魅力的なキャラを創る11の方法と99の属性『性格類語辞典 -ポジティブ編- 』
どうすれば面白いキャラクターができるだろう? 小説や映画、ドラマやアニメに登場する魅力的な人物を創るには、どうしたらよいか?
作家、漫画家、脚本家……物語をつくるあらゆる人のお悩みに効く一冊。「キャラが立つ」「キャラに深みがある」と言うけれど、どうすればそうなるのか、具体的な11の方法と閃きを促す99の属性がカタログ化されている。素材と手順がセットになったキャラのレシピ集として拾い読みしてもいいし、魅力的なキャラを設計するデザインパターン(虎の巻)として通読するのもあり。
たとえば冒頭。読者をすばやく強力に引きつけるには最初が肝心だが、その手法は沢山ある。主人公の苦難を描いたり、一か八かという瞬間で始めてもいい。ミステリアスな幕開けで、何が起こるのか興味をかきたてるようにしてもいい。重要なのは冒頭の「次」を読んでもらうことであり、そのために早い段階で読み手とキャラクターの間に絆を作る必要がある。それには、ポジティブな面から見た主人公の性格を明らかにしてやれという。
この「性格を明らかにする方法」にもパターンがある。最悪手は、地の文で細かく説明するのは知っているが、どうすればいいか? 答えは、「言わずに、示せ」になる。キャラクターの性格を明かすには、態度や行動で示すのが望ましいやり方だ。態度や行動を通じて、その人物が大切にしているモラルや価値観が明らかになり、読み手はキャラクターの真の姿を知ることになる。
優れた書き手は、示したいもの隠す。隠して顕されたものは、読者は自分で見つけたと思って大切にしたがることを知っているから。他にも「周囲との関係を通じて表現する」「サブキャラを使って代弁させる」「危機的状況での選択で表す」「主人公の思考で示す」など様々なテクニックが紹介されるが、キモは「隠せ」だ。
そして、読み終わった人に「面白い」と言わせるため、キャラの心の成長を予め仕込んだ属性づくりをせよとアドバイスする。すなわち、物語の最初と最後を比べたとき、キャラが反対の姿を映し出しているように属性を仕込んでおけというのだ。物語の初期段階で、何かの行き詰まりを引き起こす原因となる欠点や恐怖・ネガティブ属性を主人公に抱えさせ、事態をややこしくさせろという。
この欠点はキャラの過去に由来する。主人公を頑なに、または無力にしている原因となった出来事や場所を予め設定しておくのだ。そこで重要なのは、心の傷そのものよりも、むしろ傷を負ったせいで主人公が信じ込むことになった「嘘」なんだという。たとえば、親に捨てられた子どもは、自分が愛されるに値しないという「嘘」を信じるようになるが、貴種流離譚にアレンジしたいキャラ設定だろう。
この「嘘」をコアにして主人公の傷をつくり、そこから想定される属性と感情・反応をデザインする。物語をドライブする、主人公が達成したい目標とその障壁は、ここでデザインされた主人公の属性から導き出される動機と傷(ひいては「嘘」)をバックグラウンドとしている。
主人公とは何かを求める存在である。主役を出したら、たとえ一杯の水でも欲しがらせろと言ったのはモームだったかキャンベルだったか。この「なぜ欲しがるのか」を説明づけるのが属性になるのだ。このように、物語をリバースエンジニアリングすると、「嘘→傷→ネガティブ属性→障壁→目標」になる(わたしたちが目にする物語は、その逆順になる)。
さらに、悪役(主人公の敵対者)に注力せよと忠告する。この悪役、主人公の目標に立ちはだかる人物であって、かならずしも倫理的な「悪」とは限らない。そして、悪役にこそポジティブな属性を設けよと強く主張している。悪役も、自分が信じ込んでいる「嘘」に基づいた動機によって動かされている。そして、悪役が成功するポジティブ属性をもっともらしく描くことで、可能な限り強力に仕立て上げよという(主人公が困難になればなるほど、物語は面白くなるから)。
そこでダース・ベイダーが浮かぶ。彼は現場をきちんと見て回る有能な上司だ。会議室や専用席でふんぞり返って命令するボスと違い、最前線まで出張し、部下と共に闘う。戦闘機の扱いだけでなく一対一の接近戦にも優れており、部下としてはこれほど心強い上司はいないだろう。ベイダー卿が強力であればあるほど、それを乗り越えるカタルシスは相乗する、そういう仕掛けだったんだね。
このように、魅力的なキャラを創るための様々な手法が紹介されている。大量の映画や小説から例を挙げているため、知っているキャラクターを応用として脳裏に浮かべながら読むと効果的かも。他にも、ゼロからのキャラクター創造手法(プロット重視なら出来事や状況を考えた後、それに最悪なキャラを創る/キャラ重視なら性格・属性を考えた後、そいつにとって最悪な出来事を創る)や、アンチパターン(現実離れ/つじつまの合わない心の成長/足りない危機感/オリジナリティのなさ/一面的)を回避する技術、「ひねり」の加え方などが、惜しみなく開陳されている。
そんな下準備をした上で、99の属性を眺めると、既知のキャラから未知のキャラが重なるように見えてくる。そこでは、キャラが持ちうる属性のポジティブ面を列挙し、要因、行動や態度、セリフ、由来する感情類語、プラス面とマイナス面、作品例、さらにはその属性が試されるシナリオまで詳細に解説されている。
物語をつくる上でものすごくタメになるのは、属性に対する「試されるシナリオ」だ。ある属性があるキャラに試練を与えたり成長を生み出すために、物語をどっち方向にダイナミックにすればよいかのヒントがもらえるから。本書をキャラが物語に構造を与えるデザインパターンとして使うには、この属性カタログから作品を参照し、そこから「試されるシナリオ」を抽出することで可能となる。
たとえば、「情熱的」という属性を試されえるシナリオとして、「情熱を注いでいる対象と社会・家族との対立」や「仕返しをしたい(感情に任せたい)が、道徳的な葛藤」が挙げられている。その作品例として『ロミオとジュリエット』のロミオや、『レミーのおいしいレストラン』のレミー、『いまを生きる』のジョン・キーティングが分かりやすい。新米作家は、これらを観るなり読むなりして、属性vs試練の行方を追いかけたあと、そいつを参考にしてオリジナルの試練を考えればいい。キャラは勝手に物語をドライブしているように見えて、実は計算づくでやっているわけなのだ。
本書は表現者のために作られているが、もちろん受け手にも有益だ。わたしは一人の読者として、演出家の舞台裏を覗くつもりで読んだ。「面白がる」プロセスをリバースエンジニアリングしているようで非常に興味深い。もちろん、レシピがあることと、レシピを再現できることは別物なので、次の傑作も楽しめること間違いない。むしろ、素材と手法が分かっている分、より深く創意工夫を堪能するだろう。姉妹編として『ネガティブ編』があるが、属性を相対しながら掘り下げると、より面白く読める/書けるかも。
より深く物語を楽しみ、より広く物語を描くための一冊。

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