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老人は 死んでください 国のため 『大滅亡(ダイ・オフ)』

Daioff ある議員によると、21世紀は「灰色の世界」だという。働かない老人がいつまでも生きていて、それに税金を使わなければならないから。

「乳牛は乳が出なくなったら屠殺場へ送る。豚は八カ月たったら殺す。人間も、働けなくなったら死んでいただくと大蔵省は大変助かる。経済的に言えば一番効率がいい」
[第104回国会 大蔵委員会 第7号]より

 生産性原理主義を忠実に推し進めるとこうなる。タイトルの川柳は、そうした風潮を揶揄したものらしい[街の灯]より。一定年齢に達したら、年金をはじめ国家の保障を打ち切る、『定年退食』や、ついでに食糧問題も解決してしまう『ソイレント・グリーン』『ゆめいろハンバーグ』のディストピアが浮かぶ。だが、田中光二『大滅亡』は、もっと巧妙だ。ハクスリー『すばらしい新世界』の枠組みを使いながら、いかにも日本らしいジメッとした陰謀を描き出す。

 そこでは、極少子・超高齢化で滅びゆく日本の、最後のあがきとでもいうべき姿がある。異常気象による作物の不作、地球規模の赤潮による海産物の激減といった環境悪化に加えて、複合汚染による奇形児の激増、ガン・老人病の増加により人口衰退に拍車がかかる。大部分が代用食・配給制となり、食べる喜びはない。コンピュータ・エラーによる大規模な事故・爆発が続発し、末世観を助長する。人々はドラッグを求め、ゆっくりトリップしながら死ねる安楽死事業に、国が秘かに補助金を出す。

 主人公は渋谷に本拠を構える巨大放送事業体のTVディレクターだ。現代の楢山節考ともいえる安楽死運動に斬り込んでいくうち、巨大な陰謀に巻き込まれていく。ブラック・エンジェルズをホーフツとさせる展開はさておき、「灰色の世界」の世相感が絶妙だ。多数の死者が出た事故のニュースが「口減らしになる」と受け取られたり、優生学的等級+知能指数による子どもの「まびき」がされていたり、びっくりするほどディストピア! になっている。「働けなくなったら死んでください、費用対効果が見込めない人は生まれてこなくていいです」そういう時代が来るよ―――と警鐘を鳴らす。

 ずいぶん薄情な世界だが、世に出たのは1974年である。今は昔、1990年を予想した近未来SFだ。また、「働けなくなったら死んでいただくと助かる」発言は1986年である。むかしの人は、薄情者だったのだろうか? それとも、わたしが知らないだけなのだろうか。生産性原理主義者は見かけるけれど、そこまで非常識ではないのかも


まだ。

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