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デザインの科学『インタフェースデザインの心理学』

「ファミコン『ドラゴンクエストIV』のパッケージイラストの主役が、一番小さく描かれているのに、最初に目に入ってくるのはなぜか」

これについて、中村佑介氏の解説が目鱗だ→【イラストの見栄えが良くなる】中村佑介先生の公開講座が凄い!。本来は目立たせたいもの(主役)を大きく描くのが原則だが、彩度とコントラストを増やすことで、見やすい画面作りをしているという。

 だが、もう一つ、このデザインには「主役」を主役たらしめるテクニックがある。それは以下の通り。

  1. 人は、人の顔に一番興味を持つ
  2. 人は、画面の中で、顔を最初に見る
  3. 人は、画面の顔の視線の先に注意を向ける

  この原則を知ったのが、本書だ。人はどのように認知し、判断し、行動し、そしてエラーを引き起こすのかについて、ウェブやアプリのデザイナー向けに、「100の指針」という形でまとめたもの。

「嘘のレベルは伝達手段で変わる」や、「読むと理解は同じではない」、「エラーのタイプは予測できる」といった断定文を掲げ、それを支える研究成果や応用事例を紹介する。人間の行動原理について、気になるトピックを拾ってもいいし、テーマ毎にまとめられた章を集中的に読んでもいい。

  1章 人はどう見るのか
  2章 人はどう読むのか
  3章 人はどう記憶するのか
  4章 人はどう考えるのか
  5章 人はどう注目するのか
  6章 人はどうすればヤル気になるのか
  7章 人は社会的な動物である
  8章 人はどう感じるのか
  9章 間違えない人はいない
  10章 人はどう決断するのか

 特に惹かれたのは、人はどうすればヤル気になるのかの章。ユーザーをその気にさせるため、画面のデザインや情報の「見せ方」を考える上で役立つネタが得られる。例えば、コーヒーショップのスタンプカードの話はtumblrで知っていたが、その元ネタは本書だったのだ。「どちらのスタンプカードが魅力的か?」の事例だ。

  カードA : スタンプ欄が10個あり、最初は全部空欄
  カードB : スタンプ欄が12個あり、最初から2個押してある

どちらも空欄は10個なのだが、どちらが魅力的か、解説する必要もないだろう。人は、目標に近づくほどヤル気が出るのだ(本当に近づいているかどうかは別として、そう“感じる”のが重要)。そう“感じさせる”プロデュースこそが、デザイナーとしての腕の見せ所だろう。

 他にも「進歩や熟達によりヤル気が出る」例として、語学のウェブレッスンを解説する。そこでは、レッスンのどこをやっているか、全体でどこまで進捗したかを、プログレスバーのように一目で確認することができる。これは、わたしも利用している。プレゼンテーションでスライドを作成するとき、右上に「今のトピック/全体」という形で、現在の位置づけを行う画像を入れている。自分がプレゼンを受ける立場だと嬉しいから、という理由でやっているが、視聴者には好評なり。

 さらに、人の理解を促すため、「物語」の活用を呼びかけているのが面白い。いくらデータを積んでも、受け手に共感してもらうためには、ストーリーで語れというのだ。医療関連企業 Medtronic の年次報告書は、財形報告の数字の前に、その企業の製品によって助けられた患者の写真とエピソードを添えている。貢献度に説得力が増す良い事例だろう。ありがちな応用としては、自分の主張を「マクドナルドで聞いた女子高生の会話」にしたり、映画や歴史のエピソードに喩えて訴求力を高める手法だろう。

 また、エラーメッセージのガイドラインも納得&使える。人にノーミスはありえないし、問題ゼロの製品も存在しない。だから「どんなエラーが起きそうか」「エラーが起きたらどうするか」を、予めデザインの段階で考えよという。エラーメッセージの書き方としては、以下のステップになる。

  1. ユーザが何をしたのかを告げる
  2. 発生した問題を説明する
  3. 修正方法を指示する
  4. 受動態ではなく能動態で、平易な言葉で
  5. 例を示す

 人はどんなときに、どのようなエラーを起こすのかという観点から、人的要因分析・分類システム(HFACS:Human factors analysis and classification system)をさらりと紹介している。本書は、沢山の知見を効率よく伝えることを目的としているため、ヒューマンエラーについて深堀りするなら『失敗のしくみ』『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』が良いかも。

 求められているオペレーションを、その対象物そのものに示唆させる「アフォーダンス」も紹介されている。ドアが好例で、取っ手を持って押し下げることを促すドアノブや、逆に取っ手が無い場合なら、「押して開ける」ことを示している。これも、さらりと書いているだけなので、さらに奥に行くためには『誰のためのデザイン?』が決定版だろう。ヒトとモノとのインタフェースを考察することで、「よいデザインとは何か」に迫っている。

 このように、薄く広く網羅しているため、参考文献やサイトから、いくらでも深化させることができる。デザインを科学する上で、そして科学の成果から気づきを得る上で、良い入り口となる一冊。

 

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