心の救急箱『自分で心を手当てする方法』
風邪を引いたらどうするか?
もちろん、暖かくして栄養と睡眠をしっかりとる。転んでちょとした擦り傷ができたら、雑菌が入らないように手当てする。なぜか? 風邪をこじらせて肺炎になりなくないし、傷を放置して化膿させたくないから。あたりまえの常識の話だろう。
だが、体のケアは常識なのに、心のケアは省みられていない。本書を読んで、そのことに気づかされた。心の救急箱のようなこの本は、日常的な「心の傷」を取り上げ、それを手当てするための方法を具体的に紹介する。
たとえば、「同僚に無視されて傷ついたとき、どうするか?」「大切な人がいなくなって辛いとき、どうすればいいか?」など、実際に著者が手当てして、フィードバックを受けた事例が紹介されている。ユニークな相談として、「嘘がごまかせなくなり、これから傷つくのは避けられないが、どうすればダメージを軽減できるか?」というのもあった。
以下の心の傷のそれぞれについて、状況や症状を説明し、痛みを和らげ悪化を防ぐための手当てを紹介する。使用上の注意として、副作用の可能性を示しつつ、複数の選択肢を紹介し、症状や程度に応じて使い分けをアドバイスする。
- 拒絶されたとき(失恋、いじめ)
- 孤独を強く感じるとき
- 大切なものを失ったとき(喪失、トラウマ)
- 自分を許せなくなったとき(罪悪感)
- 悩みが頭から離れないとき
- 何もうまくいかないとき(失敗、挫折)
- 自分が嫌いになったとき(自己肯定感の低下)
重要なのは、各章において「専門家に任せるガイドライン」を明示しているところ。すなわち、本書はあくまでも応急処置であり、医師やカウンセラーの代わりになるものではない。専門家に相談するか判断基準を示し、なんでも自分でなんとかすることは不可能だと諭す。
手当ての基本は、「痛み」となっているものをノートに書き出し、客観視するオーソドックスなやり方から始まる。わたしにとって有益だったのは、「脱感作」「罪悪感のコントロール」「正しく謝る」「自分を許す練習」の件だ。
脱感作は、痛みへの「感度」を下げることでダメージを軽減させるやり方だ。テレアポや営業で心が折れそうな人には有効かも。人と良い関係を維持していくために罪悪感は重要だが、これに振り回されるようになると、自分で自分を苛むようになる。
この、心の自傷行為をやめるための、正しい謝り方は重要だ。正しく謝罪することで、自分の心を守ったり、心の痛みを和らげたりできるから。昔、上手な謝り方を研究したことがあるが、以下のノウハウを加えたい。
謝り方の3つの基本。言わなくても伝わると思ってはいけないという。「察してほしい」は御法度、きちんと言葉にすること。
「反省」あんなことをして悪かったという気持ちを表明する
「謝罪」ごめんなさい、すみません、という言葉そのもの
「お願い」許してください、と相手の許しを請うこと
さらに、効果的な謝罪にするための追加手法が3つある。相手の言い分をしっかりと聞いて、相手の怒りを認める。自分の行動が不適切だったと認め、事態を改善する姿勢を示す。さらに、次に同じことが起こらないよう、埋め合わせを提案するの3つだ。
そして、正しく謝ったとしても、許してもらえないかもしれない。あるいは、謝ろうにも相手がいないときもある。聞く耳をもたないか、亡き人となってしまった場合だ。そんなときはどうするか?
本書は、「自分を許せ」と提案する。確かにその通りだ。嫌なことを思い出して落ち込んで、さらに嫌な気分になることで、償いをしているようなものだと思っていた。だが、これは償いの代わりなどではない。これは、自分で毒を飲むようなもの。負のループから抜け出すため、「自分を許すための練習」が紹介されている。自分を許すことが不得手な人は一読しておくと、いざというとき楽になれるかも。
一家に一冊常備したい、心の救急箱のような本。

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