『ヨーロッパ史における戦争』はスゴ本
戦争は社会を規定し、社会は戦争を規定する。
ヨーロッパ史を通じ、戦争の歴史と社会の変遷は両軸を為していることが分かるスゴ本。ヨーロッパ社会はもとより、今日の歴史が戦争を通じていかに形成されてきたかについて理解できる。
戦争が常態化している中、平和とは単なる一時的な秩序に過ぎないのはなぜか。戦争の原因として宗教や経済から眺めるのは、見えてる部分だけで語ることに過ぎぬ。戦争は歴史を通じて社会にロックインされており、この現状を築き上げたのは、他ならぬヨーロッパだということが分かる。
ヨーロッパの歴史を考察し、社会変化に伴う戦争の様相の変遷を概観した一冊。わずか250頁に1000年間の戦争の歴史が包括的かつ体系的に圧縮されており、戦争を考える上で入門書であり基本書になる。
本書は、政治、経済、社会制度、技術、戦争目的、そして現実の戦争の様相の相互関係を明確化している。著者は、社会が変化するに従って、どのように戦争が変化したのか、逆に戦争そのものがいかに社会を変化させたのかについて、簡潔かつ明確な枠組みを提供する。その枠組みが本書の章立てとなっている
1. 封建騎士の戦争
2. 傭兵の戦争
3. 商人の戦争
4. 専門家(職業軍人)の戦争
5. 革命の戦争
6. 民族の戦争(国民の戦争)
7. 技術者の戦争
8. ヨーロッパ時代の終焉
9. 核の時代
王が自分の利益のために行っていた戦争から、騎士という金のかかるシステムを維持するために封建制度が生まれ、封建制を守るために傭兵が雇われ、ラテン語の常用句「金こそ戦争の活力(pecunia nervus belli)」の通り、戦争は莫大な金が掛かる商人ものになる。敵の疲弊と枯渇を待つ戦争が、交易の略奪により財政的に相手を滅ぼす重商主義を生み出し、革命の輸出により生まれた「国民」が、相手を殲滅させる総力戦につながる。社会制度と戦争システムは、互いに補完しあい、歴史の両輪をなしていることがわかる。
同時に、戦争と平和は対極に位置する概念ではなく、むしろ逆で、相互補完関係にあるという主張も見てとれる。著者・ハワードによると、平和とは秩序にほかならず、平和(=秩序)は戦争によってもたらされる。すなわち、戦争は新たな国際秩序を創造するために求められるプロセスであり、平和とは、そのプロセスから創り出されたというのだ。この意味において、戦争の歴史は人類の歴史とともに始まったものであるが、平和とは比較的新しい社会現象といえる。
本書を読んだら、マクニール『戦争の世界史』を推す。ギルガメシュ王の戦いから大陸弾道ミサイルまで、軍事技術の通史だ。人類が「どのように」戦争をしてきたかを展開し、「なぜ」戦争をするのかの究極要因に至る。
略奪と税金のトレードオフが商業化し、専門技術者が王侯と請負契約関係を結んだ「技芸としての戦争」。軍産複合体の前身にあたる軍事・商業複合体が形成され、ライバルとの対抗上、この複合体に依存した「商業化された戦争」。さらに、イギリス産業革命が生み出し、アメリカ旋盤技術が開化させた、全世界を顧客とする近代兵器製造ビジネスが支配する「産業化された戦争」───これらの視点から、軍事技術が人間社会に及ぼした影響を論じ、世界史を書き直そうとする野心に満ちた名著だ。
「ヨーロッパ≒世界」ではないが、少なくとも現在の戦争を規定したのはヨーロッパである。自らの歴史に無自覚な欧米の政治家の発言に煮えながらも、「どうしてこうなった」を考察する上で再読したい。
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コメント
高校の世界史のテストの前に読みました。懐かしいです。記述でけっこう引用したのに先生の歴史観と合わずに微妙な点数でした。笑
ヨーロッパ史を概観するのにはいいですよね。
投稿: あーる | 2013.10.10 16:54
>>あーるさん
コメントありがとうございます。本書を高校時代に読むなんて!良い本と良いタイミングで出会いましたね、うらやましいです。
投稿: Dain | 2013.10.11 21:43