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「お金」というテーマで本を選んだ

 「お金」という言葉から、あなたは何を連想するだろうか?

 生活費? 給料? 投資? 経済? それとも「お金」で買えるさまざまなモノから、お金では買えない何かを思い浮かべるだろうか。お金を強奪したり騙しとる犯罪や、お金によって狂わされる人生、富や成功を想像するだろうか。

 ここでは、「お金」がテーマの読書会で集まった本を紹介する。お薦め本をもちよって、まったり熱く語り合う「スゴ本オフ」という読書会だ。毎度毎度、すごい本がざくざくと見つかる宝の山なり。「それは知らなかった!」という驚きの傑作から、「そのテーマでこの本につなげるのか!」という発想の妙まで、何度叫んだことやら(詳しくは[スゴ本オフ]をチェック)。

 懐かしいもの、知らないもの、意外なもの、様々な本に出会うことを請合う。

01

お金持ち

 お金といえば「お金持ち」。お金持ちといえば、9兆円にものぼる資産を持つ世界最大の投資家ウォーレン・バフェット。そして、バフェットの本は沢山あるが、バフェット自身の言葉で書かれているのはこれだけという。でんさんが紹介する『バフェットからの手紙』には、600頁に、株式投資や経営に関する重要なトピックがみっちり詰め込まれている。最も大事なのは、「分からないことに手を出すな」ということ。株を買うというよりは、会社を買う。信頼できる経営者がいる会社を買うことが重要らしい。

 「お金持ち」でわたしの想像の届く範囲だと、伊丹十三監督『マルサの女』に出てくる脱税犯のだな。脱税を摘発する国税局査察部の宮本信子と、巨額脱税犯の山崎努の攻防が凄い映画なり。「脱税」がテーマだけなゆえに、お金に対する考えというか哲学のようなものが滲み出る(それがまた面白い)。わたしが紹介したのはこのくだり。

  金を貯めようと思ったらね。
  使わないことだよ。

  100万あったって、使えば残らない。
  10万しかなくても、使わなけりゃ、
  まるまる10万残るんだからね。

  あんた今、ポタポタ落ちてくる水の下に
  コップを置いて水ためているとするわね。
  あんたのどが渇いたからといって、
  半分しかないのに飲んじゃうだろ。
  これ最低だね。
 
  なみなみいっぱいになるのを待って、
  それでも飲んじゃだめだよ。

  いっぱいになって、溢れて、ふちから垂れてくるやつ。
  これを舐めてがまんするの。

 youtubeで、ちょうどそこから再生できる。山崎努の名演をどうぞ。


経済

 お金といえば「経済」。わたしは『クルーグマン国際経済学』という絶賛積読中のゴツい本を紹介したけれど、はらさんが持ってきた『経済政策で人は死ぬか』が面白そう。世界恐慌からソ連崩壊後の不況、アジア通貨危機、さらにサブプライム危機まで、様々な不況を分析するのだが、その切り口が斬新だ。普通ならGDPやマネーサプライといった指標値を思いつくが、本書はなんと「死亡率」!

 たとえば、不況時に緊縮財政をしたとする。医療費が抑制されるから、皆が病院に行けなくなる。結果、死亡率が上昇する。ソ連が崩壊したとき、みんなこれで幸せになると思ったが、実際は、男性、とくに若い男性の死亡率が急上昇しているなど、「死亡率」で考えると、経済政策の成功・失敗に対する(経済学者の弁明を超えた)モノサシが得られる。財政が疲弊しているとき、国としてやらなければならないことと、国民が幸せだと感じることの差が、「死亡率」に垣間見ることができて面白い。


お金で買えるもの・買えないもの

 お金で買えるもの・買えないもので考えると、筆頭に浮かぶのが「命(≒時間)」と「愛」。実は、命の値段を調べたことがあって、「命の値段を見つめ直す四冊」に書いた(結論から言うと、日本人の場合、一人一年一千百万円なり。詳細はリンク先で)。オフ会では、「命の値段」を示すのに、手塚治虫の『ブラックジャック』を出してくる。

 ほらあれだ、ブラックジャックが外国で殺人犯と間違われたとき、見知らぬ日本人が骨折って助けてくれたという話。その彼が大変な目に遭ったとき、今度はブラックジャックが全力で助けに行くという神エピソードだ(以下、『ブラックジャック:助け合い』秋田書店より)。

 あと、地下室に閉じ込められるエピソードも紹介される。「助かるならいくらでも金を払う」と言い出す連中を尻目に、壁を「聴診」する話もある。「金と命」という生々しいテーマを何度も教えてもらったなぁ……

 金で愛は買えるか? という疑問に、「セックスはカネで買えるが、愛は買えない」という中国の諺を思い出す。そこで紹介されたのは、アルベルト・モラヴィアの『倦怠』と谷崎潤一郎の『痴人の愛』。どちらも人生の虚しさを埋めるために「買った」(飼った?)少女がファム・ファタルでしたという話だ。

 そして、彼女が自分に振り向いてくれないことに心を焼き、嫉妬し、もの狂おしくなる関係こそが、虚しいはずの人生を生々しくさせていることになる。『倦怠』のワンシーンで、金で束縛する試みが正反対の結果になり、ふたりが紙幣に埋もれて交わるところがある。狂気とグロテスクに満ちた場面らしい。

 「お金で買えないもの」として、一番ズシンと来たのは、ささきさんが紹介してくれた、ジョン・クラカワー『空へ』。エベレスト登頂の夢をかなえるため、大金を払ってガイドを雇う人々と、そうした「顧客」を率いるリーダーの遭難事故。その悲劇から生還したジャーナリストが書いたドキュメンタリーで、映画『エベレスト3D』の原作でもある。

 登山に参加した人たちは、プロのクライマーではない。6万5000ドルという大金を支払うため、自宅を担保にお金を借りた人もいたらしい。これは読みたい。そして、「大金を払って、しんどい思いをして、死ぬような目に遭っても、かなえたかったものとは?」を、ぜひ知りたい。

02

詐欺

 簡単に金を稼ぐ方法として詐欺がある。光クラブをモチーフにした高木彬光『白昼の死角』を思い出したが、もっと現代的かつ具体的なのは、ズバピタさんが紹介した『営業と詐欺のあいだ』になる。

 営業と詐欺を同列に見ていることも面白いが、さらにカルト宗教やブラック企業まで巻き込み、すべては「お金を奪う」行為であるという視点から、お金を奪う技術とお金を奪われないための知識と技術についてまとめた一冊とのこと。営業と詐欺の境目が非常に曖昧なことが分かり、著者に言わせるならば「売買とは売り手と買い手の知的ゲーム」らしい。営業マンにはきわどい必勝法が伝授され、売りつけられる方にとっては、騙されないコツが身に付く。

 紹介された本は以下の通り。定番から意外なものまで、お探しあれ。次回のテーマは「アクシデント」(「トラブル」だったかも……)。災厄レベルの深刻なやつから、食パンくわえて「遅刻遅刻ー」のやつまで、このキーワードでピンと来た推し作品を、教えてくださいませ。参加はここからどうぞ→[スゴ本オフ]

お金持ち

  • 『バフェットからの手紙』ローレンス・A・カニンガム(パンローリング)
  • 『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方2015 知的人生設計のすすめ橘玲(幻冬社)』橘玲(幻冬社)
  • 『大富豪が実践しているお金の哲学』冨田和成(インプレス)
  • 『マルサの女(映画)』伊丹十三監督(東宝)
  • 『株は技術だ』相場師朗(ぱる出版)
  • 『億男』川村元気(マガジンハウス)
  • 『改訂版 金持ち父さん貧乏父さん』 ロバート・キヨサキ (筑摩書房)
  • 『マージン・コール(映画)』監督・脚本:J・C・チャンダー(ビフォア・ザ・ドア・ピクチャーズ)
  • 『世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち』マイケル・ルイス(文春文庫)
  • 『マネー・ショート華麗なる大逆転(映画)』アダム・マッケイ監督(パラマウント映画)
  • 『貨殖烈伝』司馬遷(『生きる技術』筑摩書房より)

経済
  • 『クルーグマン国際経済学 理論と政策』ポール・クルーグマン(丸善出版)
  • 『シティプロモーションでまちを変える』河井孝仁(彩流社)
  • 『決済インフラ入門』宿輪純一(東洋経済)
  • 『14歳からのお金の話』池上彰(マガジンハウス)
  • 『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン(早川書房)
  • 『エンデの遺言』ミヒャエル・エンデ(NHK出版)
  • 『経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策』デヴィッド・スタックラー(草思社)
  • 『帝国の手先 ヨーロッパの膨張と技術』ダニエル・R・ヘッドリック(日本経済評論社)
  • 『狼と香辛料』支倉 凍砂(電撃文庫)
  • 『valu だれでも、かんたんに、あなたの価値をトレード(フィンテック)』株式会社VALU(株式会社VALU)
  • 『ゴッホ・オンデマンド』ウィニー・W・Y・ウォン(青土社)
  • 『マネーボール 完全版』マイケル・ルイス(ハヤカワ・ノンフィクション)

買えないもの
  • 『ブラック・ジャック』手塚治虫(秋田書店)
  • 『幸福の資本論』橘玲(ダイヤモンド社)
  • 『7つの習慣』スティーヴン・コヴィー(キングベアー)
  • 『兄のトランク』宮沢静六(ちくま文庫)
  • 『人民は弱し 官吏は強し』星新一(新潮文庫)
  • 『倦怠』アルベルト・モラヴィア(河出文庫)
  • 『痴人の愛』谷崎潤一郎(新潮文庫)
  • 『空へ 悪夢のエヴェレスト1996年5月10日』ジョン・クラカワー(ヤマケイ文庫)
  • 『エベレスト3D(映画)』バルタザール・コルマウクル監督(ユニバーサル映画)

詐欺
  • 『スティング(映画)』ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード出演(ユニバーサル・ピクチャーズ)
  • 『百万ドルをとり返せ!』ジェフリー・アーチャー(新潮文庫)
  • 『営業と詐欺のあいだ』坂口孝則(幻冬舎新書)
  • 『大逆転 (映画)』エディー・マーフィー出演(パラマウント映画)
  • 『マネーロンダリング』橘玲(幻冬社)
  • 『誠実な詐欺師』トーベ・ヤンソン(ちくま文庫)


  • 『闇金ウシジマくん』真鍋昌平(ビックコミックス)
  • 『ナニワ金融道』青木 雄二(講談社)
  • 『不発弾』相場英雄(新潮社)
  • 『火車』宮部みゆき(新潮文庫)
  • 『銭ゲバ』ジョージ秋山(幻冬舎文庫)
  • 『100分de名著 苦海浄土』若松英輔(NHKブックス)
  • 『キングの報酬 power(映画)』監督:シドニールメット(20世紀フォックス)
  • 『スパイの血脈』ブライアン デンソン(早川書房)

生活
  • 『小商いのすすめ』平川 克美(ミシマ社)
  • 『ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方』伊藤 洋志(ちくま文庫)
  • 『フルサトをつくる: 帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』伊藤 洋志(東京書籍)
  • 『猫を助ける仕事』山本 葉子,松村 徹(光文社新書)
  • 『日本の給料 職業図鑑』給料BANK(宝島社)

いろいろ
  • 『マネー』浜田省吾(ソニーミュージック)
  • 『The Dark Side of the Moon』Pink Floyd(Pink Floyd Records)
  • 『おねだり大作戦』BABYMETAL(TOY'S FACTORY)
  • 『ベイビードライバー(映画)』監督・脚本:エドガー・ライト(ソニーピクチャーズ)
  • 『北壁の死闘』ボブ・ラングレー(創元ノヴェルズ)
  • 『金のいいまつがい』糸井 重里(新潮文庫)
  • 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』J.K.ローリング(静山社)
  • 『タラ・ダンカン 若き魔術師たち』ソフィー・オドゥワン・マミコニアン(メディアファクトリー)


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