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「シン・ゴジラ」を観て震えた人に、『日本沈没』を勧めたい

 「シン・ゴジラ」すごかった。とんでもないものを観てしまった感がいっぱいで、その日なにも手につかなかった。ネタバレせずに感想を言うのはほぼ不可能だし、すでに多くの毀誉褒貶が出回っているので、ここでは、観た人向けに『日本沈没』を勧める。

 未曾有の事態が起きたとき、日本人はどうするか? というのがテーマだ。日本列島に恐るべき異変が起きると分かったとき、政府はどう準備・対応するか、国民はどう反応するか、群発地震や火砕流に自衛隊や米軍はどのように動くか……といった災害モノの俯瞰カメラから、家族や恋人とのドラマや絆に単焦点を合わせた物語を織り込む。翻ってさらに巨視的に、日本海溝から地上1000mの視線を駆使して、日本を巨大な竜の断末魔にたとえた地質学的考察を語る。政治的駆け引きや世界経済への波及、軍事バランスの変動から地政学的な平衡関係が崩れた後まで、「物理的に日本をなくす」シミュレートを、徹底的にしてみせる。

 そこで貫かれるものは、日本人のしぶとさ。絶体絶命のとき、もうダメだと覚悟したとき、どう考えても助からない状況で、逃げる人、助ける人、踏みとどまる人、さまざまな場面に遭遇する。それぞれに大切なものがあり、そのために自分をなげうつ、そんな態度はいかにもかもしれぬ。もちろん小松左京だから、自己犠牲の物語フォーマットに収まるはずもなく、粛々と日本は壊れてゆき、それでも日本人は生きていく。

 シンクロニシティというか、記憶の焦点が重なるのは、大災害のあとの光景だ。建物や乗り物がめちゃめちゃに折り重なり、一部がくすぶっている中、生き延びた人たちが生活を始めようとするシーンがある。表面上は何事もなかったかのように出勤したり登校することで、異常を日常で上塗りする。もちろん死んでいった人は数多いが、悲しみに立ち止まるのではなく、悲しみと共に日常を生きる、これが日本人の強さなのかもしれぬ。

 「シン・ゴジラ」を観ているときに、心のなかで幾度も「がんばれ、がんばれ」と唱えていた(声に出せるものならそうしていただろう)。『日本沈没』も同じ気持ちになる。読みながら思わず応援したくなるだろう。ある人物の奮闘だけでなく、そこで生活し、生き延びようとする人々に向けて。もちろん同じカタルシスを求めてはいけない。だが、そこに描かれる「日本人」は変わらない。

 「シン・ゴジラ」を観て震えた人、叫びたくなった人、熱くなった人に、ぜひ読んでほ欲しい。

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