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目が合ってしまった一冊『砕け散るところを見せてあげる』

 書店で呼び止められることはあるが、これは目が合ってしまった。いにおイラスト強い。

 そして面白いことに、書店で面陳+縦置きだと微笑んでいるように見える女の子が、横向きだと泣いているように見える(玻璃という名前らしい)。なぜ泣いているのか? そして「砕け散る」なんて不穏なキーワードを裏付けるかのような出だしに引っかかりながら読み始める。人は星屑でできているから、「砕け散る」のかと想像するが、酸素や炭素だけでなく思い出の縁になることを指すようだ。

最初に出会ったあの月曜のことが忘れられない
玻璃は、すぐに世界から消えてしまった。そんな結末をも予感させる、あれはあまりにも不穏な出会いだった。

 胸騒ぎはすぐに確信になる、これはいじめの話だ。こういう嫌な予感はよく当たる。語り手の清澄の正義感というかヒーロー感覚が空回りしないように祈りつつ読む。そういう読み手を斟酌してか、孤独の痛みを知りつつ相手との距離感を測りつつ見守る態度が暖かい。

 そうこれは、彼女の秘密を軸にして、ボーイ・ミーツ・ガールを語った体裁を取る。もちろんそれは陰惨で重くてとんでもないものを見せてくれるのだが、むしろそれに向き合う彼の優しさと強さ、そして思いやる気持ちを知るための物語なのかと思う。

 竹宮ゆゆこ作品はいつもそう。ツンドラもしくは不思議ちゃんな彼女と、それを見守る彼の話。その優しさがあちこちに飛び散ってて、いかにもラノベなスピード感と軽妙リアルな会話に紛れがちだが、再読するたびに読み手を温めてくれる。そういう、くりかえしを促す作品なのだ。

 読んだ人向けの答え合わせ。ネタバレ反転表示。UFOとは、背負った罪の意識・運命のこと。「俺」をミスリードさせる叙述トリックは上手いけれど、なぜそうしたかを考えると、語り手の背後の作者の想いが伝わってくる。愛は、物語のあちこちに「砕け散って」おり、再読を促すことで気付いてもらいたがっている。最後の一文は清澄とも清澄の子ともどっちに読んでもいいように仕組んである。普通の叙述トリックだと、バレた後は綺麗に分かれるのだが、本作が珍しいのは、バレた後でもどちらでも(両方でも)読めるところ。つまり本作はループしており、文字通り「愛には終わりがないことを信じている」のだ「最後の一文、その意味を理解したとき、あなたは絶対、涙する」という惹句も、伊坂幸太郎の評もソコを指しているが、ラノベのパッケージに騙されないように。

 

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