都心のジャングルで読書会
好きな本を持ちよって、まったり熱く語り合う。それがスゴ本オフ。今回は「美と変身」をテーマに、本やCDをお薦めしあった。
いつもはラウンジやレンタルキッチンに本を持ちより、CDやyoutubeを流しながら、ビールや唐揚をつまみながらの、「読書会という名を借りた宴会」なのだが、今回は趣きが違う。
それは、かなり不思議な場所だった。
六本木のど真ん中なのに鬱蒼と木が茂るドーム状の空間で、「いつもと違う感」に満ちていた。ドームに音が反響し、相手の声を耳というより全身で聴く仕掛けになっている。目と耳と肌が非日常を訴えてくるのだが、不快ではなくむしろ癒される空間だった。
実はここ、ポーラとメルセデス・ベンツが提供する「POLA TALKER'S TABLE」という、期間限定の特殊なイベントスペースなのだ。圧倒的な緑の中、ノンアルコールで(ここ重要)、いつものスゴ本オフをスタートする。
わたしがお薦めするのは、ウンベルト・エーコ『醜の歴史』と『美の歴史』のセット。知の巨人が、古今東西の絵画・彫刻・映画・文学から「醜」「美」の基準で選び取り、それを種にして価値観の普遍性を探究する。
『醜の歴史』と『美の歴史』を比べると、圧倒的に面白いのは『醜』になる。なぜなら、『美』は移ろいやすい一方、『醜』は絶対的だから。何をもって美人とするかは、時代や文化により異なる。だが美人の腐乱死体は普遍的に醜い。『美』は文化的背景の価値観を反映し、『醜』はその先にある「死」の概念をまとう。そしてもっと面白いのは、「死」と『醜』の境にエロスが潜んでいるところなのだ。[『醜の歴史』はスゴ本]にまとめたので、ご興味のある方はどうぞ。
宝塚という断面で「美と変身」を鮮やかに斬ったのが、むろたさんお薦めの中山可穂『男役』。ヅカ版のオペラ座の怪人ともいえる話で、過去の悲運のトップスターと、若くして大抜擢され一流を目指す「男役」の栄枯と愛憎。面白かったのが、「宝塚の男役は、この世には存在しえない存在」であるという点。生物的には女であっても、容姿から振る舞いは男そのもの。しかも、理想かつ究極の「男」であって、けして男装した女ではない。
「男役」はある意味、男でも女でもない性。そのカップルとなるのは、役の上では「娘役」となるが、本当に付き合いたいのは同じ男役だという。同著者の『娘役』を読むと、虚構の世界の生々しさを感じる。一方、宝塚の方法は、「さくら学院」などのアイドルグループのマーケティングと類似しているという指摘があり、生々しさに拍車がかかる。
ハッとしたのが、chicaさんのこの一言「人そのものが、生きることが美しい」。美しい人も、綺麗な景色も、すべて移ろいゆく存在だ。では、はかない美は消えてしまうのかというと、そうではない。人生の中で美しいと感じるその人の中に美があるのであり、個人の生に投影されたものが美であるのなら、美とは人そのもの、生きることそのものになるのではないかという考えだ。
chicaさん曰く、この考えは、内田洋子『カテリーナの旅支度 イタリア 二十の追想』で気づかされたという。ミラノやローマ、小さな田舎町で出会った、人々の生きざまと思いを描いた珠玉のエッセイは、日常に潜む普遍性が国や文化を超えて迫ってくる。これは旅先で読みたい。
集まった本は次の通り。POLAさんのイベントレポートは[POLA talker's table ARCHIVE]をご覧くださいませ。ちょっと変わった場所で、少人数・ノンアルコールでするのもいいね。
『醜の歴史』ウンベルト・エーコ(東洋書林)
『美の歴史』ウンベルト・エーコ(東洋書林)
『美術の物語』エルンスト・ゴンブリッチ(ファイドン)
『カテリーナの旅支度 イタリア二十の追想』内田洋子(集英社文庫)
『EMBRYA』MAXWELL
『仮面ライダーカブト』(DVD)
『さくら学院 卒業』
『女王はかえらない』降田天(宝島社)
『わたくし率 イン歯ー、または世界』川上未映子(講談社文庫)
『ドラゴンボール』鳥山明(集英社)
『BEAUTIFUL PIGS ビューティフルピッグ』AndyCase
『レディ・レッスン』ケリー・ウィリアムズ・ブラウン
『ロンドンの佳き日』BELNE
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』リンダ・グラットン(東洋経済)
『大人のための残酷童話』倉橋由美子(新潮文庫)
『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン(ハヤカワミステリ)
『男役』中山可穂(KADOKAWA)
『娘役』中山可穂(KADOKAWA)
『叶恭子の知のジュエリー12ヶ月』叶恭子(よりみちパン!セ)
『傾城の恋』張愛玲(平凡社)
次回のスゴ本オフは、4/22(土)渋谷にて、「読まずに死んだらもったいない」というテーマでやります。ページを繰る手が止まらない徹夜小説から、世界の見方を一変させた凄いノンフィクションまで、これ読んでないなんて損だよーという作品をお薦めくださいませ。詳細・申込は、スゴ本オフ「読まずに死んだらもったいない」をどうぞ。
また、シミルボン経由でお薦めいただく企画「本とワタシ」選手権も募集中。あなたがお薦めしたい「読まずに死んだらもったいない」作品への熱い思いをお伝えください。大賞5万円、奮ってどうぞ。
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