恋・宗教・格闘技・幽霊・SF・百人一首……「ハマる瞬間」が面白い
好きな小説や音楽に「最初に」好きになったときを覚えているだろうか。
それは恋に堕ちるような瞬間で、興奮のあまり上昇しているのか墜落しているのか分からず、首まで浸かってから底なし沼であることに気付く。そんな「ハマる瞬間」をテーマにして、さまざまな作品が集まった。
面白いのは、オススメ作品だけでなく、それを語る皆さんの好きっぷり! どんだけそれが好きやねん! とツッコミを入れる一方で、好きが伝染する。それがスゴ本オフのいいところ。好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会なのだ。本に限らず、音楽、映画、ゲームなんでもあり。最新情報はここでどうぞ。
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まずはわたし、TVアニメ「月がきれい」を入口に、「好きな人が自分を好きになる」は奇跡の一つである話をした。『月がきれい』が好きな人は、『東雲侑子』を読むといいの圧縮バージョンやね。「こんなアニメのような(小説のような、映画のような)恋愛なんて、存在しない」というのは可能だ。だが、そんな作品が世に溢れているのは、なかったはずの青春時代の代償行為なのかもしれぬ(少なくともわたしにとってはそう)。
熱く(暑く?)ハマれるのは、同人誌界隈。ズバピタさんが紹介する同人誌の世界は、深く濃く広大で強烈なり。出版不況とは裏腹に、同人誌の世界はもの凄い勢いで広がっている。本が売れないと嘆く人は、出版社と流通の業界しか見ていないかもしれない。女子高生のセーラー服の構造を通じて幾何学を学ぶ『制服の幾何学』や、発砲できないように改造した銃の魅力を伝える「無可動実銃」など、見たこともない世界が広がっている。
自分の「身体」にハマれるのは、ボディワーク。柳生新影流をベースとし、身体の使い方を学び直す。タオルや物差しを用いて、力をかけるラインを意識しながらレクチャーを受ける。正直、教えられた通りに動かせているかどうか自信はないが、「力の通り道を自覚する」という感覚が面白い。コンピュータを動かす基本ソフトがOSで、その上で動くアプリケーションなら、このボディワークがOSとなり、剣道や空手や拳法がアプリになるという。あわせて教えてもらった、肩こり・腰痛に効く体操がありがたい。
百人一首愛が凄かった。壇蜜さんに惹かれ、Eテレでやってた「恋する百人一首」を見てハマったという。コミック『ちはやふる』はもちろんのこと、それをアレンジした骨牌も出てくる。百人一首が好きすぎて、クッキー焼いてくるところが凄い。興味深いのは、同じく歌でも評者によって焦点が違っているところだそうな。田辺聖子『小倉百人一首』、白洲正子『私の百人一首』をお薦めされたが、比べて読んだらハマりそう。
不穏なハマりもある。村上春樹『アンダーグラウンド』、オウム真理教による地下鉄サリン事件の関係者のインタビュー集のご紹介。学歴や自意識の高い、いわゆるインテリがオウム真理教にハマる瞬間が丹念に描かれている一方で、なぜハマるか、読み手にとっては分からないままだという。宗教にハマる瞬間は「啓示」という便利な言葉が示す通り、主観的な体験だからなぁ…… 一緒に紹介された『約束された場所』も併せて読むといいのかもしれない。
自分がハマった作品だけでなく、ハマった誰かを描いた作品も。ハマる対象も、宗教、格闘技、動物の写真、SF、怒り、幽霊、女、忍法、介護、アニメなど様々。人生のショートカットから落とし穴まで、「ハマる瞬間」は、楽しいだけでなく、怖いものもある。ここで語り尽くせないトピックは、togetterまとめをどうぞ。
紹介された本のラインナップはこれ。漏れ抜けあるけどご容赦を。
- 『東雲侑子は短編小説をあいしている』森橋 ビンゴ(ファミ通文庫)
- 『東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる』森橋 ビンゴ(ファミ通文庫)
- 『東雲侑子は全ての小説をあいしつづける』森橋 ビンゴ(ファミ通文庫)
- 『錦繍』宮本輝(新潮文庫)
- 『ルビンの壺が割れた』(新潮社)
- 『もうひとつのワンダー』R・J・パラシオ (ほるぷ出版)
- 『希望のごはん』クリコ(日経BP社)
- 『85歳のチアリーダー』滝野文恵(扶桑社)
- 『ちはやふる』末次由紀(講談社)
- 『田辺聖子の小倉百人一首』田辺聖子(角川文庫)
- 『私の百人一首』白洲正子(新潮文庫)(角川文庫)
- 『恋する「小倉百人一首」』阿刀田高
- 『片思い百人一首』安野光雅(ちくま文庫)
- 『日本語の古典』山口仲美(岩波新書)
- 『アンダーグラウンド』村上春樹(講談社文庫)
- 『約束された場所で―underground 2』村上春樹 (文春文庫)
- 『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』ウィルキン・カレン(河出書房新社)
- 『みささぎ盗賊』山田風太郎(ハルキ文庫)
- 『甲賀忍法帖』山田風太郎(講談社文庫)
- 『ペン・オブ・クインシー』ザ・ソニー・スティット・カルテット
- 『恐竜vsほ乳類』小林快次博士(ダイヤモンド社)
- 『抑圧された記憶の神話』K.ケッチャム(誠信書房)
- 『きょうりゅうをたおせ』たかしよいち(文研出版)
- 『プリニウス』ヤマザキ・マリ/とり・みき(新潮社)
- 『火星の人類学者』オリバー・サックス(ハヤカワ文庫)
- 『LEAN IN(リーン・イン)』シェリル・サンドバーグ(日本経済新聞出版社)
- 『野生動物カメラマン』岩合光昭(集英社新書)
- 『人はなぜ格闘に魅せられるのか』ジョナサン・ゴットシャル (青土社)
- 『グミ・チョコレート・パイン』大槻ケンジ(角川文庫)
- 『ブルーシティー』星野之宣(MF文庫)
- 『天冥の標』小川一水(ハヤカワ文庫)
- 『ウイスキー検定公式テキスト』土屋守(SJムック)
- 『私はどうして販売外交に成功したか』フランク・ベトガー
- 『うらめしや~、冥途のみやげ展』全生庵・三遊亭圓朝(印象社)
- 『アンダーリポート/ブルー』佐藤正午(小学館文庫)
- 『十二国記 月の影・影の海』小野不由美(講談社文庫)
- 『少女地獄』夢野久作(角川文庫)
- 『制服の幾何学』こーわ
- 『制服深層学習』こーわ
- TVアニメ『月がきれい』
- TV番組『恋する百人一首』(NHK)
- ブルーレイ『Re:CREATORS』(アニプレックス)
- DVD『評決』ポール・ニューマン主演
- DVD『スクープ』ポール・ニューマン主演
- CD『Song in the Key of Life』スティービー・ワンダー
- CD『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン
次回のテーマは「お金」。マネー、収入、銭、財、信頼、回りもの。直球で経済から選んでもいいし、お金に憑りつかれた人間模様もあり。「お金のない世界」という視点から捉え直した作品も面白い。強奪されたり生みだしたり、与えたり奪ったり、君臨したり支配されたり、様々な切り口がある。「お金」をテーマに、あなたがお薦めする作品を紹介して欲しい。小説、ノンフィクション、マンガ、映画、音楽、ゲームなんでもあり。そういや、ある質問に、オスカー・ワイルドがこう答えていたな。
Q:あなたが一番影響を受けた本は?
A:貯金通帳です!
最新情報はここ↓ twitter(@Dain_sugohon)でもつぶやくけれど、ここが確実ですぞ。
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