恐怖の報酬は快感!? 「ホラーのスゴ本オフ」
オススメを持ちよって、まったりアツく語り合う読書会、それがスゴ本オフ。
テーマに合った推し本を、5分くらいでプレゼンする。ストレートに作品の魅力を伝えるもよし、お気に入りの一節を朗読するのもよし、その一冊がどう人生を変えたのかを物語るのも楽しい。本に限らず、映画、音楽、ゲームなんでもあり。ボードゲームや演劇、博物館のイベントを紹介した方もいましたな。詳しくはfacebook[スゴ本オフ]をどうぞ。
ところで、「スゴ本オフの存在は知っているけど、なんだか敷居が高くて」という噂を耳にした。意識高い読書家がマウンティングしあう会だと思ってる方がいるらしい。ちがうから! 昼からビール片手に好きなモノについてゆるゆる話す会だから。
わたし自身、さまざまな読書会に参加してきたから断言できる、スゴ本オフはフリーダムすぎる読書会なり。ふつう課題本が決まってて、それを読了して語り合うのだが、課題本なんて無い(唯一あったのが、[漱石『こころ』を読んだ人にオススメする本])。また、読みたい本を投票で決めるビブリオバトルのように順位付けもない。さらに、猫町倶楽部のような巨大サークルを目指したりもしない。
スゴ本オフは、幼児からオトナまで、好きな作品を好きに語る会なのだ。
もし、「人前で話すのが苦手で……」というなら、後半に来るといい。別の話を始める人、酔いが回って寝ちゃう人、遊びまわる子どもたちでカオスだから。ちゃんと聞いてもらえないかもしれないが、伝えたい熱が伝わる人からは、ちゃんと反応があるはず。
能書きさておき、本題へ。今回は「ホラー」をテーマに、皆さんのオススメがあつまった。過去分としては、「この本が怖い! ホラーのスゴ本オフ」(2012.8)や「善人こそ救われない”闇”のスゴ本オフ」(2014.6)があるが、今回は、エンタメ寄りが豊作なり。「怖いのを楽しむ」ためのホラーなり。
面白かったのは、ハルカさんお薦めの『包帯少女哀話』(こはく那音)。恨み辛みを晴らすために超法規的存在に「願い」を託す話で、『地獄少女』『ショコラの魔法』が思い浮かぶ。ユニークなのは、「願い」をかなえる立場にいるはずの包帯少女が悪意を持っているところ。人を呪わば穴二つどころか、そもそも「願い」を抱いたのが罪ともいうべきオチが待っているらしい。それが現実と言わば言えるが、少女コミックで描いているのがやるせない。
嬉しいことに、初参加のまぐろどんさんが、アンソロジー『厭な物語』を推してきた。タイトルどおり、生理的にイヤぁな気分にさせてくれたり、感情を逆なでしてくれたり、はたまた読み手の価値観をぐらつかせたり、とにかく読んだことを後悔させてくれる作品がいっぱい(わたしのレビューは、[どくいり、きけん短篇集『厭な物語』])。ピカイチが『赤』だというのも一緒だね。わずか4ページの、ごく短い話で、わけのわからない状況を読まされるが、何が起きているのか分かった瞬間、血の気が引くという構造。悪趣味が合うとはまさにこのこと。
懐かしかったのが、おやじどんさんお薦めの、楳図かずお『赤んぼ少女』『へび女』。楳図ワールド特有の、緻密なグロテスクといえば『14歳』や『わたしは真悟』を思い出すが、これ少女マンガだったんだね…... 目の焦点が合っていないキラキラした瞳をした「なにか」に追いかけられるという、悪夢を読む感覚。子どもが読んだら一生のトラウマになるような伝説のトラウマンガといってもいい(今なら禁書モノだろうが、最近復刻された)。本の交換会では、「へび少女」の食玩というレアグッズと一緒に放出してくれました。
ミステリやホラー、怪奇モノなど、エンタメ寄りの中、わたしが選んだテーマは、「最も怖いものとは何か?」について。情動の科学から心理学、脳科学、さらには意識のハードプロブレムまで深堀りした戸田山和久『恐怖の哲学』を種本に、スライドまで作ってプレゼンしたぞ[最も怖いものとは何か?]。
かいつまんでいうと、恐怖とは生命にとっての脅威を避ける感情のこと。ヘビや猛獣など、「恐怖を引き起こす存在」を怖がるおかげで人は生き延びることができた。恐怖を引き起こす存在がもたらす苦痛や闘いに備えて、脳から快楽物質(ドーパミン等)が放出される。この身体システムを逆手に取った娯楽がホラーになる。身体を騙すことで安全に怖がることができる。恐怖の報酬は快楽というわけなのだ。
生きてる人だと分かる
紹介された作品のラインナップは次の通り。かっこ()内は、オススメしている人の一言をかいつまんだので、あなた向けの「ホラー」を探す縁にどうぞ。
- 『赤んぼ少女』『へび女』楳図かずお/小学館(美と恐怖が表裏一体だと感じさせてくれます)
- 『贈る物語terror』宮部みゆき編/光文社文庫(宮部みゆき編のホラー入門者向けアンソロジー)
- 『恐怖の哲学』戸田山和久/NHK出版新書(ホラーで人間を理解する素晴らしい哲学書)
- 『雨月物語』上田秋成・石川淳/ちくま文庫(生きている人間こそが一番怖いことを思い知らされる)
- 『大学で何を学ぶか』浅羽通明(社会にとっては教養こそがホラーになる)
- 『首無の如き祟るもの』三津田信三/講談社(横溝正史テイストの因習渦巻く本格ミステリとホラーの魅力が融合した傑作)
- 『高慢と偏見とゾンビ』ジェイン・オースティン セス・グレアム=スミス/二見書房(オースティンの元テキストほとんどそのままにゾンビ&カンフー要素をねじ込んだマッシュアップ)
- 『邪眼 うまくいかない愛をめぐる4つの中編』ジョイス・キャロル・オーツ/河出書房新社(帯の惹句「死ね、死ね、マイ・ダーリン、死ね」(メタリカの歌詞))
- 『ミッドナイト・ミートトレイン』クライヴ・バーカー/集英社(単なるスプラッターでは終わらない)
- 『丘に、町が』クライヴ・バーカー/集英社(圧倒的な映像喚起力)
- 『皮剥ぎ人』ジョージ・R・R・マーチン/早川書房(素晴らしき完成度)
- 『オレンジは苦悩、ブルーは狂気』デイビッド・マレル/新潮社(奇妙な味)
- 『他人事』平山夢明/集英社(読んで本気で後悔した)
- 『玩具修理者』小林泰三/角川ホラー文庫(読んで本気で後悔した)
- 『厭な物語』アンソロジー/文藝春秋(今まで読んだなかで一番キレのいい掌編が収録されている)
- 『包帯少女哀話』こはく那音/小学館ちゅちゅコミックス(全く救いというものがなく、読んでいてつらくなってくる)
- 『ススムちゃん大ショック』永井豪/トクマコミックス(伝説のトラウマンガ(トラウマ+マンガ)。『デビルマン』に勝るとも劣らない衝撃のラスト)
- 『イラストに見る恐竜の驚異と神秘』Mark Hallettほか/学習研究社(デイノニクスがテノントサウルスを狩るところが恐ろしい!)
- 『連続殺人鬼カエル男』中山七里/宝島社(殺人の残虐性。幼稚なメモを残す犯人像。犯人を追い詰める所のゾワゾワ感。最後に恐ろしい殺意)
- 『不死症アンデッド』周木律/実業之日本社文庫
- 『死の棘』島尾敏雄/新潮文庫(罵られ続けるのです。逃げられないのです。自分が原因なのです。めっちゃ怖いです)
- 『死神の浮力』伊坂幸太郎/文春文庫(怖いのは死神よりもサイコパス)
- ミュージカル『黒執事 Tango on the Campania』
- 映画『エンゼル・ハート』/ミッキー・ローク、ロバート・デ・ニーロ出演(痩せたミッキー・ロークがイカス)
- 映画『シャイニング』/スタンリー・キューブリック監督(原作と違う!)
- 映画『ソンビランド』/ルーベン・フライシャー監督(全人類必見)
- 映画『女優霊』/中田秀夫監督(日本最恐ホラー)
- 映画『二重生活』ロウ・イエ/アップリンク(急成長する中国のラブミステリー。都市と農村の格差と経済的な成長が生み出した、歪な人間模様は、まさにホラー)
- 雑誌『BRUTUS 特集 危険な読書』(あまり危険じゃないヌルい選書)
次回は4月上旬、「さくら」をテーマにやります。桜花、桜餅、桜肉、桜貝、桜海老、桜鯛、偽客などが思い浮かぶけれど、カードキャプターから帝国華撃団まで、沢山ありそう。
| 固定リンク
コメント