アニメは、愛と技術と〆切でできている『ハケンアニメ!』
「2番目に好きなことを仕事にしなさい」という助言がある。現実を知って幻滅するから、1番は趣味にとっておきなさいという含みが裏にある。わたしにとって、アニメやゲームがそう。
アニメ業界の現実を描いた『ハケンアニメ!』は、怖いもの見たさにちょうどいい。ぎりぎりの人・金・時間を廻しつつ、思惑とクオリティが錯綜し、理不尽な要求からメンバを護るいっぽうで、仲間の信頼が試される。迫る〆切、突然の変更要求、主役級の失踪―――どこかのシステム開発プロジェクトに重なって、お腹が痛くなってくる。特殊な業界の話なのに、自分の仕事の悩みを打ち明けられているような気がしてくる。
本書がユニークなのは、三人の女性視点からの連作短編として構成されているところ。制作、監督、作画のそれぞれの立場を担う女性が、それぞれの短編の主人公となって、現場と私生活を実況していく。章ごとにキャラクターは途切れず、主役が脇役として、端役がキーパーソンとして入れ替わり登場する。顔見知りが仕事を繋いでいくことがよく分かる、この科白が象徴的だ。
「この仕事をしてるとよく思います。ここは悪い人がいない業界だって。あ、偽善的な意味で言っているわけじゃないんです。もっと必然的な意味で。お互い狭い業界だから、すぐ噂になるでしょう? いい加減な仕事をした人のことはあっという間に広まって、仕事がしにくくなる」
制約ぎりぎりのところで踏ん張って、きちんとしたクオリティに仕上げるのは、もうプライドや愛といった泥臭い言葉でしか表せない。自分のやっていることに誇りを持っていて、それが「好きだ」という気持ちを見せられると、ほだされてしまう。そして盛り上げて決めた後、愛だけじゃどうしようもないお金や時間の問題に追い立てられることになる。そのドタバタ具合が身にしみて、踏ん張る背中がかっこいい。このセリフなんて、全国のプロマネや編集者に届けてあげたいくらい。
「一つのタイトルが始まれば、その人の時間を俺は三年近くもらうんだよ。俺がやりたいものを形にするっていうそれだけのために、その人の人生を預かるんだ。そのことを考えない日はないよ。監督は、基本、誰かに何かをお願いしないと進めない仕事なんだから。俺だけじゃ何もできないんだ」
タイトルの「ハケン」にはダブルミーニングがあるという。そのクールで一番を競う「覇権」と、フリーランサーが多いから「派遣」という意味だ。そこに「発見」を加えたい。アニメ業界の裏側を知るというだけでなく、特殊な世界と思ってた「アニメを作る人」に、自分と同じ苦労とカタルシスを見出したのだから。思いは一緒なんだよね、「いい仕事をしたい」に尽きる。
本書はまなめがすげえすげえと誉めちぎってたので、思わず手にした一冊。ありがとう、言葉どおり一気読みでしたな。
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コメント
すばらしくおもしろかったです。
帯の煽り文句にもある「お仕事小説」に必要なすべてを備えている感じでした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
投稿: 藍色 | 2016.02.16 14:19