デカメロン』はペストを避けて引きこもった男女が語る猥談というふれこみだし、『フランケンシュタイン』も疫病のため疎開するシーンがあった(はず)。疫病で疎開と言えば、アイザック・ニュートンが万有引力のアイデアを閃いたのは疎開先のケンブリッジだった(はず)。

この辺りの、人類と疫病の長い付き合いは、『疫病と世界史』(ウィリアム・マクニール、中公文庫)を再読したくなる。自分で書いててなんだが、この辺りを読むと、かなり予言的なことを述べていたように思える。

本書では、疫病が人類を規定する様が語られる。人と疫病は、あるバランスの上で「共存共栄」してきたともいえる。WHOが天然痘の根絶宣言をしても、エボラ出血熱やSARSなど、新しい疫病が待ちかまえている。ヒトという、ウィルスにとって「肥沃な」場所がある限り、感染症は、人類にとっての基本的なパラメーターなのだ。

ちなみにこれ、Amazonでセドリ屋が高値をつけているけれど、リアル書店で山積みしているぞ。本は買いだめ推奨なので、要かつ急のお出かけ時に買い込むべし。

新しいことを始める=変化に適応する

面白い発見もある。

外に出られない→ネットやテレビ見て心を削る→本や映画に戻る……というパターンを繰り返しているのだが、この状況の変化を、もし利用するなら? という発想だ。

ずばりこれ、「新しいことを始めてみる」である。この際だから、やったことのない料理を始める人、ベランダを菜園にする人、犬を飼い始める人と、様々な「新しいこと」を教えてもらう。

私と同じだったのが、「新しく創作を始める」である。

今まで、読み専、ROM専だった。つまり、次から次へと物語を読むという立場だったのだが、今度は自分で書いてみよう、それも創作してみようというチャレンジだ。

そこで、『めんどくさがりなきみのための文章教室』(はやみねかおる、飛鳥新社)が紹介される。単純に文章テクニックを解説するだけでなく、「いかにその気にさせるか」という、モチベに火をつけるという点でも優秀らしい。

わたしも似たようなことを考えているので、同じ流れで『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』(シド・フィールド、フィルムアート社)を紹介する。映画のシナリオ・物語を創作するメソッドが、これでもかと詰め込まれている。さらに、『ドキュメンタリー・ストーリーテリング―「クリエイティブ・ノンフィクション」の作り方』(シーラ・バーナード、フィルムアート社)が紹介される。

あと、短篇集に手を出すというのもいいかも。

わたしは、読んでも読んでも終わらない超弩級級に面白い『氷と炎の歌』(RRマーティン、ハヤカワ)を粛々と読んでいるのだが、小説読むにも体力が要る。もっと手軽に、さらっと読める短篇が紹介される。

たとえば、モームやオコナー、ボルヘスといった短篇の名手や、時代モノの五味康祐『秘剣・柳生連也斎』、あるいは、飯田茂実『一文物語集』が面白そう。スゴ本オフ [この短篇が好き] でおさらいして、再読するのもい良いかも。あるいは、積山リストに刺さっているルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』も短篇集だったっけ…… この際だから、新しい、知らないジャンルにも手を伸ばしてみよう。

人の優れた能力は、可塑性だと思う。

状況の変化に対し、過去の経験や知見を振り返りながら、上手いやり方を試行錯誤で見つける。これ、AI がどんなにもてはやされたとしても、ヒトに適わない所だと考える。自分の行動をメタに見て、ときには目的すらをも変えて、より「よい」と思われる選択肢を試す。

厄災であれなんであれ、「それ」が終わった後になって、その時していたことは「変化に適応すること」だったことに気づく。そして、その「変化に適応すること」とは、厄災の最中では、「新しいことを試みる」うちの一つの選択肢だったことに、過ぎ去った後になって気づくのだ。

オンラインでするオフ会は楽しい

他にも、様々なネタが紹介される。やすゆきさんの海外ドラマの話が面白い。米国のドラマは本当に玉石混交で、ダメはものは本当に酷いレベルらしい(そしてその数はかなりの割合を占める)。で、その中で最も優れた一握りだけが、邦訳されて日本で紹介される。

確かに、考えてみれば翻訳コストを払ってもペイできる見込みがないのなら、そもそも日本に入ってこないよなぁ、と思う。「日本のドラマは酷い、アメリカは最高」という人がいるが、それは輸入された上澄みだけしか知らないが故の発言なのかもしれぬ。

やはり、Webミーティングだと反応が早いし、「今開いている画面」を共有できるというメリットもある。本棚晒してみた反応も楽しい。Web呑み会も参加したことがあるが、楽しいね。

読書猿さんから「同じ本を読む人は遠くにいる」という寸鉄を教わったが、これは時代や場所を超えて、人は本で繋がれるという意味だ。この応用で、Webミーティングで同じ本を朗読したり、読み合う形式にしてもいいかもしれぬ。

今回はお試しで zoom でやってみたのだが、セキュリティリスクもあるらしい。zoom は、アカウント不要でURLを伝えればWeb会議ができるという優れモノなのだが、それはつまり、URLだけ分かればいくらでも入れてしまうリスクもある。Google ハングアウトも良いらしいので、試してみる。

いずれにせよ、いつものオフ会をオンラインでするのは新鮮だった。「それはオフ会ではないのでは?」というツッコミは正しい。だから、これは「スゴ本オフ」ではなく、今度からは、「スゴ本オン」として開催しよう。

こんな時だからこそ本を読もう。

 

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