愛と憎しみと諦めの『私の本棚』
その人の、思考・嗜好・指向・試行あるいは至高を見える化したものだから。本棚には人格が顕われる、いわば知性のプロファイルだ。ラインナップのみならず、並べ方や置き場所に至るまで、自我を延長したものが、プライベート・ライブラリーになる(「本棚」を覗く快楽)。
本書に出てくる人たちも、同じコト考えてて愉しい。「自分の脳ミソを一望できる」(南伸坊)、「自分の目に見える経験」「古くならない自分」(荒井良二)、「昔は祭壇だったのに」(中野翠)など、“本棚”への思いが語られる。本や読書にまつわるエッセイでないところがミソで、あくまで本棚がテーマなのだ。
本をダシにメシを喰ってる人たちなので、当然、本棚もスゴいことになっている。棚から溢れ、床に山をなし、山脈を連ね、階段を浸食し、トイレに立ち入り、ダイニングテーブルを占拠する。井上ひさし氏は一行目から上手い。「本の重さを思い知ったのは建売住宅の床が抜けたときである」から始まる、本棚というか本の増殖譚は、主の意志を乗り越えて、本そのものの(生きんとする)意思を感じる。
一定の蔵書量を超えると、本は自分で自分をなんとかしようとするのだね。膨大な蔵書が自ら図書館を造ってしまったり、持ち主を古書店主にしたり(都築響一のいい本棚)、愛書家を愛憎書家に変化させる(鹿島茂)。図書館を自分の本棚にしてしまえばいいのに、と気楽な外野はつぶやく。本を買う派からパワー図書館ユーザーになるまでの経緯は、[図書館を利用するようになるまでの20ステップ]の通り。
本と本棚への、愛憎混交した重い想いが語られる。yomyomの人気連載をまとめた一冊。惜しむらくは、書棚の写真が少ないところ。せめて背表紙が読み取れるくらい寄ったものが見たかった。スゴい本棚を直に見たい方は、[著名人の本棚を覗]く、[この本棚がスゴい「本棚2」「本棚三昧」]をどうぞ。

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コメント
[図書館を利用するようになるまでの20ステップ],
我が半生をのぞかれたようでドキッとしました(汗)
このシーンが好き、は手が場所を覚えていて、パラパラしてちゃんとたどり着ける筈なのに、書店でやるとうまくいかない。「???」と思っていましたが、文字が大きくなってページが増えているせいだと最近気がつきました。
やっぱり図書館は偉大です。
投稿: まち | 2013.10.03 12:52
>>まちさん
コメントありがとうございます。本は「好き」の対象だけで良かったと思います。本を「仕事」にしてしまったら、愛憎諦の入混じることになるだろうし。そして、図書館なかりせば、エラいことになっていたでしょう。
投稿: Dain | 2013.10.03 13:53