「すでにご存知のとおり」←これ
完全に新しい話を、「すでにご存知のとおり……」で始める奴がいる。知らんがな、としかいいようがない。だが、この前置きで始めることで、あたかも本題を「ご存知=ご承知」であるかのごとく扱うのはやめてほしい。そのハゲかけた髪をいっぽんいっぽん抜きたくなる。
仕事場で使われる罠として、「本題より先に前提を混ぜ、あたかも前提が合意されたかのように話を持っていく」という技がある。
つまり、伝えたい主張(本題)に入る前の導入部で、「合意されていない前提」を混ぜ込むことで、本題に反応したら、前提に同意したことにするテクニックだ。フェアじゃないし、卑怯なやり方なのに、空気を吸うように使う奴がいる。
たとえばこう。
「この額で受注を獲得するために、さらに機能を2つ追加し、納期を4週間前倒すことが絶対だ」というやつ。するっと流して聞いてしまいそうだが、ポイントは、「この額」は社内で合意された見積でもなんでもない点にある。
ところが、本題(機能追加と納期短縮)に反応してしまう。「追加機能の仕様が決まっていない」とか、「これ以上の短縮は無理」と返事をしてしまうのだ。そして、仕様がどうだとか納期の調整がどうした、といった話にもっていかれる。
あたかも、「この額」という前提が確定したものとして扱われ、その後の議論がメインとなってしまう。そもそも「この額」でするとかなんて、全く議論していないのに。にもかかわらず、後になって異議を唱えると、「あのときそれで議論して決着ついたじゃん」とあしらわれる。
この罠を使う奴は、本題に無理難題をふっかける。本題がムリであればあるほど、聞いてる人はそこに引っかかるし反応する。わざと食いつきやすく話を大きく振るのが、たまらなく卑怯なり。
この罠が出るたびに、前提の部分を指摘して、「『この額』って、そもそも社内で合意されてましたっけ?」とツッコミを入れる。ところがテキもさるもので、「いまそこを話し合いたいわけじゃない」と跳ね返す。「でも、コストと機能と納期がセットになってないね」と食い下がる。こんな、ゴミみたいな予防線の張り合いが、後になって炎上プロジェクトを押し付けられたときに効いてくる。
この手法、「不当予断の問い」の亜流ともいうべきか。「不当予断の問い」は、YES/NO で答えるクローズドクエスチョンに、不当な前提を混ぜたやつ。「もう奥さんを殴るのを止めたのかい?」が代表的で、YESと答えてもNOと答えても「妻を殴る」前提を認めたことになる。本題を餌にしたオープンクエスチョンで、「不当予断」を通す戦略である。
この罠、かなり高度で、やられた方も気づかない場合が多い。にもかかわらず、上手い言葉が見つからないし、注意を促す警告もあまり見かけない。ビジネスの現場でフツーに使われているが、フェアでもないし卑怯なり。先週もシレッと使ってきた奴がいたので、丁寧に潰してさしあげた。
類似の罠は、『議論の技術』にある。基本から詭弁まで、各種取り揃えている。最も忌み嫌っている「社内政治」で使えることが分かってきて嫌なのだが、降りかかる火の粉を払うためには致し方ない。
本来は、建設的な議論をするための技術だが、キナ臭い現場にも効く。
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