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ラノベでもジュブナイルでもない青春前夜『悠木まどかは神かもしれない』

悠木まどかは神かもしれない 息子の授業参観に行ったら凹んだ。

 というのも、女子に囲まれてたから。「お父ちゃんよりモテやがって!」という嫉妬ではない(断じて)。「クラスの女子とナチュラルに話すという、俺がどうしても越えられなかった壁」を、易々とクリアーしていることに、断絶を感じたわけ。

 女子は基本無視、会話は最低限、それも耳だけ立ててるギャラリーの中、照れと見栄の板ばさみになりながら、ぶっきらぼうに振舞う。「気になる」女子がいても、気取られないよう全力を尽くす。でもコッソリ目の端で、彼女の動きを追いかける……これが普通だろ?常識的に考えて。そういうナイーヴな、中年男ゴコロの真ん中を、きゅんと貫く一冊。

 主人公は、まったくもって平凡な男子。「気になる」子への熱い思いと、女子一般への冷たい視線が、まるでわたしで面白い。この「気になる」が「好き」になる、胸の鼓動を焼き付けろ。恋だの愛だのに落ちる一瞬前の、とても貴重な猶予期間なのだ。

 ただ、この男子、勉強「だけ」はできるようで、難関系の学習塾に通っている。子育て本に埋め尽くされた本棚を持つ母と、「俺みたいな普通のサラリーマンになるなよ」と自嘲する父のもと、勉強に最適化された生活を送っている。唯一の息抜きは、塾が終わってからバーガー屋で、塾友達とたむろすることぐらい。いるでしょ?夜もいい時間なのに、Nのマークの青い鞄の小学生。家に帰ると勉強が待ってるから、チーズバーガーをぱくついている。

 決して何者にもなれない人生が敷かれていたはずなのだが、それが変わる。「彼女が気になる」という、ただ一つの動機だけが、彼女の行動をミステリに変え、ひいては彼の逸脱のきっかけになる。それはとてもささやかだけど、たいせつなこと。「好き」は人生を変える。

 おバカで、コミカルで、ユーモアたっぷりの会話を笑っているうち、この男子が確かに変わっていくのが分かる。悠木まどかにはっきり伝えるある台詞で、男子が少年にクラスチェンジするのだ。こんな子を好きになってしまったら、きっと苦しい思いをするにきまってる。酸いも苦いも飲み下したオッサンは、その青春は最適化されてないぞといいたい。だが、地の文だった心情や、今まで黙っていたことを口に出すようになり、自分で軌道変更するようになるんだろうね。人生を変えるきっかけをもたらすのが神なのなら、悠木まどかは神かもしれない

 授業参観日の夜、「モテモテじゃん」と息子をからかうと、「気になってる子には素っ気なくされてるから意味ない」という(ちょwww)。なんにも知らないあの頃に戻って、やり直したい夜は、まさにそのとき。わたしの代わりに、「今」をやり直せ(おまえにとって初かもしれないが)。あのとき感じた予感はホンモノ、おまえを動かすのは「好き」という金剛石なのだから。

 恐れるな、ボーイズ&ガールズ・ビー・アンビシャス。

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