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「お父さんとお母さん」でないと「正しい」子どもが育たないのか『オハナホロホロ』

オハナホロホロ はじめホノボノ、なかドロドロ、ジワジワ泣けて、「正しい家族」とは何かを考えさせられる。早めに答えをいっておくと、その「正しさ」は自分で決めることなのだが、そこに気づく紆余曲折を人生と呼ぶのだろう。

 ハワイ語で「オハナ」は家族、「ホロホロ」は散歩という意味だが、表紙とは裏腹に人間関係は複雑濃厚だ。うつくしい女のあられもない感情や、イケメン理想男子をカッコ悪く描くミスマッチが面白い。序盤ではピンとこなかった会話の伏線をすくい取りつつ核心を曝す展開は上手い。

 一口にまとめると、LGBTが家族ごっこをするならばという話になる。いや待て、わたし自身が結婚した当初を思い返すと、あれは大人のままごとであり、夫妻レッテルをまとった家族ごっこに過ぎない。どの辺から「ごっこ」が現実臭を帯びたかというと、子どもができてから。齢だけ食った子どもだったわたしを「大人」にしたのは、我が子のおかげ。

 同様に、LGBTを成熟させるのは、子どもだ。母になりきれない彼女、形見の面影を愛する彼、「好きだった」という過去を現実にする男、同情と友情と愛情と欲情のぐちゃどろを、ほのぼのタッチの下に上手に表現する。それぞれに想いを寄せる人たちを、大人にするのは、"ゆうた"になる。

 これは、"ゆうた"の成長譚であると同時に、彼を囲む"齢だけ取った男女"のビルドゥングスロマンなのだ。家族愛+隣人愛+同性愛をぶち込んだ歪んだ暖かさは、脆くて強い。わたしの家族とは異なるが、暖かさは同じだ。冷蔵庫を開けたら、いつでも新鮮な卵と牛乳があって、雨の午後はフレンチトーストが焼けるのが、暖かい家なのだ。

 「読み終えたら、大切な人と手をつなぎたくなる」という惹句は本当。お薦めしてくれてありがとう、yuripop。

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