スゴ本オフ「グローバル」が凄かった
好きな本をもちよって、まったりアツく語り合うオフ会、それがスゴ本オフ。
今回は、渋谷のHDEさんのスペースをお借りして、「グローバル」をテーマにブックトーク。会場をお貸しいただいたHDEさん、twitter実況していただいたズバピタさん[twitter実況まとめ]、カーリルレシピをまとめていただいたHaruoさん[紹介された本のまとめ]、ご参加いただいた皆様、やすゆきさん、ありがとうございました。
今回も、多彩で未知なラインナップと相成った。相変わらず偏狭なわたしの見識が、木ッ端微塵になるのが愉しい。でもそれはお互いさまで、自分のイメージした「グローバル」との差異が非常に刺激的なのだ。わたしは、「グローバル=世界文学」と捉えたが、参加いただいた方のセンスが素晴らしく、アートや音楽、旅、食、言語、テクノロジーなど、様々な斬口で「グローバル」を捕まえなおすことができる。
スゴ本オフのロゴ入りクッキーや、手づくりアッブルパウンドケーキ、アボガドサンドウィッチ、たいへん美味しくいただきました。よなよなエールで酔い気分になったので、完全無料のDr.ペッパー飲むの忘れてた(ドクペ専用自販機があって、0円って書いてあるwDr.ペッパー飲み放題www)。
本題に入る前に、未見の方は[facebook:スゴ本オフ]をチェックして。わたしのblogで告知するよりもうんと早く公開され、あっという間に申込み枠が一杯になってしまうので、facebookをチェックするほうが迅速確実なのだ。次回は5/24(土)@渋谷HDE、テーマは「嘘と虚構」だから、心当たりを探すべし。
■世界文学
『世界文学を読みほどく』池澤夏樹(新潮選書)
『世界×現在×文学―作家ファイル』, 沼野充義、柴田元幸ほか編(国書刊行会)
『考える人 2008年 05月号』(新潮社)
わたしが選んだ「グローバル」の三冊。「小説を読む」行為は、個人的かつ普遍的な体験になる。だから、これをグローバルに拡張した世界文学は、人類の記憶そのもの。河出書房で世界文学全集を編んだ池澤夏樹が、十大世界文学を分かりやすく面白く解説したのが、『世界文学を読みほどく』。『百年の孤独』の読みは鋭く深く広い一方で、『アンナ・カレーニナ』の幼い感想は、文学を生業とする人の苦労をうかがい知ることができる。『世界×現在×文学―作家ファイル』は、作家や評論家たちの種本。これさえあれば読んだフリができるし、表現を変えればあら不思議、ちょっとした書評ができてしまうが、やっちゃダメ、ゼッタイ。著名な評論家の解説と比較しながら、どこをコピペしたかを査読するという、意地の悪い使い方ができる。
■音楽と国境
『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』柴那典(太田出版)
『国のうた』弓狩匡純(文藝春秋)
『ボクの音楽武者修行』小澤 征爾(新潮文庫)
「日本のアイドルで一番グローバルなのは?」AKB?ベビメタ? いいえ、初音ミク。『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』は、60年代のヒッピーブームや80年代のクラブ文化とつながってる初音ミク現象を解き明かす。彼女はキャラクターだけでなく、「楽器」なんだ。初音ミクを「使う人」は、初音ミクをプロデュースしているだけでなく、初音ミクを「演奏」している。消費しているのではなく、創造している。初音ミクは「楽器」だからこそブームが生まれた。AKBのような仕掛け人はいない。インターネットを仕事にするすべての人が読むべきスゴ本とのこと(Rootportスゴ本認定)。
地域、言語、文化、歴史、政治経済まるで違うのが国家。その中で、共通している唯一のモノが「国歌」になる。『国のうた』は、各国の国家がどんな経緯で完成し、どんな歌詞なのかを知ることで、「グローバル」という言葉の中にどれほどの多様性があるのかを感じさせてくれる。スペインの国家は歌詞がない。フランスは血みどろで勇ましい。パラグアイの国家に込められた、米国憎悪が凄まじい。国歌から国家が透け見えるのが面白い。
■アート
『スケッチトラベル/Sketchtravel』ジェラルド・ゲルレ(飛鳥新社)
『世界の果てでも漫画描き 3 チベット編』ヤマザキ マリ(集英社)
『図説 国旗の世界史』辻原康夫(ふくろうの本)
『スケッチトラベル』は、ずばり移動する美術館。21世紀の最初の10年において、最先端にいたアーティストたちでリレーされ、書き込まれたスケッチブックは、オークションにかけられて(700万ドルしたそうな)、その収益でアジアに5つの図書館が建設されることになる。『スケッチトラベル』は、グローバルに行動することの具体的な結果そのもの。スゴ本オフ初参加のみかん星人さん曰く、最後の一枚が素晴らしく、納得のいく作品だなのだが、見たぞ。背筋に電気が、これはスゴい。また、「グローバル」→地球儀→国旗の連想で、『国旗の世界史』のご紹介。イスラムは、砂漠の民は緑を求めているから、緑色の国旗。国旗から見えてくるその国の歴史や性質を知ることができて、見て、読んで、面白い。
■旅
『舟をつくる』前田次郎(徳間書店)
『マゼランが来た』本多勝一(朝日文庫)
『ナショナル ジオグラフィック 日本版 2014年 1月号』
『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』ジム・ロジャーズ(日経ビジネス文庫)
佐々木さんの発想は、 「人間の肉体をグローバルに考えると?」。10年かけて、10年かけてかつて人間は肉体だけで世界を移動できたのか実験した『舟をつくる』日本人の南方渡来説を検証したときの本がこれ。凄いのは、舟そのものだけでなく、その材料や道具も含め、一切合財自作したところ。舟を削る手斧を作るため、砂鉄を集めて炭を焼いてタタラで製鉄する。インドネシアから日本まで6000キロ航海できる舟を作るための木を探す。ロープの繊維、帆の布、外装の塗料も全て自作。人類がどこから来たのかということを知識にとどめず再現・検証した実例。「初音ミク」が人類の未来だとすると、本書は人類の歩んできた過去を明らかにしたことになる。この軌跡は、『ぼくらのカヌーができるまで』という記録映画になっているらしい。ツタヤにはなく、武蔵美で自主上映されているとのこと。
グローバルな視点をもった「人」に着眼し、うえださんが選んだのが、『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見』。「投資家界のインディ・ジョーンズ」が、特注メルセデスを駆って3年間で世界116ヶ国を旅した記録になる。「ミャンマーは1962年にはアジアで最も豊かな国のひとつだった」など歴史の知識に裏付けられた洞察で世界の栄枯盛衰を語るマクロな視点が魅力的。世界の独裁者はメルセデスが大好きだから、メルセデスで旅する、という発想が面白い。千年後には、アメリカ大統領なんて誰も覚えていない。ものすごい広い視野で語っているのがスゴイ。
すぎうらさんオススメ。歴史上、初めて地球一周=地球規模で活動した人・マゼランに着眼。そこを一回ヒネって、来られた側にとってはどうだったのか?というルポルタージュが『マゼランが来た』。現在も地球規模の企業活動が世界に辺境に致命的な一撃を加えているが、マゼランこそがその始まりだった。破壊と疫病は、海を越えてやってきたのだ。
■言語
『たかが英語!』三木谷浩史(講談社)
『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』ガイ・ドイッチャー(インターシフト)
『トンパ文字―生きているもう1つの象形文字』王超鷹(マール社)
『日本語でどづぞ―世界で見つけた爆笑「ニホン」誤集』柳沢有紀夫(中経文庫)
初参加のよしおかさんオススメは、『たかが英語!』。楽天の社内英語化について三木谷社長自ら語った書。世の中の経営者の決定は予定調和なのが一般的だけど、楽天の英語化の決定は予定調和どころかクレイジーだった。それにともなうドタバタが書かれていた。しかもユーザーやお客さんには関係ないし、日本ではデメリットばかり取りざたする。にも関わらずその決定をした。そのおかげで良いことも悪いことも沢山経験してきた。これはインターネットの時代においては大きなアドバンテージになるという。プレゼン後の質疑応答が悶絶モノなのだが、ちょっとここに書くわけにはゆかぬ。生々しい、というよりナマそのもの。
■生きるものたち
"Hate That Cat"Sharon Creech(HarperCollins)
『ベルカ、吠えないのか?』古川 日出男(文春文庫)
『カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ(白水Uブックス)
『リトルターン』ブルック ニューマン(集英社文庫)
『これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』ダグラス・アダムス(みすず書房)
ちかさん曰く、「グローバルという言葉に抵抗を感じることがあります。大きなものに組み込まれるとか。英語を公用語にするとか(笑)」。互いの個性を認め合うのが理想的なグローバル時代ではないかという発想で、『カモメに飛ぶことを教えた猫』をオススメ。この感性が素晴らしい。死にゆくカモメから卵を託された黒猫のゾルバが、仲間たちと育てるという児童文学。異なるものたちがお互いが認め合う物語。
ズバピタさん、『これが見納め』をオススメ。世界中の絶滅危惧種を紹介した一冊。生物多様性がものすごい勢いで失われていっているのかを記録している。いかに人間が愚かであることを見せつける。人間が動物を絶滅させていった歴史が重なる。植民地時代にできあがった不合理なシステムが、支配階層が去った後も残り続けて、結果的に希少種を殺していく話。人間の愚かさは、「グローバル」やね。
■死と暴力と貧困
『謝るなら、いつでもおいで』川名壮志(集英社)
『音もなく少女は』ボストン・テラン(文春文庫)
『世界中の「危険な街」に行ってきました』嵐よういち(彩図社)
『絶対貧困―世界リアル貧困学講義』石井光太(新潮文庫)
『メメント・モリ』藤原新也(三五館)
ヨハネスブルグは「リアル北斗の拳」と呼ばれてるらしい。武勇伝を語りたくなったら行ってみればいいと、本当に行ってしまったのが『世界中の「危険な街」に行ってきました』。わざわざ危険な場所を選んでいくのがスゴいし、生還してきてきっちりレポートするのはもっとスゴい。ジンバブエのハラレ、ホンジュラスのサン・ペドロ・スーラ、シウダー・フアレスなど、「絶対に行ってはいけない街」の生々しいルポ。
■テクノロジーとマネジメント
『「メタルカラー」の時代』山根一眞(小学館文庫)
『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』盛田昭夫(朝日文庫)
『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎(ダイヤモンド社)
『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』ダン・セノール(ダイヤモンド社)
おごちゃん曰く、グローバルということで一番最初に浮かんだのが「聖書」(世界中に翻訳されているから)。あえて持ってきたのは『メタルカラーの時代』シリーズ。日本が元気だった頃の古い本。グローバルという言葉がなかった頃にグローバルな活躍をした日本人。テクノロジーに国境は無いことが分かる。文庫とはいえ結構な分量だったけれど、交換会で人気熱かった。
でんさんオススメは『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』、原題はStartup nation。次々と新興企業が生まれるイスラエルについての本。例えばみんなのノートPCのCPUはイスラエルのインテルで開発された。イスラエルのベンチャー投資額は米国の2.5倍。その裏側を取材している。イスラエルは徴兵制だが、軍隊で最先端の開発がされ、生きるか死ぬかの中で起業家精神も養われる。積極的に移民を受け入れて多様化している。この本読むと、日本がこのままではダメということがわかる事実が次々と出てくる。ルポルタージュだけど、へたな自己啓発本読むよりもためになる。合わせて『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』もオススメとのこと。
天野さんは、『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』を持ってきた。著者は、ソニーの盛田昭夫。ビジネス本の古典。創業期のHDEで苦労した天野さんが、ソニーが大好きだったので、ソニーに学ぶつもりで手にし、大いに勇気付けられたという。盛田さんは日本に誇りを持っていて、米国に対して堂々と主張して渡り合う。英語上手だったわけではなかったのに、シリコンバレーで商売するのも大阪で商売するのも変わらない感覚。現在、海外から人材採用する礎になっているとのこと。
他にもこんなラインナップ。アメリカ合衆国、食、フットボール、オタクなど、ジャンルは様々なのだが、「グローバル」の理由はそれぞれ腑に落ちる。わたし自身、グローバルの中に「地球規模の等質化」を見て取っていたが、グローバルという概念が実際に用いられるとき、そこには実に雑多な実体が現れてくるのがイイ。
■普通
『「普通がいい」という病「自分を取りもどす」10講泉谷 閑示』(講談社現代新書)
■フットボール
『フットボールの犬』宇都宮 徹壱(幻冬舎文庫)
■食
『諸国空想料理店』高山なおみ(ちくま文庫)
『料理=高山なおみ』高山なおみ(リトル・モア)
■アメリカ合衆国
『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』町山智浩(マガジンハウス)
『(株)貧困大国アメリカ』堤未果(岩波新書)
■Rock & Pop
『神は死んだ』ロン カリー ジュニア(エクス・リブリス)
『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ ディアス(新潮クレスト・ブックス)
『スナッチ/Snatch』ガイ・リッチー監督
目ウロコだったのは、「サッカーというスポーツはグローバルそのものだけど、それを支えているのは、地元チームを応援する超ドメスティックな行為である」という指摘。グローバルを支えるローカリズムが、「サッカー」という一語であぶり出るのが面白い。また、「食」は確かにグローバルだけど、食べる行為はローカルどころかドメスティックどころか、個レベル。これは、読書という体験にも通じるところがある。global のカウンターとして diversity が流行り言葉になっているが、ぜんぜん global の方が"多様"じゃん、と考えると面白い。
文字通り、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」ラインナップ。積読山がまた拡張するのは嬉しいが、次回テーマ「嘘と虚構」に向けての課題図書にとりかからないと。スゴ本オフのいいところは、永年のあいだ積読本に埋もれていた「あの一冊」を急遽、浮上させるところ。読め、そして語れ。
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