『秒速5センチメートル』、『細雪』、成長期限定アイドルなど、「さくら」をテーマにした読書会
お薦め本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会、それが[スゴ本オフ]。
本に限らず、映画、音楽、ゲームなんでもあり。物理本、電子本、CD、DVD、Blu-ray、youtubeを流しながら、好きな作品を、好きに語る。本の趣味は人の趣味だから、”好き”が重なる人とは合いそうだ。そんな人を見つけ、その人が薦める「わたしの知らない作品」を見つける。本を介して人を知り、人を介して本に会う。
今回は、「さくら」がテーマ。カードキャプターからスクールアイドル、花や人名、イメージや象徴されるものまで、様々な「さくら」の作品が集まったなり。折しも、午前中のセガフェスで[新サクラ大戦]が発表されたのが面白い(完全新作だそうな)。
まず、わたしのイチオシは、『葉桜と魔笛』。太宰治の最高傑作といえばこれ。余命わずかな妹と、それを思いやる姉の話。
恋いも男も知らないまま、妹は死んでいくのか? 不憫に思っていたら、恋文の束が出てくる。それは、見知らぬ男から妹へ宛てたラブレターだった。それだけでなく、二人の関係はドロドロとした深い仲で、別れ話まであった。姉は、手紙の束を焼き捨てた後、偽の手紙を書くのだが……
傑作の理由は、これが姉の昔語りという枠物語になっているところ。「誰が嘘をついているのか」を替えると、二重底にも三重底にも化けるのがすごい。妹への羨望と心配がないまぜになった姉の心情と、少女の性愛への憧れと欲望がムラムラと滲み出ていて良い。青空文庫で無料で読めるが、ここは美麗なイラスト入りの立東舎を推す。
もう一つは、新海誠『秒速5センチメートル』なり。映画、小説、漫画とあるが、この順がいい(理由は後述)。これは、あまりにも完璧な初恋に呪われた男の話。
映画は3編にわたるオムニバス形式で、初恋が記憶から思い出となり、思い出から心そのものとなる様を、驚異的なまでの映像美で綴る。初恋の痛みと「ここじゃない」感を引きずっている人、仕事で磨耗している人が観ると、大ダメージを受ける、危険なアニメである。映画のラストがあまりにも…あまりにであり、山崎まさよしの主題歌を聞くだけで涙ぐむという呪いにかかる。
この呪いを解くために、小説を読むと、ラストで少し救いがある。さらに漫画を読むと、驚愕の後日談で、さらに救われる(じっさい、わたしが救われた)。強力にお薦めする(これは、[はてなブックマーク]の iishun さんのコメントで知った、ありがとうございます!)なお秒速5センチメートルとは、「桜の舞い落ちるスピード」。
読みたい! と思ったのはズバピタさんが紹介した、ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』なり。いきなりマルケスに行くのではなく、まず「さくら学院」を紹介する(テーマでもあるからね)。日本には珍しく、ファンとの接触(握手会など)は一切無いという。物理的に触れることができない「成長する偶像」がさくら学院の持ち味らしい。
そこから、リビドーが満載なのに、徹底的なプラトニックラブを貫く『わが悲しき娼婦たちの思い出』を持ってくる。老いてなお女を求め、14歳の処女を買う男の話なのだが、(絶倫なのに)行為に及ぶことなく、その成長をこっそり見守る……
おや? これ、全裸で横たわる生娘と添い寝する『眠れる美女』(川端康成)そっくりやん、とツッコミを入れると、あにはからんや、『わが悲しき』の扉にその冒頭が書かれている! マルケスは川端に触発されてこれを書いてたんだ。たしかにこれは、若さとか、桜の盛りといったループする「触れられない偶像」の話ですな。
既読だが面白い! と思ったのは、すぎうらさんの『推定少女』と『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』のご紹介(著者が「桜」庭一樹だからという発想もオモシロイ)。型にはめよう、従わせようとする大人社会に対し、それに抗い、闘いを挑む少女の構図だ。共感して、「分かっている大人もいるんだよ」という視点でみるけど、この作品はそれらすべてを拒否するのが凄い。
子どもが生き延びるためには大人になる必要がある。だが、それは勝利なのか。わが娘を大人に育てるのが親の目的ならば、すなわち、「子ども」を「子どもでない存在」にするのが親の目的だとするならば、それを否定したかった主人公の父親は、娘を××せざるを得ないのではないか……と腑に落ちる。
- 『新 日本の桜』写真/木原浩 解説/大場秀章・川崎哲也・田中秀明(山と溪谷社)
- 『山と食欲と私 第7巻』信濃川日出雄(新潮社 バンチコミックス)
- 『葉桜と魔笛』太宰治(青空文庫、立東舎ほか)
- 『秒速5センチメートル』新海誠(映画/小説/漫画)
- 『桜の森の満開の下』坂口安吾/近藤 ようこ(青空文庫、講談社、岩波ほか)
- 『梶井基次郎全集 全一巻』梶井基次郎(ちくま文庫)
- 『推定少女』桜庭一樹(角川文庫)
- 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹(角川文庫)
- 『君がここにいるということ: 小児科医と子どもたちの18の物語』緒方高司(草思社)
- 『薄桜記』五味康祐(新潮文庫)
- 『わが悲しき娼婦たちの思い出』G・ガルシア・マルケス(新潮社)
- 『細雪』谷崎潤一郎(中公文庫)
- 『めぞん一刻』高橋留美子(小学館)
- 『がっこうのおばけずかん』斉藤洋・作 宮本えつよし・絵(講談社)
- 『さくらひらひらとんぴんぴん』わたりむつこ/ましませつこ(福音館書店)
- 『カードキャプターさくら』CLAMP(講談社)
- 『さくら学院祭☆2017』さくら学院(Blu-ray)
- 『眠れないほどおもしろい恋する古文』板野博行(三笠書房)
- 『眠れないほどおもしろい百人一首』板野博行(王様文庫)
- 『ニューヨークで考え中』近藤聡乃(亜紀書房)
- 『A子さんの恋人』近藤聡乃(亜紀書房)
- 『進む、書籍PR! たくさんの人に読んでほしい本があります』奥村知花(PHP研究所)
- 『女系家族』山崎豊子(新潮文庫)
- 『楽園 Le Paradis 第26号』楽園編集部
- 『悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の嘘』アゴタ クリストフ(ハヤカワepi文庫)
- 『冗談』ミラン・クンデラ(岩波文庫)
- 『不滅』ミラン・クンデラ(集英社)
- 『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ(集英社)
- 『ゲーデル、エッシャー、バッハ』ダグラス・ホフスタッター(白揚社)
次回のテーマは、「のりもの」。
クルマやバイク、飛行機といったエンジンのついたものが思いつくが、話していくうち発想が広がる。絨毯を「のりもの」としたファンタジーがあるし、船が「のりもの」なら、湯船だってそうだ。もっと広げると、この大地だって、宇宙「船」地球号になる。
音楽に「ノッ」て気分を上げるならお気に入りのプレイリストを紹介すればいい。サーフボードやスキーに「乗る」ならスポーツになるし、「賭るか反るか」ならバクチになる。わたしのような助平は「男に乗る」「女に乗る」で艶談に引き込みたい。時流に乗っても、相談に乗っても、新聞や雑誌に「載る」のだってアリ。あなたのお薦めの「のりもの」、ぜひ教えてくださいませ。
最新情報は、[スゴ本オフ]をどうぞ。
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コメント
本の紹介、いつも楽しみに読ませてもらってます。
テーマ読書会、楽しそうですね。今回の読書会の一覧になかった、個人的にオススメの作品を紹介させてください。既読の場合は申し訳ないです。
長谷敏司
「My Humanity」の中の一話目:地には豊穣
個人的に「さくら」のイメージが頭に広がったことが、記憶に残っている作品です。
投稿: satoru | 2018.04.16 15:28
>>satoruさん
長谷作品といえば、『円環少女』や『楽園』を読みましたが、『My Humanity』は未読です。お薦めありがとうございます、ぜひ手に取らせていただきます。読み手を選ぶ短編集みたいで、嬉しい限りです。
投稿: Dain | 2018.04.19 07:00