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なぜ小説を読むのか?なぜ小説を書くのか?『実践小説教室』

実践小説教室 伝わる・揺さぶる小説を書くために必要なものが分かる。

 それは書き手自身の経験であり、熱意になる。その見つけ方、酌み取り方、表し方が、読み手の背中を押すように解説されている。テクニック的な面から言えば、文学賞を取るための「べからず」集がまとめられている。あたりまえなことを、あたりまえに教えてくれる良い本。

 タイトルに惹かれて技術的なノウハウを知りたい人は、いきなり2章を読むといい。短編か長編か、テーマはどこから掘り出すのか、人称をどうすればテーマに沿うかがまとめられている。基本的なものばかりだが、興味深く感じたのが、「いま、文学賞を狙うなら」という視点で尖ったアドバイスがあるところ。

 例えば、三人称で書く場合の手法として「複数の現在」をお勧めしてくる。小説的現在が二つ以上あると、物語は劇的に迫力が得られるからといい、各章ごとに交互に小説的現在が入れ替わる構造を紹介する。この手法を取り入れた作品をいくつか思いつくが、まだ手垢にまみれていない状態なのだろう。ちょっとズラすなら、「複数の現在」の一つを実は過去(未来)にミスリードするトリックを思いつくが、これも傑作があるなぁ。

 あるいは、過去の受賞作と作風が似ているからという理由で新人賞を選ぶのはよくないという。つねに新鮮なものを求めている主催者にとって、「またか」ということになるから。時代小説にSFやホラー要素を入れた作品を目にするが、新奇性を超えて定着するかも。でもって日本にないジャンル"historical fiction"が一般化するといいね。

 文学賞の傾向と対策として、流行のサイクルを研究するのもいい。ベストセラーには一定の波がある。それを分析して、次の時代にはまる作品を先取りして書くのだ。「最近のオヤヂは、若いとき本読んでたのか」で時代毎のベストセラー分析をしていたので、[年代流行ベストセラーランキング]と絡ませると、次が見えてきそうで面白い。

 テクニカルな面だけではなく、小説家の心構えというか気質のようなお話も興味深い。例えば、頭の良すぎる人は、小説家に向いていないらしい。白黒はっきりした結論をつけたがるからだという。拙速に答えに飛びつかず、結論が出ない問題を、問いの形のままで考え続けられる人が小説家気質になる。

小説家というものは、社会への適応能力がありながら、その実きわめて感受性が強く、内面に葛藤を抱えながら社会生活に努めて適応している人たち
 「いい小説とは何か?」への解答も明快かつ納得できる。それは、再読を促す仕掛けが施されている作品だという。では再読を促す仕掛けとは?即ち「重層的な構造」と「同時代性」がキーになる。物語単線ではなく、さまざまなテーマが織り込まれており、同じ時代に生きる読み手に響く背景や台詞が埋め込まれている作品になる。自分が「いい小説」と思えるものと照らせば答え合わせはすぐだろう。

 ただし、「どうすれば重層的な作品になるか?」への答えは楽観的すぎやしないだろうか。書き手の中にある重層的な感性、重層的なテーマが、知らず知らずのうちに作品に表現され、意識して書かなくても、おのずと重層的になるというのだ。読者を「書き手」に招こうという手が透けて見えて面白い。

 そして、「重層性」「同時代性」からドリルのように穿ちまくる読みがスゴい。『海辺のカフカ』とイチローの関連性や、『蹴りたい背中』と『金色夜叉』の相関性を深読みしまくるのだが、その連想の飛距離はこじつけに近い。綿矢りさの好きな作家に、田辺聖子がいるというのが根拠らしいが、恋愛絡みを1レベル抽象化したら、いくらでも相関性を見つけられるぞ。ただ、もしこれが正鵠なら、それはそれで素晴らしい。読者よりも作家が喜びそうな深読み、思い込み読書上等なり。

 「なぜ小説を書くのか?」「なぜ小説を読むのか?」への答えに激しく同意する。いつも思っていたことを言葉にしてもらえたようで嬉しい。

 まず、桑田真澄の発言を紹介する。

  • 自分が野球を教えるのは、全員をプロ野球選手にするためではない。野球の面白さをより多くの人に伝えるため
  • みんながみんな、プロ選手になれるわけではないし、なる必要もない。ただ、野球の基本を身につけることで、野球を好きになる、もっと面白く観れるようになる
  • 野球の面白さは、自分がやってみないと分からない。だから自分は教えている
 小説も同じで、みんながみんな、プロになれるわけではない。だが、大切なことは、自分で手を動かし、心を羽ばたかせて、小説を書いてみること。書けば書くほど面白くなってくるし、読むときも、より深く小説を味わえるようになるというのだ。

 約束事の外に立って書くことで、ふだん自分があたりまえだと思っている常識的な世界に揺さぶりがかかり、新しい世界が開けてくる。そこで見えてきた「真実」のようなものを、かけらでもいいからつかまえて、言葉で表現できたとき、人は小説を書く醍醐味を知るというのだ。

 ただしこのとき、外に出たきりになるのはよくない。必ず元の位置に戻って、日常の世界で生きる。そうあってこそ小説家になれるというのだ。小説を書くとは、自分の人生を相対化させることなんだね。

 そして、小説にとっては、どんな人生も無駄ではないと断ずる。自分では平凡に見えても、味わった感情、経験してきたことは、何一つ無駄ではなく、どんなことも小説を書く上では格好の素材になりうる。そのまま書くことはなくても、何かの形で生きるというのだ。

あなたのこれまでの人生は、もしかすると、これからあなたが書く小説のためにあったのかもしれません。その一作を書くためにあなたは生まれ、泣いたり笑ったりしながら懸命に生きてきたのかもしれません。
 楽観的で、安易といっていいほど背中を押してくれる。その理由は、わたしが良い小説を深く読むためであり、書くためでもあるのだ。作家をプロデュースする5冊よりも、いちばん力強く背中を押してくれる、良い本。

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知的連歌 hoooon! 面白いぜ

 ライブ型書評イベント見てきた。

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 雰囲気に合わせて楽曲を選び、トークを交えながら音楽を流すのがDJ(ディスクジョッキー)なら、これはBJ(ブックジョッキー)だ。前の曲とのつながりや、来場者の興味に沿ったり裏切ったりしながらアレンジする。まるでジャズセッションのようなライブを「本」で演(や)るのだ。かなり高度で面白い。

 基本ルールは2つ。

 1)持ち時間は1人3分間
 2)前の人の紹介キーワード・テーマを引き継ぐ

つまり、一人3分で一冊紹介し、次の人が、その本に関連する本を紹介する×4回で、3人で12冊をマシンガントークするわけ。プレゼンター達は、一人十数冊持ってくるけれど、実際に紹介されるのは「前の人の紹介本に絡むもの」という縛りがあるので、自ずと絞られてくるのだ。

 どういう本が俎上にあるかは最初に分かっている。この日はこんなラインナップだった。科学哲学、建築、政治学、都市計画、空間デザインという専門領域を持つ若手研究者が、学術書から小説、写真集まで、ジャンルオーバーな本が集まっている。

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 既読本なのに、意外なつながりから導かれたり、思いもよらないキーワードで紹介されると、気づきと驚きが生じる。ああ、そういう「読み」もあったんだねと。松岡正剛氏の「共読」を現在進行形でやるようなもの。しかも、そうしたつながりは、トークのうねりの斬り口からアドリブ的に飛び出してくる。このライブ感が、まるでジャズのかけあいのように面白いのだ。

 こんな流れだ。シャルル・フーリエ『四運動の理論』→玉村豊男『料理の四面体』→マックス・ヴェーバー『社会主義』へとつながる。串刺しにしているキーワードは、"普遍性"なのだが、どういうキーワードに落とし込むかは、しゃべり手の感性による。

 続いて、P.オースター『幽霊たち』→ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』→佐藤優『国家の罠』とつながる。さらに梅原猛『歎異抄』がくるのだが、『国家の罠』とのつなげ方がアクロバティックなり。悪人を作って排除する検察から、善人なおもての悪人正機説という連想。ドストの『カラマーゾフの兄弟』があったので、てっきりロシアつながりかと思いきや、「そうきたか!」と驚かされる。

 読みたい本、読み返したい本が続々と出てくるのがいい。坂本一成『建築に内在する言葉』が読みたい。「建築の中で暮らしている=建築の中でしか発想できない」というスタンスをずらすという。それにつながる諭吉の『学問のすすめ』は読み返したい。

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 これ、 実況したらオモロイぞ、とおもってたら、こないだニコニコ超会議に出てたそうな。九鬼周造『いきの構造』から、テグジュペリ『人間の土地』、宮崎駿の反戦・兵器好きの矛盾性から、「飛ぶことへの呪い」論が開陳される。『風立ちぬ』は、彼の総結集+乗り越えらしい。発想の共振動が、思わぬ方へ転がってゆく。

 芋づるが想像とは違う方向に延びてゆくのがイイ。「その一冊」を読み込んでいるからこそ生まれ出る着想と、「その一冊」に情熱を注ぎ込んでいるからこそ流れ出る連想がいい。いわゆる発想の連歌を「本」で演るのだ。

 ただし、これはかなりハードルが高い。イントロ1分、紹介3分と切れ目なく話を続けながら、自分のフィールドの本に絡めつつ、次の人につながりやすいパスを渡してゆく。一人一冊紹介するだけのビブリオバトルとか、もっとフランクなブクブク交換、まったり熱く語り合うスゴ本オフと比べると、hoooon! は、かなり高度だ。「しゃべり手」のパフォーマンスに拠るところが大きい。やり方によってはグダグダに陥ったり、独り善がりで周囲は「?」となる恐れもある。読み込みと情熱としゃべり技術を求められる、知的連歌なのだ。

 だからこれは、「今が旬」のイベントなのかもしれない。次回もぜひ観覧したい。

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 「知」を楽しむ。若手研究者による本紹介イベント

 一番惹かれたのが、矢代梓『年表で読む二十世紀思想史』。流行りモノを切口に、横断的に俯瞰する視点が得られそう。

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『あいどる』を嫁にしようとした男

あいどる 強いて喩えるなら、Michael Jackson が初音ミクと結婚しようとした話。ウィリアム・ギブスンが17年前に幻視した、サイバーでジャンキーで未来な東京。

 「見たことのある未来」に大いに親近感を抱くのだが、微妙にずれた(というか懐かしさ)をひしひし感じる。たとえば、大震災を経てナノテクで急造された東京とか、アイフォン(iPhoneじゃなくって、eyePhone)というゴーグル型インタフェース、ネットの痕跡から人物を「特定する」専門職などがそう。今や古語となった"サイバーパンク"から照らした未来(=現在)は、懐かしさに満ちあふれている。

 特にバーチャル・アイドルたる麗投影(レイ・トーエイ)に過去を見てしまう。ホログラムに映し出されたリアルと仮想空間を自由に行き来できる一個の仮想人格になる。作中では「主観的欲求の集合体」と「統合された"憧れ"のアーキテクチャ」などと表現されているが、伊達杏子や初音ミクを彷彿とさせてしまう。

 初音ミクについてギブスン御大は補足済みで、2010年に「アニメ調ではなく、もっと高解像度(higher rez)でないと、私の心には響かない」とつぶやいている(via:[まなめの週刊Twiterなう])。ただ、ミク本体は「バーチャルアイドル」というよりも、音楽や映像を結集させる「場」のように見える。

 だから、人々の夢や憧れ、あるいは欲望を投影させる偶像としての「アイドル」なら、ミクのほうが近しい。というのも、『あいどる』の麗投影は完全な一個性のAIであり、言動の予測は(人間よりも)不可能だから。何かの技芸を披露することもなく、ただそこにいるキレイなお姉さんにすぎない。どんなレスポンスが返ってくるか、パターンが読めないから、偶像というよりも霊的な(あるいは神的な)存在に見えてくる。

 一方で、「俺の嫁」としてのバーチャルアイドルなら、恋愛シミュレーション「ラブプラス」を思い出す。プレイヤーの数だけ、DSの数だけ「俺嫁」は存在する。ギブスンが視た未来との違いは、コピーの有無だろう。「ミク」や「寧々さん」といったアイコンは共通だけど、セーブデータは無数にある。賛嘆や崇拝や熱望といった感情を、一個の人格で受け止めるのには無理がある。

 過去から見た未来が「電脳空間に究極のアイドルを作ろう」というのであれば、現在から見た未来は「アイドルをコピーして欲望をカスタマイズしよう」になる。

 新奇なものに出会っているのに、昔を思い出してしまう感覚が面白い。ギブスンのサイバーパンクは、もう古典なのか。物語そのものよりも、そこから想起される発想に翻弄される。ティプトリーJr.『接続された女』やアイマスと絡めると、「バーチャルアイドルに恋した男の悲話」ができあがる。

 懐かしい、でも違和感ある未来(=現在)をデジャヴする一冊。

 お知らせ、スゴ本オフ「アイドル」をしますぞ。わたしは『あいどる』を始め、アイドルの根っこについて一席ぶつつもり。

 日時 9/7(土)15:00-20:00
 場所 麹町KDDIウェブコミュニケーションズ
 参加費 2000円(軽食、飲み物をご用意します)
 申込 facebook「アイドル」のスゴ本オフ


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書店でビブリオバトルをするならば

 好きな本をプレゼンし、イチバンを決めるビブリオバトル。

Photo

 ブックトークにゲーム性を加えた知的書評合戦は、意外な本や見知らぬ読み手と出会う良い機会なり。紀伊國屋書店で参戦しているが、ひとつ残念なことがある。

 それは量。

 オススメできるのは一冊だけ、という縛りがある。一人5分でプレゼンし、質疑応答で2分。5人しゃべったらそれだけで35分、採決や紹介を入れると小一時間かかってしまう。

 もちろん、ゲーム性のためシンプルにしているのは分かる。だが、これに出向くような本好きであれば、5冊なら一目で見極めてしまう。その5冊から幸せな出会いがあるかもしれないが、もっと膨らませることはできないだろうか。分母を増やすことで、出会いの確率を上げられないだろうか。

 そこで提案。

 テーマ毎に5人の参戦者が5冊のオススメを持ってくるのなら、+αしてみてはどうだろう。つまり、「このテーマでその本なら、これなんていかが?」と主催者側が逆提案するのだ。どの5冊が集まってくるかは、事前申込で分かっている。

 その5冊をコアにして、作家つながり、テーマが類似、反論本、対となる本、コミカライズ、海外モノ、別の訳者、別の時代、学術書など、「その5冊から導き出される本」が出てくる(これは書店員さんの十八番だろう)。この導出本を、もとの5冊を囲むように並べるわけ。棚を一竿借り切って、そこでプレゼンしてもいい。季節や流行りをテーマにしてた関連本コーナーがあるが、それをビブリオバトルのテーマでやってしまうわけ。

 ビブリオバトルに参戦してくる人は、それなりに読んできているか、「その一冊」に強い思い入れがある方だろう。そんな人にカウンターを当てる形で、「それならコレは?」と書店員さんが(無音で)オススメするのだ。そこで「それは知らなかった」とか「それがあったか!(既読だけど)思いつかなかった」といった、新たな出会いがあるだろう。

 ビブリオバトルを観戦する人は、やはりそれなりに読んできており、「新たな出会い」を求めている方だろう。その人へ提案する「分母」を増やすチャンスとなるに違いない。参戦者の5冊を見て、「それならコレがあるのに」という思いをしている観戦者の、まさにその一冊が並んでいたならば、「うむ、この書店は分かっておる」と知的虚栄心(?)をくすぐること間違いなし。

死を食べる たとえば、先日の紀伊國屋書店のビブリオバトル。テーマが「自由研究」で、わたしのオススメしたのが『死を食べる』(宮崎学)。キツネの死骸に蝿が群がり、蛆が湧き、その蛆を食べるための獣が訪れ……と死骸が土に還っていく様子を定点撮影する。浜辺に打ち上げられた魚にヤドカリがたかり、食い尽くされる。いわば九相図の動物版やね。

 クジラから蛙まで、さまざまな「死の変化」を並べることで、「どんな死も、だれかが食べてしまう」ことに気づかされる。これを子どもと一緒に読むことで、「死とは、誰かに食べられる存在になること」、そして「生とは、誰かの死を食べること」という結論に達する。

死 ここから派生するのは、同写真家の『死』が挙げられる。『死を食べる』の大人向けだ。一匹の動物が死ぬと、蝿がたかり、蛆が湧き、さまざまな動物が死肉を漁り、白骨となって土に還る。腐敗が進行する際の、あったかくて猛烈な匂いまでが、ちゃんと写っている凄い写真集だ。子どもの頃に見かけた、「轢かれた猫の死骸に、真っ黒にたかる銀蠅」や、「砂の下に、だんだん沈んでいく蛙」の残像が重なる。

 死は一種のエンドポイントのように見られがちだが、かなり変化自在だぜ。しかも塵芥になった後、世界中に拡散してしまう。ひとつの肉体に閉じ込められた生よりも、よっぽど自由(≒エントロピーMAX)だな。

リバース・エッジ さらに想起されるのは、岡崎京子『リバース・エッジ』。誰が何と言おうとも、岡崎京子の最高傑作はこれなり。というか、「生きるって何」についてこれほど痛ましく凄まじく応えている作品は希有といってもいい。読み手の年齢や感性に応じて化学反応するので、読者を選ぶかもしれない。だが、希薄で無痛で明るい閉鎖空間に慣れきった神経にバチンとくる。読み手の人生のタイミングによっては、落雷級かも。

 これらは、わたしの感覚で選んだ派生本だが、他の方だと全く異なるラインナップになる(それが面白いし、そこが知りたい)。「コアの一冊」から生まれる「それならこれはどう?」という発想を生かせるのは、書店だけ。本に人を集められるリアルな発信地として、本のソムリエというリソースを生かし、売上げにつなげるため、「書店でビブリオバトル」に「書店員のオススメ」を加えてみてはいかが。

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読んで悶えろ『東雲侑子は短編小説をあいしている』

 ラノベを読むのは、存在しなかった青春を味わうため。

 「いいおもい」なんて、なかった。劣等感と自己嫌悪に苛まれ、鬱屈した日々が終わることを、ひたすら望んでいた。苦くて痛々しいわたしの恋を、甘くてしょっぱい味付けで上書き保存するために、恋物語を読むのだ(妄想だって経験だ)。

 そういう意味で、東雲侑子の三部作は素晴らしい。

 無気力で無関心な主人公は、まんま「わたし」だし、いつも独りで本を読んでる彼女は、あのとき好きだった“誰か”になる。照れ屋で臆病な二人の、不器用で未熟な恋に、好きなだけ投影できる。ラノベの体裁をしてラノベらしからぬリアルな設定と、文芸の王道を往く技巧的な構成に、完全に撃たれる。のめり込んで舌を巻いてキュンとなる。

 彼女がある秘密(それも、現実にありそうな秘密)を抱えてて、偶然に知ってしまった主人公とのバーターから成る仮面恋愛にハラハラさせられる。どっこいわたしは(もちろん皆さんも)、どうなるか薄々分かってはいる。だってラノベのパッケージだもの。

 だが、一番肝心なところは書いてない。作者はよく分かっている。一人称で統一し、東雲侑子の心情を見せぬようにしている。代わりに、彼女の言葉やしぐさ、顔色から息遣いまで、それこそ綿密に舐めるように描かれる(主人公が“見て”いるからね)。すると彼女は、「あんまり見ないで…」とうつむく(悶えろ)。

 だから、この恋がどうなるか、目に見えるところでしか分からない。彼女の心が見えないからこそ、歯がゆかったり、恐ろしかったりする。東雲侑子を純で可愛い女と見てもいいし、少ない言葉で彼を振り回すエキセントリックな娘と思ってもいい。恋と同じ、読み手の解釈に委ねられる。

 秘すれば花、いちばん肝心なところ、彼女の気持ち、を書かないから恋愛小説になれる。小説のいわば楽屋裏を「みせない」。見せずに魅せるのが小説の極意。だから解釈は多様に別れ、面白い“読み”が生じる。

 代わりに彼女の気持ちは、作中作として挟まれる短編小説の描写に、間接的に託される。最初は生活感のない世界で堅苦しさを強調する『ロミエマリガナの開かれた世界』。二巻目は柔らかさが意図されリアルな感情をそのまま伝えようとする『いとしくにくい』
。そして最後、三巻目では世界が広がり、相手の心情を推し量る微妙な距離感が生まれる『恋愛学舎』。これは、東雲侑子の成長譚でもあるのだ。

 “彼女の気持ち”を一切書かずに、でも彼女の“好きだ”という切なさが伝わってくる。二巻目の嵐も、三巻目の彼の選択も、物語の気持ちのいいところにグッと入ってくる。こんな恋愛、したかった。だが、こんな恋愛、小説だけで狂いそうだ。

 そういう意味で、存在しえない甘酸っぱい青春を上書き保存できる。妄想だって経験だ、最終巻を読んだ夜は、きっといい夢を見るだろう。

 読め、そして悶えろ。

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この山の本がスゴい

 オススメ本をもちよって、まったりアツく語り合う。

 本を通じて人を知り、人を通じて本に会う。「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の、「あなた」と「スゴ本」が続々集まってくる。読書半径を拡張させ、既知だが未読を動機づけ、切口の斬新さに驚く。

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 今回のテーマは「山」。山と渓谷社さんのご協力で、モンベル渋谷店にて開催する(ヤマケイさん、モンベルさん、ありがとうございます)。いわゆる登山をテーマにした定番から、参加者のお父さんの登攀日記(モノクロ写真付き)、生活の場としての山、異界や霊場としての山、さらには墜落現場や地殻変動の場として、さまざまな「山」が紹介される。

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凍 多くの方が強力に推したのが、沢木耕太郎『凍』。壮絶な登山をされてきた山野井夫妻のノンフィクションなのだが、簡潔ながら迫力ある描写に呑まれるように読み干してしまう。わたしが一気に読んだとき、血の味に気づいた。クライミングの緊張感と手術シーンの痛みがあまりに強烈で、全身に力を込めずっと歯を食いしばっていたから[歯を食いしばって読む『凍』]

垂直の記憶 ただし、あまりに文が巧すぎ、真に迫りすぎている。遼太郎氏や七生センセのような、「見てきたような」書き口に、思わずと疑ってしまう。そんな疑問を粉々にしてくれるのが、本人が書いた『垂直の記憶』([『垂直の記憶』はNo.1スゴ本])。登攀への凄まじい意志に、そのまま撃たれ、「生きている」という強烈な感情が伝わってくる。淡々とした語りで、過酷な事実を積み重ねる。平凡な形容詞だが、なるべく正確に記そうとする。しかし、書かれていることは平凡から遠い。世界に誇る日本のアスリートの具体的な軌跡は、[山野井泰史氏が挑んだ山、大岩壁]を見てほしい。

凍 このオフ会で沢山の方が「これ!」と挙げたのは、身体の一部を失って、壮絶な、死ぬ思いをして、それでも帰ってきたから。静かだが強い意志に共鳴したから。指を失うという、クライマーとしては致命的なダメージを受けた後、どうなったのか?山を離れたのか?その答えは、『白夜の大岩壁に挑む』にある。北極圏グリーンランド、標高差1300mの未踏の垂直の世界に挑む山野井夫妻の“行動”を通じて、意思が伝わってくる。悲壮感はまるでなく、命がけで「好きを貫く」を実行している。メッセージ性は一切ないのに、伝わってくるものがある。ぜひ皆に読んでほしくて、思わず二冊も買って放流してしまった。

凍 意外な?スゴ本が、『ゴルゴ13(第119巻)』。8000m超の雪山で人民解放軍と戦う、ゴルゴ史上指折りの過酷さ。パンチェン・ラマという少年僧が亡命を試みた、というのが元ネタ。現実では彼の運命は分からないままだが、ゴルゴが逃がしてあげたのだ、というストーリー(依頼人はダライ・ラマ!)。追う側の人民解放軍のウンチクが、ひたすら長くてキレている。「共産党は仏の上にある」という掴みが笑えるし、山野井さんを賞賛する場面では、絶妙にくすぐられる。

 『ゴルゴ』シリーズは綿密な下調べと時事ネタが特色なのだが、雪山でゴルゴが取った行動は、登山の専門家からしても確度が高いらしい。吹雪の中、ゴルゴが少年をクレバスの中にビバークさせるのだが、(下まで落っこちなければ)正しいビバークだって。

凍 凄い本というより、凄い人なのが、吉田智彦『信念』。前人未踏の一万日連続登山に挑んだ、毎日登山家の壮絶なライフヒストリー。定年退職の翌日から始めて、一万日(およそ27年間)連続で山に行く。「以後の出社は山に」という名言。どう見てもホームレスな格好なのだが、執念のような修験者のような人生後半。「生きること=登ること」なのだ。雨の日も風の日も嵐の日も山に登り続けるのだが、凄まじいのは、ひき逃げされたとき。警察に届けると入院させられるから黙ってるという壮絶さ。奥さんが入院しても山。怒られるんじゃ……と思いきや、夫婦愛も深いという。

北壁の死闘 いわゆる徹夜小説としてオススメしたのが、『北壁の死闘』だ。冒険ミステリ、ラブロマンス、サスペンス、アクション、手に汗握る要素ぜんぶ入り。第2次大戦末期、原子爆弾の開発をめぐってナチスドイツが精鋭クライマーを集めて打った奇策。追いつめられた彼らがアイガー北壁で繰り広げた壮絶な死闘……という謳い文句だが、登攀が始まったら、手から本が離れなくなるぞ。臨場感ありまくり、心拍数あがりまくり、危ないッて思わず目を閉じてしまうくらい。読まずに死んだらもったいない、これを超えるのがあったら、ぜひ教えて欲しい(必ず読む)。

 記憶に刻み込まれている山として挙げられたのが、御巣鷹山。『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』と『クライマーズ・ハイ』が多数紹介される。「山」と聞くと、どうしても思い出してしまうのだ。

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墜落遺体 1985年8月12日、群馬県・御巣鷹山に日航機123便が墜落し、一瞬にして520人の生命が奪われた。この未曾有の惨事に対し、遺体の身元確認の責任者として、最前線で捜査にあたった著者が渾身の力で書きつくした記録が、『墜落遺体』。

 誰が悪いのか、という判断を措いて、淡々と書かれているのが良いという。ドライブレコーダーの記録を読むと、どうしてこんなことが起きてしまったのか、おぞましさと厳しさに身がすくむ。その一方で、最後の最後まで、機内アナウンスを冷静に進めようとするスチュワーデスの様子に、胸が一杯になる。かなりキツい描写もあるが、このような本を出してもらい、出版関係者に感謝を捧げたい、というドキュメント。

クライマーズ・ハイ 『墜落遺体』と一緒に紹介されることが多かったのが、『クライマーズ・ハイ』。

 こちらは小説になる。御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちのの悲喜こもごもが濃密に描かれている。未曾有の大事故に決然と立ち向かう人、あるいは奔流を前に立ちすくむ人びとの生々しい描写がすごいらしい。

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羆嵐 「山」そのものよりも、そこから連想するものとして挙げられた傑作が、吉村昭『羆嵐』。既読だったが、「山」と結び付ける発想は無かったので出てきたときにはアッと驚いた。確かにこれは、「山」だ。『羆嵐』のモデルは、1915年の北海道三毛別羆事件。Wikipedia[三毛別羆事件]によると、人間の味を覚えたヒグマが民家を襲い、7名死亡、3名が重傷を負った日本史上最大規模の獣害事件だという。あまりに怖すぎる描写に、山の最怖ホラーとしてオススメ(?)される。山の恐怖譚で、これより怖いものがあったら、教えてほしいという。

殺人鬼 今思い出した「山の最怖ホラー」は、綾辻行人『殺人鬼』。サマーキャンプに突然現れた殺人鬼がひきおこす阿鼻叫喚に満ち満ちたスプラッター・ホラー。描写のいちいちがグロくてエグくて読めない方が続出すること請け合う。血みどろフィーバーのみならず、ファイナルストライクが凄まじくて、良い意味でも(悪い意味でも)必ず驚くに違いない。

そして謎は残った 世界最高峰のエヴェレストをめぐるミステリも紹介される。『そして謎は残った』という、伝説の登山家マロリー発見記だ。エヴェレスト山頂近くで姿を消したマロリーの遺体を発見した米捜索隊の手記。表紙がマロリーの死体なのだが、エベレストの死体って、こんなに綺麗に残っているのかと驚く。75年前の死体なのに。マロリーは登頂に成功したのか?この謎を解く鍵は、彼が携行していたカメラになる。

 そしてこのカメラを鍵にして展開される壮大な物語は、夢枕獏『神々の山嶺』。前人未到の「エベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂」に挑む伝説のクライマーを描いている。紹介された女性の方によると、主人公の羽生は、放浪ライオンのコミュニティーを想起させられるという。最強の一人(一匹)だけが生き延びられる。「女の私からすると、とてもセクシー。そういう、悲壮感を背負っている主人公は、セオリーとして死ぬんです」このツッコミに会場が湧く。強い男=セクシーな男なのか。

神々の山嶺上神々の山嶺下

 わたしも読んだが、ラノベのように軽やかに青臭く、おっさんたちの生きザマを泥臭いと感じた。銭金や顕示欲や人間関係の欲望がドロドロしていればいるほど、エベレストが崇高に気高く見えたもの。読むと心の奥に火が点けられ、ずっと昔に封印した「自分は何のために生きているのか」そして「自分が本当にやりたかったこと」を沸々と思い出す危険な副作用がある徹夜小説だった。

Wildwatch

 モンベルの中の人のプレゼンをご紹介。趣味でクマの映像を撮っている方なのだが、いわゆるバードウォッチングを進めた「ワイルドウォッチング」というものなのだろうか。[GoWild01]にまとめられている。急峻な崖をトラバースしていく熊の様子や、母子熊の生態を紹介してくれる。

 崖で子育てする母子熊のフリークライミング、ぴょこぴょこする子熊が可愛い。だが、崖で子育てするにはワケがあるのだ。気が立った雄熊に殺されないよう、見晴らしが良く、近づくのに時間がかかる崖をわざわざ選んでいるそうな。

 望遠のせいか、かなり近く見える。100mくらい離れたところから撮影しているとはいえ、100mって熊にすれば一瞬じゃないの?間に谷があるとはいえ、吉村昭『熊嵐』の後に見ると、やはり怖い。

 youtubeで気軽に見ることができるけれど、撮る方は大変だ。片道3時間かけて撮影場所まで移動し、一日掛けて撮影。ほとんど出会えず、帰ることもままあるらしい。

Goalzero

GoalZero モンベル製品のプレゼンもしてもらう。カラビナとかハーネスとか、登山グッズかなと思いきや、エレクトロニクスの紹介に驚く。ポータブルソーラーパネルの「GoalZero」や、携帯火力発電器「BioLite」といった、スゴ物が出てくる。バックパックに貼り付けたソーラーパネルで充電してiPhoneのGPSを使って山登りとか、どんだけ未来になっているんだ!

Biolite

BioLite 夜になって光を利用できなくなったら、BioLite。熱の温度差を利用して発電する、携帯火力発電器だ。焚き火で発電するという発想が凄い。落ち葉とか枯れ枝を集めてストーブに入れて、燃やす。充電された電気でファンが駆動して、ストーブに空気を送り込む⇒さらによく燃えるというわけ。溜まった電気はUSBからもらえる仕掛けになっている。アウトドアだけでなく、防災用品としても良いかも。

死都日本 他にも、 「吹雪の山荘に閉じ込められる」パターンお約束の『古畑任三郎FINAL』や、小松左京『日本沈没』よりも現実味溢れる石黒耀『死都日本』、世を捨てて山野を旅した山頭火の句集など、「山=登山」の発想から離れた作品が並ぶ。わたしは「宇宙から見た目印としての山」という観点から、岩明均『七夕の国』やスピルバーグ監督『未知との遭遇』を紹介する。紹介・言及されたラインナップは以下の通り。



    北海道
  • 『羆嵐』吉村昭(新潮文庫)

    奥羽
  • 『八甲田山 死の彷徨』新田次郎(新潮文庫)
  • 『八郎』斎藤隆介(福音館書店)
  • 『山深き遠野の里の物語せよ』菊池照雄(新泉社)

    富士山
  • 『富士山頂』新田次郎(文春文庫)
  • 『富士覚醒』石黒耀(講談社文庫)

    御巣鷹山
  • 『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』飯塚訓(講談社プラスアルファ文庫)
  • 『クライマーズ・ハイ』横山秀夫(文春文庫)

    日本アルプス
  • 『岳』石塚真一(小学館)
  • 『単独行』加藤文太郎(ヤマケイ文庫)
  • 『槍ヶ岳開山』新田次郎(文春文庫)
  • 『劒岳 点の記』新田次郎(文春文庫)
  • 『氷壁』井上靖(新潮文庫)
  • 『谷川岳の岩場』武藤昭(山と渓谷社)

    津々浦々
  • 『信念』吉田智彦(山と溪谷社)
  • 『山頭火句集』種田山頭火(ちくま文庫)
  • 『考える人/人は山に向かう』(新潮社)
  • 『Number Do あの山はもっと遊べる!』(文藝春秋)
  • 『Number Do Summer 2013 日本百名山を再発見』(文藝春秋)
  • 『ランドネ』(エイ出版社)
  • 『編集後記 雑誌編集者の時間』勝峰富雄(インプレスR&D)
  • 『ぼくは猟師になった』千松信也(新潮文庫)
  • 『山なんて嫌いだった』市毛良枝(ヤマケイ文庫)
  • 『邂逅の森』(熊谷達也)
  • 『日本の森を支える人たち』(晶文社)
  • 『熊を殺すと雨が降る』(山と渓谷社)
  • 『山登りはじめました』鈴木ともこ(メディアファクトリー)
  • 『雨のち晴れて、山日和』(唐仁原 教久)
  • 『くう・ねる・のぐそ 自然に「愛」のお返しを』伊沢正名(山と溪谷社)
  • 『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間文庫)
  • 『女のはしょり道』伊藤理佐(講談社)
  • 『みんなちさこの思うがままさ』池田知沙子(山と渓谷社)
  • 『林さんチャーハンの秘密』林 政明(センチュリープレス)
  • 『アントキノイノチ』さだまさし(幻冬舎)

    チベット
  • 『チベット旅行記』河口慧海(講談社学術文庫)
  • 『チベットのモーツアルト』中沢新一(せりか書房)
  • 『ゴルゴ13 パンチェン・ラマ編(第119巻)』さいとうたかを(リイド社)
  • 『ミニヤコンカ奇跡の生還』松田宏也(山と渓谷社)

    ヒマラヤ
  • 『凍』沢木耕太郎(新潮文庫)
  • 『垂直の記憶』山野井泰史(山と溪谷社)
  • 『神々の山嶺』夢枕獏(集英社文庫)
  • 『一歩を越える勇気』栗城史多(サンマーク出版)
  • 『梅里雪山』小林尚礼(山と溪谷社)
  • 『そして謎は残った 伝説の登山家マロリー発見記』ヨッヘン・ヘムレブ(文藝春秋)
  • 『雪豹』ピーター・マシーセン(めるくまーる)
  • 『青春を山に賭けて』植村直己(文春文庫)

    アンデス
  • 『運命を分けたザイル』ブレンダン・マッキー演(ポニーキャニオン)
  • 『高い砦』デズモンド・バグリィ(ハヤカワ文庫NV)

    グリーンランド
  • 『白夜の大岩壁に挑む』NHK取材班(新潮文庫)

    アイガー
  • 『北壁の死闘』ボブ・ラングレー(創元ノヴェルズ)

    ヨーロッパ
  • 『雨天炎天』村上春樹(新潮文庫)
  • 『イタリア異界物語』増山暁子(東洋書林)
  • 『地球の歩き方 クロアチア/スロヴェニア』(ダイヤモンド社)

    フィクションとしての山
  • 『コスモスマーフ』ペヨ(小峰書店)
  • 『山で見た夢』勝峰富雄(みすず書房)
  • 『類推の山』ルネ・ドーマル(河出文庫)
  • 『死都日本』石黒耀(講談社文庫)
  • 『マウイの五つの大てがら』チャールズ・キーピング(ほるぷ出版)
  • 『サクリファイス』近藤史恵(新潮文庫)
  • 『ホワイトアウト』真保裕一(新潮文庫)
  • 『今、甦る死』三谷幸喜(ポニーキャニオン)

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Misdo

Beer

GoalZero おまけ。『考える人 人は山に向かう』で紹介されている、山のベストは以下の通り。上のリストと合わせて、攻略していきたい(そして積読山の標高がさらに増すのであった)。

Kangaeru

池内紀が選ぶ山の文学ベスト10

  1. 柳田国男『山の人生』 岩波文庫「遠野物語・山の人生」
  2. 早川孝大郞『猪・鹿・狸』 講談社学術文庫
  3. 南方熊楠『山男について そのほか』南方熊楠コレクション2
  4. 草野心平『富士山』
  5. 戸川幸夫『高安犬物語』新潮文庫
  6. 辻まこと『山からの絵本』創文社
  7. 新田次郎『強力伝』新潮文庫
  8. 深沢七郎『楢山節考』新潮文庫
  9. ジャック・ロンドン『野性の呼び声』新潮文庫
  10. ドーデ『アルプスのタルタラン』岩波文庫

湯川豊が選ぶ山の文学ベスト10

  1. アルセーニエフ『デルスウ・ウザーラ』東洋文庫
  2. 坂本直行『雪原の足あと』岩渓堂
  3. 今森光彦『里山の少年』新潮文庫
  4. 植村直己『青春を山に賭けて』文春文庫
  5. 星野道夫『イニュニック』新潮文庫
  6. 田部重治『わが山脈五十年』平凡社
  7. 梨木香歩『水辺にて』ちくま文庫
  8. 宮本常一『忘れられた日本人』岩波文庫
  9. W・ノイス『エヴェレスト その人間的記録』文藝春秋社
  10. M・リゴーニ・ステルン『雷鳥の森』みすず書房

編集部「山の本」リスト

  1. 山野井泰史『垂直の記憶』
  2. 沢木耕太郎『凍』
  3. 鈴木牧之『秋山紀行』
  4. 宇江敏勝『山びとの記 木の国 果無山脈』
  5. 湯川豊『イワナの夏』
  6. 北杜夫『白きたおやかな峰』
  7. 谷口ジロー『神々の山嶺』

神長幹雄が選ぶ、山の遭難文学ベスト30

  1. 『新編風雪のビヴァーク』松濤明、ヤマケイ文庫
  2. 『山の遭難 生きた、還った』永田秀樹編、東京新聞
  3. 『生還』羽根田治、山と渓谷社
  4. 『死者は還らず』丸山直樹、山と渓谷社
  5. 『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』羽根田治、山と渓谷社
  6. 『山で死なないために』武田文男、朝日文庫
  7. 『ピッケルを持ったお巡りさん』富山県警察山岳警備隊編、山と渓谷社
  8. 『アルプス交番勤務を命ず』谷口凱夫、山と渓谷社
  9. 『空飛ぶ山岳救助隊』羽根田治、ヤマケイ文庫
  10. 『北アルプス 大日岳の事故と事件』斎藤惇生、ナカニシヤ出版
  11. 『いまだ下山せず!』泉康子、宝島sugoi文庫
  12. 『山に逝ける人々』春日俊吉、森林書房
  13. 『山への祈り』安川茂雄編著、二見書房
  14. 『リーダーは何をしていたか』本多勝一、朝日文庫
  15. 『狼は帰らず』佐藤稔、中公文庫
  16. 『残された山靴』佐藤稔、ヤマケイ文庫
  17. 『みんな山が大好きだった』山際淳司、中公文庫
  18. 『ドキュメント気象遭難』羽根田治、山と渓谷社
  19. 『山の遭難』羽根田治、平凡社新書
  20. 『死のクレバス』ジョー・シンプソン、岩波現代文庫
  21. 『空へ』ジョン・クラカワー、文春文庫
  22. 『K2 嵐の夏』クルト・ディームベルガー、山と渓谷社
  23. 『K2 非情の頂』ジェニファー・ジョーダン、山と渓谷社
  24. 『ミニヤコンカ奇蹟の生還』松田宏也、ヤマケイ文庫
  25. 『生と死のミニャ・コンガ』阿部幹雄、山と渓谷社
  26. 『梅里雪山』小林尚礼、ヤマケイ文庫
  27. 『垂直の記憶』山野井泰史、ヤマケイ文庫
  28. 『凍』沢木耕太郎、新潮文庫
  29. 『エピック われ生還す』クリント・ウィリス、扶桑社セレクト
  30. 『冬のデナリ』西前四郎、福音館文庫

 ガチな登山小説から歴史物、ホラーやファンタジーまで、様々な発想が集まった「山の本」、(わたしも含め)ご堪能あれ。モンベルさん、ヤマケイさん、参加された皆さま、ありがとうございました。

 次のスゴ本オフは、こんなスケジュール。

アイドル
 9/7(土)15:00-20:00
 麹町のKDDI Web Communications さんの6F
 参加費2000円
 [詳細・申込]

Love
 9/29(日)14:00-18:00
 麹町のKDDI Web Communications さんの6F
 参加費2000円
 [詳細・申込]

『ムード・インディゴ うたかたの日々』無料試写会
 「エターナル・サンシャイン」のミシェル・ゴンドリー監督が
 恋愛小説の最高峰ボリス・ヴィアン「うたかたの日々」を映画化

 9/29(日)18:30-21:00
 麹町のKDDI Web Communications さんの6F
 参加費:無料
 [詳細・申込]

トリック&マジック
 10/27(日)15:00-20:00
 麹町のKDDI Web Communications さんの6F
 参加費2000円
 [詳細・申込]

 本を知るだけなら、リアル/ネットショップでできる。だけど、選りすぐりの本に出会えるのは、そして思い入れたっぷり読み手と知り合えるのはスゴ本オフだけ。アンテナの感度と範囲を広げる、よいチャンス。ふるってご参加あれ(楽しい&美味しいゾ)。


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わたしが知らないエロ本は、きっとあなたが読んでいる

「わたしが知らないエロ本は、きっとあなたが読んでいる」を作った。

スゴ本からアダルトなやつを精選していく。エロマンガやグロ小説といった、ダークサイドな奴はここで発酵させてゆく。本を持つ手が焼け爛れ、頁を見る眼が拉がれるような、強烈な趣味ばかりなので、覚悟していらしてくださいませ。

そして、いいのがあったら、そっちで教えてください、ぜひ。

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スゴ本オフ「スポーツ」レポート

 オススメ本をもちよって、まったりアツく、語り合う。

 今回のスゴ本オフは「スポーツ」がテーマ。「本を通じて人を知り、人を通じて本と出合う」とはよく言ったもので、「あの人がこの本を!?」と意外な面を知りうる一方で、「この人のイチオシなら読んでみたい」という鉄板も見つかる。

 よく、「どうやって本を選んでいるんですか?」という質問をもらうのだが、教えてもらってるんです!! こうやって人づてに教わるのです、わたしが知らないスゴ本を読んでいる方から

 自分の感性だけで、書店やネットを渉猟しても限界だ。同じジャンル、似たようなコンセプト、焼き直しの本を何度も手にすることになる。そして、「読むべき本は出尽くした」という結論に至る。「文芸しか知らん、最近の作家はダメ」、「ノンフィクションしか読まない、マンガなんて屑だ」……ネットのおかげでたくさんの、“そういう人”が可視化されている。わたしも“そういう人”だった。偏狭なジャンルを掘って悟った気になっていたが、スゴ本オフのおかげで、自分が作った垣根を越えることができた。

 今回の「スポーツ」というテーマで既読を振り返ると、隠れてた趣味が透けて見える。さらには、「この“スポーツ本”はノーマークだった」という発見がある。小説、ノンフィクション、コミック、映像、エッセイ、実用書まで硬軟が集まる。どれを手にしても発見がある。自分の“食わず嫌い”が炙りだされて面白い。

 まずはこの一覧をご覧あれ。

    ■野球
  • 『甲子園の空に笑え!』川原泉(白泉社文庫)
  • 『スローカーブをもう一球』山際淳司(角川文庫)
  • 『マネー・ボール』マイケル・ルイス(早川書房)
  • 『変愛野球論』桝本壮志(株式会社サンフィールド)
    ■サッカー
  • 『審判目線 面白くてクセになるサッカー観戦術』松崎康弘(講談社)
  • 『僕らの事情』ディヴィッド・ヒル(求龍堂)
    ■テニス
  • 『ベイビーステップ』勝木光(講談社)
  • 『青が散る』宮本輝(文春文庫)
  • 『In & Out』伊達公子(新潮社)
    ■拳法
  • 『謎の拳法を求めて』松田隆智(東京新聞出版局)
  • 『拳児』原作・松田隆智、作画・藤原芳秀(小学館)
  • 『勝つ!ための空手』石井和義(ベースボール・マガジン社)
  • 『実戦拳法 秘門 螳螂拳入門』(日東書院本社)
  • 『本部朝基と山田辰雄研究』小沼保編著(壮神社)
    ■剣道
  • 『六三四の剣』村上もとか(小学館)
  • 『スポーツ小説名作集 時よとまれ、君は美しい』三島由紀夫ほか(角川文庫)
    ■水泳
  • 『夢はかなう』イアン・ソープ(PHP研究所)
  • 『まぶた』小川洋子(新潮文庫)
    ■バスケットボール
  • 『スラムダンク』井上雄彦(集英社)
  • 『マイケル・ジョーダン物語』ボブ・グリーン(集英社)
    ■ロードレース
  • 『サクリファイス』近藤史恵(新潮文庫)
  • 『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイル(小学館文庫)
    ■ボクシング
  • 『マイノリティーの拳 世界チャンピオンの光と闇』林壮一(新潮社)
  • 『敗れざる者たち』沢木耕太郎(文春文庫)
  • 『火を熾す』ジャック・ロンドン(スイッチパブリッシング)
  • 『ミリオンダラー・ベイビー』クリント・イーストウッド監督・製作・主演(ワーナー・ブラザーズ)
    ■フィギュアスケート
  • 『銀のロマンティック…わはは』川原泉(花とゆめCOMICS)
    ■競馬
  • 『優駿』宮本輝(新潮文庫)
    ■レスリング
  • 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也(新潮社)
    ■トレーニング
  • 『奇跡が起きる筋肉トレーニング』ティ・ベイビー(PHP研究所)
  • 『Number Do Early Summer 2013 太らない生活2013』Sports Graphic Number(文藝春秋)

審判目線 着眼点に驚き&納得したのが、『審判目線』(松崎康弘著)。サッカーという競技を、「プレイヤー」や「監督」ではなく「審判」という斬新な目線から分析する。サッカーにおいて審判は、いわばオーケストラの指揮者のような存在だという。PKやオフサイド判断、警告やカードを用いて、サッカーはひとりの審判の意志で運ばれていく。目から鱗、サッカーを観戦する新しい目を手に入れることができる一冊。

敗れざる者たち 光と闇を見せつける作品が、スポーツの現実をつきつける。優勝した者の常套句「夢はかなう」は、数え切れない夢の屍の上に成り立つ。いくら勝っても幸せになれない黒人チャンプの悲惨な現実を描いた『マイノリティーの拳』(林壮一)。一人の勝者を成り立たせるための、圧倒的な敗者の生きざまを描いた傑作『敗れざる者たち』(沢木耕太郎著)。負けることと、敗れることの決定的な違いを教えてくれる。脱落組の暗黒面を描いた『バックストローク』(『まぶた』所収、小川洋子著)は、家族の壊れぐあいが怖い。常に超人的な努力を迫られ、心身ともに追い詰められ、ドーピングに手を染めずにいられなかった元選手の魂の告白に、涙せずにはいられない『シークレット・レース』(タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイル著)。

甲子園の空に笑え 意外だが納得なのは、川原泉の少女コミック。『甲子園の空に笑え!』『銀のロマンティック・・・わはは』は既読なのだが思いつかなかった!ハイスペック&少しずれたキャラクターと、思いもよらない展開と、感動的な結末は、振り返ってみると確かにスポーツの王道なり。ただ、若い人にはまったく通じなかった。川原泉作品は、もう古典なの?

 スゴ本オフの常連さんで、格闘技のプロフェッショナルがいるのだが、そのオススメが濃ゆい。まず、「格闘技はスポーツか?」という命題に、競技化されていればスポーツだという発想が明快だ。ルールが形式化されているか否かによって、武道がスポーツになったり格闘技になったりするのは面白い。『勝つための空手!』(石井和義)は、そんな世の中の教則本への反面教師になるという。競技化されているから、より実践的な「試合の勝ち方」を避けようとする風潮へ強烈なカウンターとなっている。まさに勝つための生々しいノウハウが凝縮されている。

 他にも、K-1を40年先取りした『本部朝基と山田辰雄研究』(小沼保編著)や、武田鉄矢『刑事物語』や『バーチャファイター』のリオン・ラファールの拳法の元となっている『秘門 螳螂拳入門 実践中国拳法』(松田隆智)、中国の田舎武術だった八極拳をメジャーにした『拳児』(原作・松田隆智、作画・藤原芳秀)、さらにはその元ネタの『謎の拳法を求めて』(松田隆智著)が紹介される。松田隆智氏は先日他界されたのだが、スゴい人だったんだなぁ……

 わたしが紹介したのは、『優駿』(宮本輝)。一頭のサラブレッドに夢を託した人たちのヒューマンドラマ。銭金、性欲、権力欲にまみれてる人の様が醜ければ醜いほど、その夢を背負った馬が美しい。馬は、人の思惑から離れたところを走るから美しい。やすゆきさんのツッコミによると、馬は犬と違って、人を認識しないそうだ。乗りこなす人だけを認識する。その特性を生かし、依存症に対するメンタル・セラピーに馬が使われる。馬は、人の過剰な愛情をスルーしてくれる動物なんだそうな。

優駿上優駿下

 ずらり並んだオススメ本&ごちそうをご紹介。子づれの関係で早退してしまったが、もっと聞きたかった……お泊り会形式か、早い時間に終われるよう、時間調整しよう。

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