スゴ本オフ「スポーツ」レポート
オススメ本をもちよって、まったりアツく、語り合う。
今回のスゴ本オフは「スポーツ」がテーマ。「本を通じて人を知り、人を通じて本と出合う」とはよく言ったもので、「あの人がこの本を!?」と意外な面を知りうる一方で、「この人のイチオシなら読んでみたい」という鉄板も見つかる。
よく、「どうやって本を選んでいるんですか?」という質問をもらうのだが、教えてもらってるんです!! こうやって人づてに教わるのです、わたしが知らないスゴ本を読んでいる方から。
自分の感性だけで、書店やネットを渉猟しても限界だ。同じジャンル、似たようなコンセプト、焼き直しの本を何度も手にすることになる。そして、「読むべき本は出尽くした」という結論に至る。「文芸しか知らん、最近の作家はダメ」、「ノンフィクションしか読まない、マンガなんて屑だ」……ネットのおかげでたくさんの、“そういう人”が可視化されている。わたしも“そういう人”だった。偏狭なジャンルを掘って悟った気になっていたが、スゴ本オフのおかげで、自分が作った垣根を越えることができた。
今回の「スポーツ」というテーマで既読を振り返ると、隠れてた趣味が透けて見える。さらには、「この“スポーツ本”はノーマークだった」という発見がある。小説、ノンフィクション、コミック、映像、エッセイ、実用書まで硬軟が集まる。どれを手にしても発見がある。自分の“食わず嫌い”が炙りだされて面白い。
まずはこの一覧をご覧あれ。
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■野球
- 『甲子園の空に笑え!』川原泉(白泉社文庫)
- 『スローカーブをもう一球』山際淳司(角川文庫)
- 『マネー・ボール』マイケル・ルイス(早川書房)
- 『変愛野球論』桝本壮志(株式会社サンフィールド)
■サッカー
- 『審判目線 面白くてクセになるサッカー観戦術』松崎康弘(講談社)
- 『僕らの事情』ディヴィッド・ヒル(求龍堂)
■テニス
- 『ベイビーステップ』勝木光(講談社)
- 『青が散る』宮本輝(文春文庫)
- 『In & Out』伊達公子(新潮社)
■拳法
- 『謎の拳法を求めて』松田隆智(東京新聞出版局)
- 『拳児』原作・松田隆智、作画・藤原芳秀(小学館)
- 『勝つ!ための空手』石井和義(ベースボール・マガジン社)
- 『実戦拳法 秘門 螳螂拳入門』(日東書院本社)
- 『本部朝基と山田辰雄研究』小沼保編著(壮神社)
■剣道
- 『六三四の剣』村上もとか(小学館)
- 『スポーツ小説名作集 時よとまれ、君は美しい』三島由紀夫ほか(角川文庫)
■水泳
- 『夢はかなう』イアン・ソープ(PHP研究所)
- 『まぶた』小川洋子(新潮文庫)
■バスケットボール
- 『スラムダンク』井上雄彦(集英社)
- 『マイケル・ジョーダン物語』ボブ・グリーン(集英社)
■ロードレース
- 『サクリファイス』近藤史恵(新潮文庫)
- 『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイル(小学館文庫)
■ボクシング
- 『マイノリティーの拳 世界チャンピオンの光と闇』林壮一(新潮社)
- 『敗れざる者たち』沢木耕太郎(文春文庫)
- 『火を熾す』ジャック・ロンドン(スイッチパブリッシング)
- 『ミリオンダラー・ベイビー』クリント・イーストウッド監督・製作・主演(ワーナー・ブラザーズ)
■フィギュアスケート
- 『銀のロマンティック…わはは』川原泉(花とゆめCOMICS)
■競馬
- 『優駿』宮本輝(新潮文庫)
■レスリング
- 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也(新潮社)
■トレーニング
- 『奇跡が起きる筋肉トレーニング』ティ・ベイビー(PHP研究所)
- 『Number Do Early Summer 2013 太らない生活2013』Sports Graphic Number(文藝春秋)
着眼点に驚き&納得したのが、『審判目線』(松崎康弘著)。サッカーという競技を、「プレイヤー」や「監督」ではなく「審判」という斬新な目線から分析する。サッカーにおいて審判は、いわばオーケストラの指揮者のような存在だという。PKやオフサイド判断、警告やカードを用いて、サッカーはひとりの審判の意志で運ばれていく。目から鱗、サッカーを観戦する新しい目を手に入れることができる一冊。
光と闇を見せつける作品が、スポーツの現実をつきつける。優勝した者の常套句「夢はかなう」は、数え切れない夢の屍の上に成り立つ。いくら勝っても幸せになれない黒人チャンプの悲惨な現実を描いた『マイノリティーの拳』(林壮一)。一人の勝者を成り立たせるための、圧倒的な敗者の生きざまを描いた傑作『敗れざる者たち』(沢木耕太郎著)。負けることと、敗れることの決定的な違いを教えてくれる。脱落組の暗黒面を描いた『バックストローク』(『まぶた』所収、小川洋子著)は、家族の壊れぐあいが怖い。常に超人的な努力を迫られ、心身ともに追い詰められ、ドーピングに手を染めずにいられなかった元選手の魂の告白に、涙せずにはいられない『シークレット・レース』(タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイル著)。
意外だが納得なのは、川原泉の少女コミック。『甲子園の空に笑え!』『銀のロマンティック・・・わはは』は既読なのだが思いつかなかった!ハイスペック&少しずれたキャラクターと、思いもよらない展開と、感動的な結末は、振り返ってみると確かにスポーツの王道なり。ただ、若い人にはまったく通じなかった。川原泉作品は、もう古典なの?
スゴ本オフの常連さんで、格闘技のプロフェッショナルがいるのだが、そのオススメが濃ゆい。まず、「格闘技はスポーツか?」という命題に、競技化されていればスポーツだという発想が明快だ。ルールが形式化されているか否かによって、武道がスポーツになったり格闘技になったりするのは面白い。『勝つための空手!』(石井和義)は、そんな世の中の教則本への反面教師になるという。競技化されているから、より実践的な「試合の勝ち方」を避けようとする風潮へ強烈なカウンターとなっている。まさに勝つための生々しいノウハウが凝縮されている。
他にも、K-1を40年先取りした『本部朝基と山田辰雄研究』(小沼保編著)や、武田鉄矢『刑事物語』や『バーチャファイター』のリオン・ラファールの拳法の元となっている『秘門 螳螂拳入門 実践中国拳法』(松田隆智)、中国の田舎武術だった八極拳をメジャーにした『拳児』(原作・松田隆智、作画・藤原芳秀)、さらにはその元ネタの『謎の拳法を求めて』(松田隆智著)が紹介される。松田隆智氏は先日他界されたのだが、スゴい人だったんだなぁ……
わたしが紹介したのは、『優駿』(宮本輝)。一頭のサラブレッドに夢を託した人たちのヒューマンドラマ。銭金、性欲、権力欲にまみれてる人の様が醜ければ醜いほど、その夢を背負った馬が美しい。馬は、人の思惑から離れたところを走るから美しい。やすゆきさんのツッコミによると、馬は犬と違って、人を認識しないそうだ。乗りこなす人だけを認識する。その特性を生かし、依存症に対するメンタル・セラピーに馬が使われる。馬は、人の過剰な愛情をスルーしてくれる動物なんだそうな。
ずらり並んだオススメ本&ごちそうをご紹介。子づれの関係で早退してしまったが、もっと聞きたかった……お泊り会形式か、早い時間に終われるよう、時間調整しよう。
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コメント
金枝篇は既読でいらっしゃいますか?内容は世界各地の民話伝承の類を収集したものです。作者のフレイザーは、文献調査による事例収集中心でしたので、フィールドワーク研究者からは「安楽椅子の人類学」と揶揄されていましたが、そんなところがdainさんに似ている香りがする人なので、読んで損はないかと思われます。
投稿: ハイヌウェレ | 2013.09.06 16:29
>>ハイヌウェレさん
オススメありがとうございます。なんというシンクロニシティ!ちくま文庫版を先月読了し、明日(9/7)のスゴ本オフに発表するため、お話を練っているところなのです。「王殺し」を現代アイドルの盛衰に絡め、そのうちブログにも書きますよ。
投稿: Dain | 2013.09.06 21:33