« 科学は滅びぬ、何度でも蘇るさ『科学の解釈学』 | トップページ | 猫派も犬派も泣いて笑って語り合った「猫と犬のスゴ本オフ」 »

泣ける犬本、5選

 スゴ本オフ『猫と犬』に合わせて、泣ける犬の本を選んだ。

 猫は大好きなのだが、飼ったことがない。遠くから愛でて、たまに触らせてもらってハピーになれる距離にいる。いっぽう犬は、小さい頃の記憶の一部になるほど家族の一員だった。

 なので、たぶん猫派で埋め尽くされるスゴ本オフに、せめて犬の一角をもうけよう。そして、ただ「犬の本」といっても山ほどあるので、なかでも泣ける奴、しかも鉄板号泣級を選ぼう。

 ウィーダ『フランダースの犬』は、泣ける犬本の決定版。貧乏だが絵の才能のあるネロとパトラッシュの悲話。中学の担任が「ラストが分かってても泣ける」とお薦めされ、読了号泣。大人になって再読すると、「プライドがパトラッシュを殺した」話に見える。絵の対価を受け取ろうとしない気位の高さ、初応募でコンクール入選を信じる芸術家気質にイラつく。財布を拾って届けてやったのに、「空腹で吹雪で帰る家がなくなったから、一晩泊めて」となぜ言えぬ。プライドが折れたら死ぬ気まんまんになるネロに、「かわいそうだから殺す」作者の手が透け見えて不快。のたれ死んだのが少年だけだったら、名作になりえなかっただろう。ネロの傍に、冷たくなったパトラッシュがいたからこそ泣ける。

 村上たかし『星守る犬』は、泣ける犬本の卑怯版。冒頭のシーンで、男と犬の遺骸が発見されるので、ラストは分かっているのに……読み終えると込み上げてくるものが止まらない。鑑識の結果、男は死後一年以上経過しているが、彼に寄り添っていた犬は死後3ヶ月……この時間差が一種のミステリとして引き続ける(が、大方のご想像の通り)。持病を抱えて失業した「おとうさん」が、家族から、社会から、底辺へ、悲惨な状況へずり落ちていく過程において賛否両論に分かれそう。否定派の気持ちは分かるが、それは後編を読んでいないから。「続」とタイトルにあるが、併せて読むと、これで完結していることが分かる。というか、前編だけでは救われないと思った感情を、後編で見事に掬い上げてくれている。

 スティーヴン・キング『クージョ』は、泣ける犬本の暗黒版。炎天下、故障した車の中に閉じ込められた母と幼い息子に、狂犬病に冒された巨大なセントバーナードが襲いかかる。シンプルな設定だが流石キング、風景心情サスペンス描写を綿密に念入りに書き込む。逃げ場が、希望が一つ一つ絶たれていく焦燥感にジリジリとこちらが焼けてくる。「ページ・ターナー」とは、頁をめくる手を止まらなくさせる作家への誉め言葉だが、『クージョ』においてキングはまさにその通り。書店で一頁、二頁と試しているうち、気づいたら完読(2時間ちょい飛んでた)。ラストのあまりの衝撃に、もう一度はじめから読みたくなり、結局買った。この酷さを受け入れることができなかったのは、私だけじゃない。映画化された『クージョ』はラストが改変されたらしい。

 ディーン・クーンツ『ウォッチャーズ』は、泣ける犬本のSF版。孤独な男が森で出会ったラブラドール・レトリヴァーは、ひとなつっこい一方で「犬」らしくない知性を持っていた―――という入口から、トラウマを持つ男女の愛の物語と、生物兵器をめぐる陰謀と殺戮の報復譚と、邪悪で醜悪な知性との対決が絡み合う。バラバラのエピソードが収束していく興奮と高揚感は、流石クーンツ。ここで「泣ける」のは、ラブラドール・レトリヴァーではなく、彼を追う方。"奴"がしでかす悪行の数々はホラーの真骨頂だけれど、なぜそんなことをするのかが分かった瞬間、その哀愁にしんみりするはず。

 そして、泣ける犬本のベストは、スゴ本オフで発表することとしよう(ハッシュタグ #スゴ本オフ で実況されるはず)。ある短篇集に入っているもので、たしか池澤夏樹がベタ誉めしてて一読、一生残る痛みと哀しみ暖かみをもらえた。短編小説としても傑作で、レイモンド・カーヴァーの手技を幻視するほど。大事な人への贈り物のような絶品。

このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« 科学は滅びぬ、何度でも蘇るさ『科学の解釈学』 | トップページ | 猫派も犬派も泣いて笑って語り合った「猫と犬のスゴ本オフ」 »

コメント

猫本に対抗して泣ける犬本とは、いいテーマですね。
有名な絵本なのでご存知かも知れませんが、
ガブリエル バンサン『アンジュール ある犬の物語』
を是非推したいです。
文章が一切書かれていない絵本なのですが、
スケッチ様に描かれた犬の表情から
いろんなものが伝わってきて泣けます。

投稿: sarumino | 2014.09.28 22:33

>>sarumino さん

おお!ありがとうございます、『アンジュール』忘れていました、犬が振り返っている表紙でモノトーンのラフな線が印象的でした。いま手元にないのでgoogleってみたらyoutubeが……いい時代です。
http://youtu.be/Foq6w7TlhBw

投稿: Dain | 2014.09.30 20:51

ご存知でしたか 笑

Youtube存じませんでしたが、こうしてPC上でみるのも良いですね。
時間のわり振り方とか、動画にした人の
編集感覚がよく出ていて味わい深いです。

投稿: sarumino | 2014.10.02 00:39

>>saruminoさん

はい、私もまさかyoutubeでやってるとは思ってませんでした。スゴ本オフで紹介すれば良かった...毎回そうなのです、終わってみるとお薦め忘れしてることに。

投稿: Dain | 2014.10.02 22:58

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 泣ける犬本、5選:

« 科学は滅びぬ、何度でも蘇るさ『科学の解釈学』 | トップページ | 猫派も犬派も泣いて笑って語り合った「猫と犬のスゴ本オフ」 »