「動作」に特化した創作者のためのシソーラス『動作表現類語辞典』
文章を書いていて、似たような表現をくりかえすことがないだろうか。
わたしは、よくある。そんなとき役立つのは、シソーラス・類語辞典だ。関連するワードや概念を別の言葉で表現することで、ボキャブラリーを広げ、マンネリに陥らぬようにする。
よく使うのは名詞や形容詞の言い換えだが、所作や行動に特化した『動作表現類語辞典』が斬新なり。これ、小説やシナリオを書く人にとって、強力な一冊になるだろう。
見出しは全て「動詞」で、五十音順に並んでいる。
たとえば、「教える(teach)」だと……アドバイスする、補助する、承知させる、文明化する、コーチする、調子を整える、忠告する、開発する、監督する、規律に従わせる、改善する、叩き込む、強化する etc……とある。
かなりのバリエーションだが、「教える」は様々な行動になる。ありがちな「アドバイスする」から、状況により「叩き込む」こともありだ。えっちなシーンだと、「教える=開発する」という意味も持つ。眺めるだけで、妄想と語彙力がマシマシになる。
本書がユニークなのは、もとは俳優が用いる演劇の方法論「アクショニング」をベースにしている点だ。
アクショニングとは、舞台や映画で何かを演ずるとき、セリフや行為の一行一行に対し、注釈のように動詞を割り当て、何を「する」のかを考えることだという。そうすることで、俳優は、セリフの方向付けや演技のニュアンスを豊かにする。
この何かを「する」は、必ず「他動詞」すなわち目的語を持つものが選ばれる。誰か(何か)に対して「アクション」をする、常に対象となる客体が必要だというのだ。そして、動作対象に自覚的になることで、セリフの一行、一つのしぐさに、意味と具体性が出てくる。
演技に説得力を持たせるアクショニングは、小説やシナリオを書く時にも役立つ。
すなわち、キャラクターの所作や発話の背景にあるアクションを念頭に、表現を決めることができる。
たとえば、登場人物が「教える」とき、どのように教えるか? ちょっと「アドバイスする」程度から、徹底的に「叩き込む」ように教えるのか? 何かに目覚めさせるなら「開発する」も使っていきたい。
このとき、人物が何を欲し、どんなアクションをしたいのかを予め考え抜いておくことで、そのアクションに対する、より具体的でリアルな動詞を見出すことができる。
カート・ヴォネガットは創作論の中で、「たとえコップ一杯の水でもいいから、どのキャラクターにもなにかをほしがらせること」と指摘した。物語の本質は、登場人物が欲しがっているものを手に入れようと行動することにある。その行動に意味と具体性を与えることがアクショニングであり、これにより演技や描写の説得力が増す、という仕掛けである。
物語作家や俳優、パフォーマーは必携の一冊。
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