« 私の境界は外に開いている『具体の知能』 | トップページ | 人工知能=科学∩技術∩哲学『人工知能のための哲学塾』 »

いい音楽・映画・文学は、私の経験になり、あなたの記憶となる(スゴ本オフ「音楽」まとめ)

 こんなつぶやきを目にしたことがある。

「いい映画は、家じゃなくて映画館で観たほうがいい。行き帰りの景色や、(一人じゃなかったら)一緒に観た人もひっくるめて、映画の思い出になるから」

 作品は単独で世に送り出されるが、受け止める人は、それに触れたときの感動を、そのときの空気や感覚も一緒になって、記憶する。作品を「とくべつなもの」にしている秘密は、ここにある。

 これ、映画に限らず、音楽も文学も一緒やね。いいものに会うと、作品と体感が一体になって経験になる。誰かに推されて触れた作品は、そのときの熱っぽいお薦めセリフとペアで覚えている。

_001

 好きな作品を持ち寄って、まったりアツく語り合うスゴ本オフ。そこで出会った「これは!」も凄いが、それをお薦めされたときの語りとか背景で流れてた映像もひっくるめて「わたしの経験」になっている。今回のテーマは「音楽」、皆さんが持ちよった作品を「とくべつなもの」にしている理由が語られる。

 詳細は、実況tweetまとめ「小澤征爾、村上春樹とボブ・ディラン、Jポップ歌詞論、電子音楽の歴史、吹奏楽課題曲…濃くて混沌の『音楽と本のスゴ本』実況まとめ」をご覧になっていただくとして、ここでは「作品+経験=とくべつなもの」でまとめてみよう。

 予言的で驚いたのが、すぎうらさんのボブ・ディラン『追憶のハイウェイ61』ご紹介(スゴ本オフが10/8、ノーベル文学賞発表が10/13)。村上春樹を通じて知ったボブ・ディラン、当時は女の子に振られて1日聴いていたという。熱心にハルキを読んでたハタチの記憶と強く結びついており、特に、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が決定打になった。生まれる前の音楽なのに、自分の青春の音楽として決定的にしたのは、この本のなせるワザだという。

 懐かしさと新しさで胸いっぱいになったのが、高橋さんが持ってきた『電子音楽 in Japan』。日本における電子音楽の変遷をたどったノンフィクションなのだが、付属のCDを再生すると、あちこちから驚きの声が! 鉄腕アトムの足音や、東大寺の鐘の音から作った東京オリンピックの電子音楽など、「リアルを加工した電子音」が、なぜか新しく聴こえる。次に流してもらったYMOの1stアルバムはゲームそのものやね。namcoからYMOに入った私の胸が熱くなる。電子音楽の歴史が音楽の歴史と重なっているおっさんホイホイ状態になる。

誤「歳をとったら我々も演歌を聴くようになる」
正「我々が聴いている音楽が『演歌』と同じ扱いになる」

 というつぶやきを聞いたことがあるが、本当やね。

 それを逆回しにしてて面白かったのが、やすゆきさんの話。もともと音楽大好きなのに、レッチリとメタリカをあらためて聴くようになったらしい(理由:BABYMETALが好きすぎて)。で、昔のアルバムを出汁にして、キレッキレのダンスをyoutubeで観ながらBABYMETALを熱く語る。彼女らが生まれる前のロックが、彼女らが踊ることで、新しく聴こえるのが面白い。この「若いのに懐かしい」ところに、おっさんホイホイの秘密があるのかも。

_002

 で、わたし。最初に聴いたときが強烈すぎて、以後、同じ感覚になったとき脳内で流れる曲を紹介した。それは、「マルサの女」のテーマ。キレ味鋭い犯罪小説を読むとき、(特に準備の段階で)この音楽が流れ出す。「犯罪音楽(crime music)」として、刷り込みレベルにまで浸透している。そして、映画よりずっと泥臭く生々しい、「マルサの男」を描いたノンフィクション『徴税権力』をお薦めする。金丸信5億円ヤミ献金事件の舞台裏から始まり、国税庁vs大企業、マスコミ、創価学会など、エグい話のオンパレード。事実は映画よりもエグいことがよく分かる。

 最後に。これはオフ会の最初にも語ったけれど、そしてこのエントリの冒頭でも触れたんだけれど、繰り返す。いい映画は、映画館で。『君の名は。』は映画館で観るべし。Radwimps「前前前世」は映画と強く結びつき、音楽を聴くと映画を思い出し、それを観たときの記憶を思い出すだろう。わたしは娘と一緒に観た。その思い出は一生モノだろう。

 次回は「失恋」がテーマ。失恋で終わってもいいし、失恋から始まる物語でもいい。「恋とは何か?」から語ってもいいし、失恋したときに読んだ本もあり。もちろん、本に限らず、音楽も映像もゲームも演劇も博物展もありあり。詳細はfacebook[スゴ本オフ]で。facebookアカウント持ってないな方は、やすゆきさん(@yasuyukima)わたし(@Dain_sugohon)へどうぞ。

 ご紹介いただいた作品は次の通り、次の一冊・一曲にどうぞ。

  • 「Adam Ballet(アダンバレエ)」から「有終の美」Cocco
  • 「CLAIR DE LUNE」
  • 「Melodic Solfege 」さくら学院
  • 「METAL RESISTANCE」BABYMETAL
  • 「Monsters」BiSH
  • 「Perfect days for jungle cruise」
  • 「Premitive」BiSH
  • 「ST. ANGER」METALLICA
  • 「STADIUM ARCADIUM」Red Hot Chili Peppers
  • 「We didn’t start the fire」Billy Joel[youtube]
  • 「ガンダーラ」ゴダイゴ[youtube]
  • 「キラメキの雫」さくら学院
  • サッチャル・ジャズ・アンサンブル
  • 全日本吹奏楽コンクールの課題曲C「ディスコキット」の楽譜
  • 『アイアンマウンテン報告―――平和の可能性と望ましさに関する調査』[pdf]
  • 『Jポップで考える哲学』戸谷洋志(講談社文庫)
  • 『アフガニスタン敗れざる魂―マスードが命を賭けた国』長倉洋海(新潮社)
  • 『おやすみロジャー』カール=ヨハン・エリーン(飛鳥新社)
  • 『コレラの時代の愛』ガルシア・マルケス
  • 『さらばモスクワ愚連隊』五木寛之(新潮社)
  • 『ソウルサーチン R&Bの心を求めて』吉岡正晴(音楽之友社)
  • 『なぜアーティストは生きづらいのか?』手島将彦、本田秀夫(リットーミュージック)
  • 『ハリウッド・バビロン』ケネス・アンガー(パルコ)
  • 『ピアノ』芥川龍之介
  • 『ビジュアル・コンプレキシティ』マニュエル・リマ(ビー・エヌ・エヌ新社)
  • 『ぼくが消えないうちに』A.F.ハロルド(ポプラ社 )
  • 『マイ・ラスト・ソング』久世光彦(文芸春秋)
  • 『みんな夢の中』久世光彦(文芸春秋)
  • 「みんな夢の中」高田恭子
  • 『ムジカ・マキーナ』高野史緒(早川書房)
  • 『音楽小説名作選』五木寛之・選(集英社文庫)
  • 『雅楽 『源氏物語』のうたまい』付録DVDより『青海波』[youtube]
  • 『楽譜の余白にちょっと (新潮文庫)』大町 陽一郎
  • 『完本 美空ひばり』竹中 労(ちくま文庫)
  • 『空海の風景』司馬遼太郎
  • 『空想紀行』芦田みゆき(講談社)
  • 『熊と踊れ』アンデシュ・ルースルンド(ハヤカワ・ミステリ)
  • 『熊の木本線』筒井康隆
  • 『君の知らない物語』アイドルルネッサンス
  • 『源氏物語』第一巻 谷崎潤一郎訳(中公文庫)
  • 「魂拳Soul Punch」THE CRRZY KEN BRND
  • 『左手のためのピアノの演奏曲』
  • 『三蔵法師』中野美奈子(中公文庫)
  • 『少女革命ウテナ』Blu-ray BOX
  • 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』
  • 『赤の女王』マット・リドレー(早川書房)
  • 『絶対音感』最相葉月
  • 『徴税権力』落合博実(文芸春秋)
  • 『追憶のハイウェイ61』ボブ・ディラン
  • 『田宮模型の仕事』田宮俊作(文春文庫)
  • 『電子音楽 in Japan』田中雄二(アスペクト)
  • 『武満徹・音楽創造への旅』立花隆(文藝春秋)
  • 『風の馬』(写真集)
  • 『冒険歌手』峠恵子(山と溪谷社)
  • 『僕の音楽武者修行』小澤征爾
  • 「夜空を全部」sora tob sakana
  • 『夜想曲集Nocturnesー音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ(早川書房)
  • 「夜明けBrand New Days」ベイビーレイズJAPAN
このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« 私の境界は外に開いている『具体の知能』 | トップページ | 人工知能=科学∩技術∩哲学『人工知能のための哲学塾』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: いい音楽・映画・文学は、私の経験になり、あなたの記憶となる(スゴ本オフ「音楽」まとめ):

» リアルな性的魅力 [哲学はなぜ間違うのか]
言語、画像あるいは動画による表現の中に性的魅力の存在が含まれている、ということはできますが、それだけではない。むしろこれらシンボル表現に表れる性的魅力は私たちが感じ取ることのできる性的魅力のほんの一部でしょう。残りの大部分はリアルな世界にある。つまり...... [続きを読む]

受信: 2016.10.16 18:53

« 私の境界は外に開いている『具体の知能』 | トップページ | 人工知能=科学∩技術∩哲学『人工知能のための哲学塾』 »