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マンガで子育て『サバイバル』

サバイバル 子どもに読ませたいマンガがある。

 わたしが子どもの頃、「マンガは馬鹿をつくる」とか「教養人はマンガなんか読まない」などと風当たりが強かった。だが、誰かさんのプライドを満足させるだけの本があふれる今、淘汰さらされ競争に生き残ってきたマンガの方が、はるかに上等だ。見聞を拓き、五感を煽り、喜怒哀楽を炊きつけ、文字通りの糧となる作品がある。

 その中で、「これだけは読んで欲しい」という作品を並べたら、『銀の匙』から『寄生獣』まで結構な数になる。一気に注ぎ込むと中毒になるので、折に触れて渡すようにしている。今回は『サバイバル』。巨大地震による壊滅した日本を生き抜こうとする少年を描いた傑作だ。よく床屋さんで見かけるが、歯抜けだったりで断片的にしか読んでないというので、まとめて与える。すると、読むわ読むわ、寝る間も惜しんで全10巻を読み終えると、もう一度最初から読む。

 地震、火災、洪水、疫病、暴力、飢餓、炎天、寒波―――次から次へと襲い掛かる猛威に、少年は頭を絞り、勇気を奮い、逃げ、耐え、時には運にも助けられながら、サバイバルする。できすぎ展開もあるが、それはそれ。壊れた世界をかき分け、生死の境をくぐり抜けることで「少年」から「男」に成長していく物語に、何度読んでも撃たれる。最終巻の、「あの山のふもと」へ駆けてゆくシーンは、何度読んでも滲んでくる(同じモチーフの望月峯太郎『ドラゴンヘッド』は、ラストが怖くてたどり着けていない)。

 昔わたしが読んだときと、いま子どもが読んでる間には、時間以外の大きな隔たりがある。わが子にとって、阪神・淡路大震災は教科書の出来事だろうが、311は見て、揺れて、自分の身体で感じたもの。だから本書は、ただの「物語」ではなく、一種のシミュレーションとして体験したのかもしれない。

 実利面もある、読むだけで、生きるための知が得られる。何通りもの火のおこし方から、ビニールシートを用いた真水の作り方、魚の釣り方、罠の作り方、皮のなめし方、ミミズの栄養からカエルのどこがうまいか、さらにはどの野菜を優先して育てるべきか―――マンガ通りに上手くいくかは怪しいが、少なくとも「こうすれば生きる方に進める」選択肢があることが分かる。何度も読み込んだわが子に、「サバイバルで一番大事な道具は?」とか、「生きのびるために必須の感情は?」と質問を投げかける。正解を返してくるが、“そのとき”思い出してくれるだろうか。

 極限を生きのびる予習として、読んで欲しい傑作。

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コメント

読ませたい本です!
ドラゴンヘッドや漂流教室などと比べても実利面が目立って、その分真に迫っていた記憶があります。
ただ、自分が読んだのも遥か昔で、冊数がかなりあるので、購入するかどうか迷っていた面もあります。
今回の記事を読んで、改めて読んでみたい気持ち、そして読ませてみたい気持ちが強くなりました。
ありがとうございます。

投稿: pocari | 2014.03.29 22:46

>>pocariさん

ありがとうございます。真に迫る、実用描写もありますが、大人目線で読み返すと、「そんなに上手くいくはずがないぞ」とツッコミ入れたくなる所も……
それでも子どもに読ませたいのは、もし極限状況になったら、どっちに行けばより「生きる」方向になるのか、というヒントがあるから。巨大地震ではなくても、山で道に迷ったとき、「川沿いを下る」or「尾根を目指して登る」のどちらが生き延びやすいかの話は、かなり重要かと。

投稿: Dain | 2014.03.30 12:01

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