社会科学と歴史学を統合する『歴史から理論を創造する方法』
社会科学と歴史学をつなぐ、ユニークな試み。
野心的なタイトルとは裏腹に、堅実な理論構築を目指した好著。政治学や経済学、社会学の推論と検証の方法をおさらいすると同時に、歴史分析の手法を学べる。これらの学術分野において、論文のテーマ出しをシステマティックに行い、生産性を向上させたい方には、有益なヒントが得られるだろう。
そして、同じ「社会現象を説明する」学術でも、社会科学と歴史学の間には、深い溝があることを知る。それぞれの分野の書籍から感じていた「差」が、如実に見えてくる。すなわち、一次資料を渉猟して、歴史的新事実を提供する歴史研究者と、それを利用して理論構築を行う社会学者の構図である。さらに、自説に都合良く歴史的事実を取捨選択したがる社会科学者と、蛸壺化された研究対象しか見ようとしない歴史家の双方が、批判されている。
これを解消し、両者の歩み寄りを促すための方法論が、本書だ。恣意的に事例を選び取る「プロクルーステースの寝台」の問題を回避し、選択バイアスを解消するため、範囲を絞った「事例の全枚挙」という手法を提案する。また、帰納・演繹を乗り越える第三の推論として、アブダクションを紹介する。ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』のようなビッグ・ヒストリーには向かないが、戦後日本の外交戦略といった期間・地域・イシューを限定した上で事例を説明する理論構築には良いかも。
もともと、歴史研究者が明らかにしてきた膨大な事実から、一定のパターンを見いだし、理論で裏付けるのが社会科学者だと考えていた。棲み分けというか役割分担のように感じていたため、歴史学からの理論構築というアプローチは、非常に有用だと思う。しかも、自説に沿う箇所をつまみ食いするやり方を禁じ手としており、適用範囲は限定的となるものの、強い説得力を持つだろう。著者はこの手法の具体例としていくつかサンプルを出してくるが、願わくば実地に適用された論文につながらんことを。
ずいぶんトシ食ってから、こういう良書に出会うと、少し恨めしく思う。大学のときに出会いたかった……

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